第28話 レベル上げ遠征

 委員長の提案により、レベル上げが行われることになった。

狩場は、ここから徒歩1時間離れた旧キャンプ地。

あそこには、ゴブリンの死骸の他、四腕熊よつうでぐまと戦ったグレーウルフの死骸もあるはずだった。

それを漁るために、他の魔物が寄ってきているはずだった。

あわよくば、グレーウルフの毛皮を回収して拠点に敷きたいという思惑もあった。


「レベル上げは全体の半分の8人で行動します」


 孵ったヒヨコがピヨピヨ鳴く中、委員長が宣言した。

鶏の卵は無事半日で孵ったのだ。

ヒヨコは拠点の中を我が物顔で走り回っている。

だが、ヒヨコはそこら中で糞をするぞ。

それが臭い始めたら、この拠点も居心地が……。

え? 【クリーン】をかけろ?

その手があったか。また俺だけが苦労するのね。


 その間も委員長の演説は続く。


「最初の8人は、丸くん、永ちゃん、雅やん、メガネちゃん、サッカーちゃん、腐ーちゃん、裁縫ちゃんだ」


「委員長、一人足りないよ?」


 メガネ女子が突っ込む。

俺のことを心配してくれるのはメガネ女子とあと2人だけだ。


「ああ、それと転校生くん」


 委員長よ。また俺の存在を忘れていたか。

あれだけ貢献してるのにどういうことだ?

ああ、俺じゃなく俺の眷属が貢献してるという印象なのね。


「危なかったら逃げるように」


 そもそも俺は四腕熊よつうでぐまとの戦闘で武器である短剣を折っているんだが?

しょうがない。土トカゲにこん棒でも作ってもらおう。

ゴブリンのこん棒が余っていたのだが、拠点への移動中に荷物になるので余剰武器は放棄していたのだ。

土器のこん棒だが、なんとかなるだろう。


 こうして俺たち8人は、レベル上げのために旧キャンプ地へと向かった。



 ◇



 旧キャンプ地へと風下から回ると、そこにはゴブリンが10体ほどで死肉を漁っていた。


「腐ーちゃん、腐食魔法でやれる?」


 ここは丸くんが指揮をとるようだ。

前回ゴブリンを行動不能にした腐ーちゃんの魔法で楽に狩ろうというのだろう。


「うーん、散らばってるから半分かな?」


「それで十分。やっちゃって」


「わかった。【腐食魔法】!」


 腐ーちゃんが魔法を唱えると、ゴブリンたちの足元が紫の霧に覆われ、その足首を腐食した。


ギギギ ギャーッ!


 ゴブリンの悲鳴が上がる。

そのせいで残りのゴブリンが襲撃に気付く。

しかし、同級生の誰も動こうとしない。

俺のレベルだとゴブリンを倒してしまうので、俺は丸くんの指揮に丸投げしていた。

まさかのノープラン。次の行動の指揮を丸くんはしようとしない。


「丸くん。みつかっちゃったよ?」


 俺の指摘で丸くんが慌てて指示を出す。


「みんな、残り4匹だ。2人一組で倒すんだ」


 誰と誰が組むんだろうか?

皆が顔を見合わせてしまった。

仕方ない。この中でレベルが一番高い俺がおぜん立てしよう。


 俺は一人飛び出すと、ゴブリンの脚めがけて土トカゲ製のこん棒を振り下ろした。


ボキッ!


 その音はゴブリンの脚の骨を砕いた音でもあり、こん棒の折れる音でもあった。


「こん棒なら質量で使えると思ったが、ダメだったか!」


 土トカゲの土器は、陶器のようなセラミックではなく、素焼きの植木鉢に近い。

生活の実用には耐えるが、戦闘には耐えられなかった。

明らかに強度不足だったのだ。

そのため釘や鋸、金槌への代用は見送られたのだった。


「皆は?」


 ゴブリンはあと3体いるが、誰も動き出していなかった。

俺は慌てて脚を折ったゴブリンから短剣を奪うと次のゴブリンに襲い掛かった。

次も殺さずに脚狙いだ。

なぜならば、同級生にとどめを刺させて、レベルアップさせなければならないからだ。


ザン!


