第105話 呼び名どうする?
ラキに威圧を使ってもらうことで、面倒そうな魔物は回避することが出来た。
ホーホーが狩るべき獲物を選別し、その対象でなければラキが威圧で排除する。
これで上手く回るようになり、進行速度が上がった。
オークは肉として売れそうなので、ラキにも参加してもらって狩る。
オークが食べられるのは料理神の加護を持つ
ゴブリンは毒で食えない、オークは美味いというのは、その鑑定結果によるものだ。
ゴブリンは妖怪的な悪鬼から派生したもので、オークは豚が魔素で二足歩行に進化したようなものという違いらしい。
街道に出ると、一気に速度が上がった。
「ここからは言動に注意してね、
まだ俺たちが召喚者だとはこの世界の人に知られたくない」
「この世界の人が召喚者に友好的か判らないからなのね?」
「そう。利用されて戦場に送られるなんて嫌だからね」
「となると私はメガネちゃんが拙いと思うよ」
結衣が言うには、メガネそのものが存在しない=召喚者とバレるという話だった。
「たしかに、メガネちゃんと呼ぶのも問題かも」
そう言う裁縫女子は、あだ名で良いのかと思ったが、裁縫という名前をつけられている女子がこの世界にいないとも限らない。
上手く翻訳機能が働けば、下手に本名で呼ぶよりも安全かもしれない。
本名も同様に翻訳されて意味が通じれば良いが、翻訳されなければその音がこの世界には無い珍しい響きかもしれないし……。
「私は
メガネ女子の名前は瞳美だったようだ。
これで3人目の本名ゲットだ。
「もし響きで伝わったらどうするの。
ここは名前を極力呼ばないようにするべきよ」
裁縫女子の提案も尤もなので、全員で名前を呼び合わないことを徹底することにした。
「すまないが、瞳美ちゃんはメガネを外して欲しい。
この世界にはメガネが存在しない可能性がある」
「でも、それじゃせっかく来たのに本が選べないよ」
「そこは街の人達を観察してメガネを使っていれば解禁かな。
さすがに危険は冒せないよ」
「わかった」
そう言うと瞳美ちゃんはメガネを外した。
「あれ? 見える」
どうやら異世界転移特典で目が良くなっていたらしい。
その状態で度の入ったメガネをかけても問題ないというのは、視力が戻ったというより、魔法により視力が補助されているという感じなのだろう。
裸眼なら、その見えない分が補助され、メガネならばそれにより良くなった分を差し引いて補助される。
なので、瞳美ちゃん本人も気付かなかったのだろう。
というか、瞳美ちゃんの瞳は、その名の通り美しかった。
メガネを外すと地味子が美人というパターンじゃないか!
そしてついに街まで辿り着いたのは、昼を回った夕方に近い時間だった。
あれだけ気を張っていたのが噓のように、街門は普通に通過できた。
どうやら荷台に売り物の荷物がなければ、商売目的とみなされずに登録は不要のようだ。
「まず宿を借りないと今日寝る場所が無いぞ」
街の中を進むと宿屋の看板が並んでいた。
「ここで良いか?」
「そうね。綺麗にしてるしね」
その中でも宿の前に花を植えてあったり、綺麗にしている宿に決める。
騎獣や獣車を停める厩や駐車スペースもある。
外観も可愛い感じで、たぶん女性受けを狙っている宿に違いない。
荒くれ者が敬遠しそうな雰囲気だけでも良い感じだ。
宿屋の前にチョコ丸とひっぽくんの獣車を停める。
ひっぽくんの獣車の見張りに瞳美ちゃん、裁縫女子を残す。
チョコ丸は
俺と結衣で宿屋に入ると、そこは食事を提供する店を兼業しているようで、レストラン部分と宿屋部分に分かれていた。
俺たちは宿屋部分のカウンターに向かう。
そこにはいかにも宿屋の女将といった恰幅の良い女性がいた。
そのカウンターは裏が厨房と繋がっているようで、俺たちが入って来た気配を感じて、そちらから移動して来たようだ。
女将がしているエプロンが、いかにも厨房の中にいたという佇まいだった。
「5人なんだが、泊まれるか?
