第49話 私の存在価値が!
拠点の外のオープンな場所にやって来た。
三つ編み女子から砥石を借りた裁縫女子は、水トカゲに水を出してもらいながら、一気にゴブリンナイフを研いだ。
それは裁縫神の加護により正に神がかった姿だった
一心不乱に研いだ結果、ゴブリンナイフの先は両刃となっており、その刃先で布の裁断が可能となっていた。
裁縫女子はそこらに転がっている丸太の方に歩んで行った。
拠点で使う椅子やテーブルを作ろうと、切り出して皮を剥いでおいた丸太だ。
身体強化で丸太程度は簡単に剣で切り倒すことが出来るのだ。
裁縫女子はその上に布を広げ、ゴブリンナイフをあてた。
シュッ!
裁縫女子が布に刃先をあて滑らせると、綺麗な曲線で布が切れた。
そして、裁縫女子はゴブリンナイフの刃先をじっと見る。
「何回か使ったら、また研がないとだめね。
となると、いつまでも借りているわけにはいかないから砥石が欲しいわね」
たしかその砥石は土トカゲが土魔法で生成したものだ。
「土トカゲ、砥石を」
俺が命じると、裁縫女子の手元にゴトリと砥石が落ちて来た。
「ありがとう。土トカゲちゃん」
いや、俺が命じたんだけど。
まあ、これは裁縫女子の照れ隠しだろう。
「あと、綺麗に裁断するには平らなテーブルがいるわね」
どうやら俺たちの文明的な生活のためには、越えなければならない壁がいくつもあるようだ。
ゴブリンナイフの試し切りが終わった裁縫女子は、ゴブリンナイフの欠片を手にした。
これを細く研いで針を作ろうというのだ。
「穴をあけるなら、この状態で開けておいたほうが良さそうね」
たしかに、細い針に穴を開けるよりも、大きな金属の真ん中に開けてその周囲を研いで細くした方がやりやすそうだ。
しかし、金属に穴を開けるには、その金属より硬い物質を刃先にした錐なんかで削るしかない。
そんなものは此処には無かった。
つんつん
俺の足をクモクモがつつく。
「どうしたクモクモ?」
どうやら「何やってるの?」と訊いているようだ。
「針に穴を開けたいんだよ」
クモクモはそれを理解したのか、「これ?」というように右前足で金属片を示した。
「そうだ。針は知ってるのか?」
クモクモはコクコクと頷く。
やはり、クモクモ、相当頭が良い。
そしてクモクモは予備動作なしに、その金属片に右前足を振り下ろした。
キン!
「え? 何?」
裁縫女子も戸惑う。
しかし、次の瞬間驚愕の表情を浮かべる。
「うそ! 穴が綺麗に開いてる」
そこには針として使うのに最適な、小さな小さな穴が開いていた。
場所も針の後部にあたる位置でバッチリだった。
クモクモは得意になって体を揺らしている。
喜びのダンスだろうか?
クモクモのおかげで、針の穴開けは簡単に終えることが出来た。
「それにしても、クモクモはよく針なんて知っていたな」
クモクモがシュタっと上げた右前足の先には……。
「おまえ、それ……」
どう見ても針だった。
しかも蜘蛛糸が後ろに繋がっている。
どうやらクモクモは裁縫も出来たらしい。
しかも、その針であのゴブリンナイフの欠片に穴を開けたようだ。
それを顔をギギギと動かし横目で見ていたのは……。
一心不乱に針を研ぎ始めていた裁縫女子だった。
「針っていっぱいあるのか?」
そう訊かれたクモクモは前足4本を挙げて、全ての足先から針を出した。
その尖った足先でどのように針を保持しているのか……蜘蛛の粘着糸でした。
そして、自らの体毛を使って針を作る実演をした。
「訊ねなかった俺も悪いが、まさか針も作れるなんて……」
クモクモは裁縫が得意だった。
その前足2本の先で布も裁断できるし、4本の前足で布も縫えるそうです。
「うわーーーーーーーーーーーーーーん!!」
その努力が一切無駄になった裁縫女子が泣き叫んだ。
裁縫女子の存在価値をクモクモが上回った瞬間だったのだ。
「私の存在価値が!」
だからクモクモは頭が良いからと話せと……。
女子がクモクモたちを拠点から遠ざけたツケが回ったんだぞ。
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