 短剣は錆びていたが、俺の身体強化とレベルによるステータス強化で、ゴブリンの脚をいとも簡単に両断する。

また1体のゴブリンが戦闘不能となる。


 残り2体のゴブリンは俺の突出した位置を超えて同級生の目の前まで迫っていた。


「既に8体のゴブリンを戦闘不能にしているから、殺しても良いか」


 俺は振り返ってダッシュ。ゴブリンを背中から切りつけ殺した。

続けてもう1体を返す剣で切り倒した。こいつはギリギリ生きてそうだ。


 同級生たちは、身体強化が使えるようになったとはいえ、ゴブリンと直接戦った経験があるのは雅やんとサッカー部女子のみ。

その他の同級生は戦闘未経験で立ち尽くすだけだった。

その弱そうな同級生をゴブリンはわざわざ狙っているのだ。

丸くんは、予めコンビを決めるなどせずに2人組を要求した。

その混乱に乗じてゴブリンは弱そうな相手に攻撃を仕掛けてきたのだ。


「危なかった。とりあえず殺さないように努力したが、1体は殺してしまった。すまないな」


「ああ、構わないよ。助かった」


 丸くんは自分の指揮の拙さが招いた危機に放心状態のままそう言った。


「次からは転校生くんに指揮してもらった方が良いわね」


 メガネ女子の提案に、丸くん含めた全員が頷いた。


「そうか、ならば、戦闘不能にしたゴブリンにとどめを刺してレベルアップだ。

レベル2になっていると2体倒さないとレベルアップしない。

今回は9体いるから1人で2体にとどめを刺してレベルアップした方が良いだろう。

まず戦闘組の雅やんとサッカーちゃんを優先するけど、構わないよね?」


 この世界、どうやらパーティーによる経験値の分配というものはなく、攻撃に参加したあるいはとどめを刺すことで経験値が入るようだ。

つまり、どんな状況であろうとも最後にとどめを刺すと、一番経験値が入るようなのだ。


「そうよね。その方が後で安全に狩りが出来そうだものね」


 メガネ女子が俺の意見に同意してくれた。フォロー助かる。

その後押しに納得したのか全員が俺の提案に頷いた。


「では、他の魔物が寄ってくる前にサクッとやっておこう」


 短剣は俺が拾ったものの他、サッカー部女子が持っていた。

その2本で別々に行動してもらう。

俺はゴブリンから武器を奪いひっくり返していき、安全を確保してから2人に刺すように指示した。


「やるわよ」


 サッカー部女子が決意を込めてゴブリンにとどめを刺す。

胸に短剣をあてて体重をかけるだけの簡単なお仕事だ。

サッカー部女子は躊躇なくゴブリン2体を仕留めた。


「僕も終わった」


 雅やんも仕留めたようだ。


「どうだい?」


「レベル3になった!」「僕も!」


 サッカー部女子も雅やんも無事にレベルアップ出来たようだ。


「あと5体だが、どうする?

先にレベルアップしておくか、1体ずつで経験値を上げておくか?」


 戦力的には先にレベルアップした方が良いのだが、公平性から見ると自分だけ経験値がもらえないという不公平感を感じる者も出かねなかった。


「そこはレベルアップした方が良いでしょ」


 丸くんがレベルアップを主張した。


「ならば、腐ーちゃんと栄ちゃんにレベルアップしてもらう」


 俺はあえて2人を指名した。


「腐ーちゃんの【腐食魔法】のレベルが上がれば、もっと有効な攻撃手段になる。

栄ちゃんの【植物鑑定】もレベルが上がれば、食料の鑑定に貢献できるはずだ」


 俺の理由説明に、皆納得するしかなかった。

そして2人がレベルアップをはかり、そして成功した。


「残り1体は裁縫ちゃんに。

彼女は前回レベルアップしていない。

皆の中でたった一人レベル1だったんだ」


 裁縫女子は、そのスキルにより後回しになってしまっていた。

こんなサバイバル状態で道具もない裁縫など、役に立たないと委員長に判断されたのだ。


「ありがとう。転校生君。また後回しかと思ったよ」


 裁縫女子は、自分のスキルが役立たずと思われていることで、少々落ち込んでいた。

今回も他の人が優先されるのだろうと思っていた。

なので最後の1体が自分に割り振られてとても喜んだ。

彼女は生き物を殺すことに躊躇いがあったが、レベルアップのため、ゴブリンを刺した。


「やった! レベルアップしたら裁縫神の加護にオプション項目が出た!

うれしい。私は革製品を扱えるわ!」


 つまり、それはグレーウルフの毛皮を扱うことができるということだった。


「それは大事な技術だ。

あそこで食べ残されているのはグレーウルフの毛皮だ。

裁縫ちゃんは、あれを扱えるってことだよね?」


 裁縫女子がじっとグレーウルフを見る。


「任せて、剥ぎ取りから洗浄、革なめしまで全部できるわ」


「よし、皆でグレーウルフの毛皮を回収するぞ」


 委員長が彼女を後回しにしたのは失敗だったんじゃないだろうか?

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