あと騎獣2頭に獣車も停めたい」
「1人半銀貨1枚食事別、食事が必要ならば夕飯と翌朝食分で銅貨10枚だ。
騎獣1頭銅貨10枚、獣車の駐車代が銅貨10枚になるけど良いかい?
あと、部屋は2人部屋と3人部屋になるけど構わないか?」
この世界、移動手段である馬、騎獣、馬車、獣車などを停められる厩を待つ宿屋が当たり前だった。
厩には見張りが常駐していて料金がかかるが、窃盗被害などが起きないための保険と思えば安いものだ。
しかし、2人部屋と3人部屋だって?
ちょっと待て、女子4人に俺だぞ?
つまり誰か1人が俺と一緒ということだ。
「構いません。食事も付けてください」
ちょっと結衣さん、良いのですか?
これは今晩……。いや、なんでもない。
俺が誘惑に抗えば良いのだ。
「あいよ。銀貨3枚に銅貨30枚ね。
先払いで頼むよ」
「じゃあ、これで」
食事つき1人6千円と考えれば安い感じもするが、この世界では高い方かもしれない。
まあ、330Gと考えれば、素材を売った金がまだ50万G以上ある。
連泊しても問題ない。
「こいつが宿を借りている証と部屋の鍵になる」
そう言うと、女将はカードのようなものを2枚差し出した。
そこには宿屋の名前と部屋番号、そして宿泊可能人数が表示されていた。
つまり、2人部屋と3人部屋という記述だ。
それは魔法的な道具のようだ。
これは高価なものでは?
「心配しなさんな。失くしたら泊まれなくなるだけだから。
そいつは決して高い道具じゃない。
弁償しろとは言わないが、泊まれないぐらいの罰は受けてもらうよ」
そう言うと女将はガハハと笑った。
どこまで本気かわからないがお約束のジョークのようだ。
ラノベで宿屋に金を払って確保し、そのまま出かける描写があるが、後で知らんと言われたらどうするのだろうと思っていた。
世知辛い世の中を描いているのに、宿屋だけ口約束で信用出来るなんて不思議だと思っていたのだ。
現実は、しっかり魔法の道具で管理されていた。
これって日本でのカードキーと同じようなシステムだよね。
「お待たせ。無事部屋が取れたよ。
ひっぽくんたちを厩に預けて買い物に出かけようか」
宿屋に部屋を確保したので、宿屋の裏の厩にチョコ丸とひっぽくんの獣車を預けに行く。
ご飯も出るらしく、むしろあのお金はチョコ丸とひっぽくんの宿代と言っても良いだろう。
「あまり日も高くないから、1か所ぐらいしか行けないかもしれない。
とりあえず、全員行動が無難だと思う。どこに行こうか?」
「この時間ならば、市場は止めた方が良さそうね」
結衣が言うには市場は午前中に新鮮な荷が集まるだろうということだった。
この世界、夜間の移動は魔物の存在も有って自殺行為だ。
農民たちは朝一で採った野菜を荷車で引き、それが街に到着するのが午前中だろうということだった。
生鮮食品以外の物ならば見て回れるが、二度手間だと思うと明日で良いということだった。
「僕も剣は逃げないから明日で良い」
紗希も今日中に拘っていなかった。
「私もじっくり見たいし」
瞳美ちゃんの本屋巡りは長くなりそうだ。
前回、彼女へのお土産が無かったから、長くても付き合うしかない。
もしかすると2泊になりそうだ。
「じゃあ、私の用事をと言いたいけど、私も時間が欲しいのよね。
なので、ひっぽくんの革紐を見に行こうよ」
裁縫女子、ひっぽくんの革紐は裁縫女子が作るはずじゃなかったのか?
まあ、彼女とクモクモには女子たちの服を作ってもらうという仕事があるから仕方ないか。
それに、材料の革を買って帰る途中で革紐が使い物にならなくなるという事態も想定できる。
ここは新品を買うというのも有りだな。
「たしかに、ボロ革紐が心配ではあるな」
「でしょ? それで決まりね」
こうして初日はひっぽくんの革紐購入で終了した。
地走竜で幌式の獣車用と指定するだけで簡単に購入できた。
ひっぽくんに合わせるのはチョコ丸と同じ方法なので問題ない。
俺たちは、その買い物だけで宿へと帰って来た。
夕食付きを頼んだので、それを食べるためでもある。
そして、ドキドキの夜がやって来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます