第37話 女子と遠征
コッケココーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
翌日、なぜかヒヨコが鶏になっていた。
その鶏が朝日が昇ると共に大声で鳴き始める。
目覚ましになるとはいえ、なかなか五月蠅いものがある。
まあ、俺は見張りが四交代遅番の早朝勤務だから関係ないんだけどね。
三番目担当の委員長の組は、交代して寝入ったばかりを起こされてさぞ迷惑なことだろう。
しかし、よく鳴くのは雄鶏だ。嫌な予感しかしない。
「こいつ食っちゃおうぜ」
委員長が殺意の籠った眼で雄鶏を睨みつける。
「まあまあ、雄鶏が居ないと鶏を増やせないじゃないか」
養鶏担当の貴坊が委員長を止める。
彼も多少は鶏に愛情を注いでいるのだろう。
俺が受精卵を出し続けるという手もあるが、それでは本末転倒だろう。
「まあ、もう少し育って受精卵を産んだら、親世代の一部は肉にしても良いけどね」
違った。養鶏としての効率を考えているだけだった。
次のヒヨコが孵ったら、親世代はお肉決定だ。
貴坊も田舎の子だ。鶏を絞めて食べるのに何の躊躇も無かった。
「さて、今日は2チームに分かれてレベルアップ遠征をするぞ。
場所はどうする?」
「
昨日のウルフが居座っていたら危険だからね」
俺があえてそう言ったのは、委員長チームにもウルフの危険性を念押しするためだ。
下手すると委員長は旧キャンプ地へと行く気かもしれないからだ。
彼は何も考えずに行動しかねない危うさがあるのだ。
「そうだったね。じゃあ今日は旧キャンプ地は避けようか」
委員長の目が泳いでいる。
たぶん旧キャンプ地に行く気だったな。
わざわざ指摘しておいて良かったわ。
「くれぐれも安全第一で頼むよ?」
バスケ部女子も委員長に念押しをする。
どんだけ信用がないのだろうか。
ここに来て委員長のリーダーとしての立場が崩れかけて来ている。
「わかっているさ。今回は弱いゴブリンしか相手にしないと約束しよう」
バスケ部女子の睨みに委員長が折れた瞬間だった。
これでこの拠点の実質的なリーダーはバスケ部女子になった。
え? 俺? 男子支持率最低なので無理です。
どうやら、女子が俺を頼りにしたことで男子の妬みを買ったようだ。
「じゃあ、出発! レベル4に上がったら帰るように」
委員長も今日は無理はしないつもりのようだ。
◇
委員長チームの動向が気になるが、別行動の俺たちは気にしているどころではなかった。
知らない土地を探索するのは、ある意味ウルフがいるかもしれない狩場に向かうよりも危険だったのだ。
俺はずっと一人で周囲を警戒し続けなければならなかった。
このパーティー、戦えるのは、俺と腐ーちゃんだけ。
メガネ女子、三つ編み女子、裁縫女子の3人は非戦闘職だった。
しかも彼女たちのギフトスキルによる好奇心が、森の中で爆発したもんだから、あっち行ったりこっち行ったりと大変だったのだ。
料理に使える植物を発見してあっちへ。生産に使える植物素材をみつけてこっちへ。
珍しい鉱物を発見して向こうへ。
その都度、俺は安全確保のために周囲を警戒して回らなければならなかった。
「やった! 岩塩をみつけたわ!」
三つ編み女子が喜びの声を発したのは岩塩をみつけたからだ。
岩塩は、塩味という重要な味覚を齎すのに加え、身体に必要なミネラルも含んでいる。
ただの塩の塊ではないのだ。
今の俺たちにはお金以上に貴重な品だった。
これで拠点にいるメンバーの健康にも良い影響が出ることだろう。
「止まって!」
そう俺が声をかけたのは、小規模なゴブリンの群を見つけたからだった。
その数10体。大きさも普通なので、格好のターゲットだった。
しかも、こちらに気付くことなく一か所に固まっている。
どうやら、自然死した魔物の死骸を漁っているようだ。
「腐ーちゃん、腐食魔法は空中には出せないの?」
俺はゴブリンを無力化して連れていくことを考えていた。
「空中に出すと拡散して味方が危なくなるんだよね~」
「なるほど、ならばいつものように足元をやっちゃて」
「了~解~い」
そう間延びした声で答えると、腐ーちゃんは素早く腐食魔法を使った。
言動と行動の早さが違いすぎる。
ぐぎゃ ぐぎゃ----------------!!!
