第43話 助けに行く

 委員長が帰って来なかったために、拠点内には沈鬱な空気が流れていた。


「まだ死んだとは決まってないから、助けに行った方が良いんじゃないかな」


 貴坊がそう提案する。

最悪の事態は頭にあるが、助けに行ったという免罪符が欲しいのだろうか。


「誰が助けに行くんだよ!」


 しかし、男子チームの誰もがそれが不可能なことを身をもって体験していた。

それほどウルフの恐怖は根強かったのだ。

しかも、誰もが心の中では無駄だと思っているのだ。


「そうだ、あの恐怖、俺たちが助かったのは委員長がウルフどもを引き付けてくれたおかげなんだぞ」


 男子チーム最強の呼び声も高いノブちんであってもウルフに怯えていた。


「あのウルフに対抗できる奴なんて……。 あっ!」


 そう言う雅やんと俺は目が合ってしまった。


「転校生は、熊を倒しているよね?」


 雅やんの一言に男子チームが一斉に俺の方を向いた。

そういえば熊と遭遇しても熊を倒して生還した奴がいたわという目だ。

俺の存在を忘れがちになったり、ないがしろにしていたくせに、都合の良い時には思い出すんだな。

それに女子チームも乗っかって来る。


「転校生くん、見て来てくれない?」


 マドンナが軽くお遣いにでも行って来てという雰囲気でお願いしてくる。

その手を合わせて上目遣いで頼む仕草は、平時ならば誰もが頷きを返したことだろう。

だが、待て。今のは命を天秤にかけたお願いなんだぞ?

自分たちで危ないと言っていたウルフの巣窟に、俺を向かわせようというのだ。

ずいぶん身勝手な話だ。


「この中で一番レベルが高いのって、転校生くんだよね?」


 それを理由に有無を言わせず行かせる気か!


「ちょっと待って、どうして転校生くん一人に押し付けるのよ!」


「そうね、行くなら複数で行くべきだわ。

例えばレベルの高い人から数人とか」


 メガネ女子、なんて優しい子なんだろう。

それと三つ編み女子、ナイスフォロー。


 二人の意見を考慮すると、ノブちんや雅やんも捜索メンバーに引っかかってくる。

彼らは思わず首を横に振って拒絶の意志を示す。


「委員長の頭脳ならば、うまくやって自力で帰って来れるかもしれない」


「そうだな、それを待ってからでも遅くはないかも」


 ノブちんと雅やんが掌を返して委員長捜索に消極的になった。

どうやら自分たち自身が危険を冒すつもりは毛頭なかったようだ。

無駄だと思っていても、見捨てたとは思われたくない。

だが自分たちが捜索に行きたくはないという感じか。

つまり俺ならば良いということであり、何だか引っかかりを覚える。


「まあ、このまま見捨てるのも寝覚めが悪いから軽く捜索はしてみるよ。

ただ、それなら回復役でマドンナさんには来てもらいたいけどね」


 俺は妥協案を示す。

この集団の中で回復魔法が使えるマドンナは貴重な存在だ。

マドンナを危険に晒してまで捜索しようなんて思うやつはいないだろう。

つまり、これで俺も捜索に出なくて良いということになる……はずだった。


「わかったわ。一緒に行きましょう」


「は?」


 そこでマドンナが承諾するという事態を俺は想定していなかった。

同級生たちも許すわけがないのだ。


「それで安心なら構わないんじゃないか」


 女子筆頭のバスケ部女子が何故か同意する。

それはどういった意図があるのでしょうか?


「なら決まりね」


 マドンナの同行が承諾され、何故か俺は委員長の捜索に出ざるを得なくなってしまっていた。

むしろマドンナがいると、守ってあげないとならなくなって、単独行動よりも面倒くさいんだけど。

それも俺が断られる前提で提案したせいなんだが……。

なぜかマドンナは捜索に行く気満々だった。

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