温泉に住もう

第71話 温泉に住む?

「嬉しいなぁ。眷属か~」


 さっきから三つ編み女子のニヤニヤが止まらない。

眷属の所持は、本来は召喚士かテイマーしか出来ないらしい。

俺はたまご召喚が出来るため、召喚士ということになるようだが、ステータス上はそんなジョブや称号は持っていない。

隠れステータスなのだろうか?


「そうだ、眷属とは念話が出来るんだよね?」


 三つ編み女子が興味津々で水トカゲと念話を繋げようとしている。

相手はトカゲなので、ハッキリした意志は伝わらないけどな。

ラキやクモクモになるとなんとなく感情が理解出来るんだけど、水トカゲは念話で周囲の音が聞けるぐらいしか出来ないと思う。


 あ! そうだった。念話が出来るとわかれば、次は視覚共有が出来るとバレてしまうじゃないか!

眷属譲渡はしくじったか!?


「あれ? 念話は出来ないみたい?」


 三つ編み女子が小首を傾げて念話が出来ないと言う。

助かった。どうやら召喚士かテイマーでないと念話や視覚共有は出来ないらしい。

眷属譲渡を受けた者は、眷属の能力を利用できるだけで、強いパスを必要とする念話や視覚共有は使えないらしい。

もし視覚共有がバレたら、ラキを通して風呂を覗いたと責められるところだった。

危ない危ない。


「どうやら、そこまで強固な繋がりの眷属ではないみたいだね」


「うーん、それだと水トカゲの能力は貸りてる間も使えてたから微妙かも」


 まあ眷属化したデメリットは無いようだから許して欲しい。


 ◇


 翌日、マドンナの要求を考慮して温泉に向かうことになった。

ゴーレム――命名ゴラムが土魔法で建物を建築できるようなので、いろいろ建てるためだ。


「絶対に覗くなよ!」


「いや、脱衣所や壁を造ろうとゴラムを連れて来たんだから、そんなことする訳ないじゃないか」


「どうなんだか!」


「近くにいるだけでちょっとね……気を使って欲しいな」


 バスケ部女子、裁縫女子、バレー部女子は俺に対して懐疑派のようだ。


「少しぐらい見えても僕はかまわないよ。減るもんじゃないし」


「私はもう見られてるし……」


「転校生くん、見せてあげようか?」


 サッカー部女子、三つ編み女子、腐ーちゃんは見られても良い派。

見られても良い派って何だ?

腐ーちゃん、見せなくて良い。


 マドンナとメガネ女子は顔を赤くしているだけで態度を示さない。

消極的だけど見えちゃったなら仕方ない派か?

パラダイスが、直ぐそこに……。

いや、懐疑派が確信派になってしまうな。


「わかったよ。なら、今日はゴラムの仕事だけで温泉に入るの無しね」


「「「「えーーーーーーーーーーー」」」」


 見られたくないけど入りたい。

傍に居て欲しくないけど護衛に来て欲しい。

女子の心理はよくわからん。


 ◇


「どう? ここが私たちが見つけた温泉だよ」


 マドンナが自慢げに温泉を紹介する。

マドンナはお風呂大好きっぽいもんな。

ここを見つけたことがよっぽど嬉しかったのだろう。


 一度ラキの視覚共有で見ているけど、その時は一部しか視界が無かったこともあって、肉眼で見るとかなり印象が違う。

なんかこう、明らかに人工的な場所だった。


「これって人工物だよね?

造りは古そうなのに、手入れされている形跡がある。

誰かの所有物で管理されてる可能性はないのか?」


 もしそうならば、下手に脱衣所などを建ててはまずい。

現地人とトラブルになればどのような結末が待っているかわからない。

何しろ俺たちは、この世界、この国の法律すら知らないのだ。

知らないうちに罪を犯す可能性は十分にある。


「湯舟の中のごみは魔法で自動的に掃除されるみたいよ?」


 腐ーちゃんが湯舟の中を示して言う。

腐ーちゃんの指さす先――湯舟の淵には魔法陣があって、底へとラインが繋がっていて現在も稼働中のようだ。

ゴミとりと温度調整でもしているのだろうか?


「それと、ここを見て」


 マドンナが示したのは、壊れてそのまま長い年月放置されたと思われる壁だった。


「ここ、鏡の欠片と蛇口が付いたままでしょ。

もし誰かが管理していたならば、ここを直すんじゃなくて?」


 その壁は洗い場の壁だったのだろう。

それこそが、この温泉が放置されて長い年月が経っている証拠だった。


「確かに放置施設っぽいね。

ならば、ここを壁で囲んで、脱衣所を建ててしまおう。

洗い場は配管を調べてから直す必要があるから後回しね」


「ならば、脱衣所は……」


 女子の要求は細かかった。

だが、そんな要求もゴラムの土魔法と建築のスキルで簡単に実現してしまった。


「まさか、こんなに簡単に、しかも完璧に出来るなんて……」


 それはゴラムが20cmから2mになった時のように、土が盛り上がってゴラムの身体の一部となり、そこから建物が形成されて、切り離されると完成しているという感じだった。


「すごい。ロッカーがあるし、洗面台や化粧スペースもある」


 洗面台の水はまだ引いていない。

化粧なんてこのサバイバル生活では無縁なのに……。

いつかはという願望があるんだろうな。


「ねえ、転校生くん。

ゴラムちゃんの力ならば、こっちに家を建てられない?

いちいち温泉に来るよりも、ここに安全な家を建てれば移動時間が節約できるわ」


 マドンナさん、確かに出来そうだけど、ここに永住するつもりですか?

街に行っても風呂が無いかもと言ったから、ある場所に住もうとしてます?

でも家を建てると家から湯舟が丸見えになりますよ?

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