ゴブリンどもが足をやられて倒れ込む。
「よし、止めだ!」
俺はゴブリン共を仰向けにすると、短剣をメガネ女子に握らせた。
彼女だけがレベル2だったので、5体倒させてレベル4にするつもりだった。
「えー、私から?」
「早くしないと、他の魔物が血の臭いで来てしまうからな」
メガネ女子はかなり躊躇したが、俺がそう脅すと慌てて実行に移った。
誰かの迷惑になると思った瞬間に躊躇がなくなったのは、メガネ女子の性格故だろうか。
「レベル4にアップした」
「よし、ガンバったな」
思わず俺はメガネ女子の頭をナデナデしてしまった。
拙い。事によってはこれはセクハラ案件となる。
俺は恐る恐るメガネ女子の顔を覗いたが、嫌がっている素振りはなかった。
セーフ。俺は胸をなでおろして安堵した。
「次は腐ーちゃん、行こうか?」
腐ーちゃんには魔法を行使したおかげで、多少の経験値が入っているはずだった。
1体、いや2体でレベル4になるだろう。
「わかった。えい」
腐ーちゃんは躊躇なく2体のゴブリンを刺した。
「レベルアップした」
どうやら見込み通りに2体でレベルアップしたようだ。
すると腐ーちゃんは、俺に頭を向けてきた。
「なんだそれは?」
「え~? 撫でてくれないの~?」
どうやらメガネ女子のように撫でろということらしい。
相手が要求したならば、それはセクハラではない。
撫でておこう。
腐ーちゃんはニヘラと笑うと短剣を俺に返した。
「次、三つ編み女子か裁縫女子ね」
「私が」
そう言うと裁縫女子が前に出た。
どうやら二人で予め順番を決めていたらしい。
裁縫女子もサクッとレベルアップした。
俺はまた撫でるのかと右手を挙げたのだが、裁縫女子はそのまま離れて行った。
女子の行動原理は良くわからん。
「じゃあ、次の獲物を探しに行く。
あと5体みつけよう」
「え? 3体じゃなくて?」
次が順番の三つ編み女子が不思議そうな顔をする。
彼女の分であれば3体で良いからだ。
「ああ、2体は捕まえてバレー部女子のお土産にするんだよ。
彼女だけレベル2なのは可哀そうだからね。
ただ、レベル4にするためのゴブリンは5体だから、それは運べないと思ってね。
だから2体にしたんだよ」
「なるほどー」
三つ編み女子も納得してくれたので、俺はゴブリンの探索にうつった。
◇
暫くして、目的となる5体以上の群を発見した。
合計8体の群だった。
「ああ、1体は特殊個体っぽいね。
俺は、自らの身体に身体強化をかけると、一気にゴブリンの群に斬り込んだ。
正面の特殊個体の首を跳ね、その左右のゴブリンは腹パンで倒す。
そして、状況を見ながら2体は殺し、3体は脚を斬って動けなくした。
「三つ編み女子、あっちの3体をサクッとやっちゃおう」
「はい」
三つ編み女子も躊躇なくゴブリンを倒した。
その胸にはラキが収まっている。
どうやらラキはそこが気に入ったらしい。
うらやまけしからん。
「こっちの気絶しているゴブリンには縄をかけて拠点まで連れて行く。
さあ、帰ろうか」
そう言って帰ろうとしたら、三つ編み女子が頬をぷーっと膨らませていた。
理由がわかりません。俺、何の地雷を踏んだんだろう?
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