第26話 養鶏をはじめる

 ここの拠点は、以前のキャンプ地が危なくなったために止む無く移動した、バレー部女子が動けるようになるまでの仮初の拠点とするはずだった。

しかし、守るによし居心地よしで同級生たちの評価は思いの外高かった。


「しばらく、ここに居てレベルを上げるべきだと思う」


 とりあえずの食糧と水が確保できたことが、不安材料の払拭となったのだろう。

委員長が、この拠点に居座ってのレベル上げを提案して来た。


 ここで水の事を話さなければならない。

この拠点は水辺に作ったキャンプ地から1時間以上歩いた場所にある。

そのためゴブリンの血の臭いが蔓延するキャンプ地を襲った魔物どもから逃れることができたのだ。

つまり、水を手に入れるには往復2時間を歩き、水を運ぶ必要があった。

拠点としてのマイナス要因であり、そのままであれば、ここに居座ろうなどと委員長も思わなかっただろう。


 だが、この場で水を、しかも簡単に手に入れる方法が存在していた。

同級生が水魔法のスキルを手に入れたわけではない。

そう、俺の眷属である水トカゲが簡単に、しかもMPの心配もなく潤沢に水を出せたのだ。

水トカゲは水の精霊のようなものらしく、周囲に湿度があれば水が出せるらしい。

なぜか、俺の眷属であるにも関わらず、水トカゲは三つ編み女子にくっついている。

料理に水を使用するために、三つ編み女子のサポートをするうちに、俺の方に帰ってこなくなった。

なので同級生たちには水を自由に手に入れられる環境が出来ていたのだ。


 ちなみに器は俺の眷属である土トカゲが作ってくれる。

コップ、皿、鍋などなど、生活に必要な備品が次第に揃ってしまった。

つまり、この拠点、すこぶる居心地がよくなってしまったのだ。


「将来の目標として街に出るのは必至だが、無理をして誰かが道中で命を落としたのでは本末転倒だ。

ならば、ここでレベルを上げて安心できるぐらい強くなってから先に進もう」


 当面の食糧は猪と熊の肉と俺の出す玉子がある。

肉の保存方法は、ノブちんがなぜかよく知っていた。

表面を燻製にすると中はしばらく腐らないのだ。

保存用に乾燥させたジャーキーも作っていた。

当分肉は食べられそうだ。

周囲を探すと果物と木の実も手に入る。


「そこで転校生君に提案なんだが、鶏の卵を出してほしい。

鶏が孵れば雌ならば玉子を産む。

雄ならばしばらく育てれば鶏肉を得られるだろう」


 たしかに。

俺が毎日玉子を召喚するよりも、鶏を孵して育てれば毎日玉子を産んでくれるだろう。

鶏の餌など、そこらへんに大量に草が生えている。

たぶん、虫もいるだろう。

放し飼いでも養鶏が成立する可能性が高い。


「わかった。鶏の受精卵で召喚してみるよ」


 俺はとりあえず全員分のゆで卵を止めて鶏の受精卵を召喚した。

まあ、四腕熊よつうでぐまを(ラキが)倒して、経験値ががっぽり入ったので、MPは以前より40も上がっているんだけど、そこは内緒にしておこう。

あまり俺に頼られすぎても困るからな。


 鶏の受精卵の管理は裁縫女子と貴防が担当することになった。

まあ、俺の召喚卵はポケットに入れておくだけで半日で孵るお気楽仕様だから、担当も何もないんだけどね。


「あと、水トカゲや土トカゲのような便利な眷属は増やせないかな?」


 委員長が眷属に期待するのは当然か。

今の拠点での生活に俺の眷属は欠かせないものとなっている。

そんな便利な眷属が他にも増えるのであれば、ここの生活はもっと向上するだろう。


「どうだろう? 眷属の最大数というのはまだ把握していないんだよね。

もし、さっきの鶏が眷属扱いだと、もう召喚できないなんてことになりかねないね」


 これは断るための嘘ではなく、本気の懸案事項だった。

こんな便利な召喚が無制限であるわけがない。

あ、そういえば、たまご召喚は文字化けした壊れスキルだから、そこらへんが壊れている可能性もあるのか……。

いずれにしろ、鶏が孵って、眷属が頭打ちにならなかったら考えることにしよう。


「そうか、スキルである限り制限があるかもだね」


 委員長も納得してくれた。

まあ、トカゲ卵だけなら召喚しとくけどね。

俺はこっそりトカゲ卵Lv.1を2個召喚しポケットに仕舞った。


「まあ、そうなったら鶏を絞めて肉にすればいいよね?」


「え?」


 そういえば、委員長もインテリ風だけど、田舎で育った田舎っ子だったわ。

庭で育てた鶏を普通に絞めて食べることに躊躇いがないのだ。

俺なんか、夜店で買ったカラーヒヨコがデカくなってペットとして飼っていたところ、ある時田舎から来た親戚がそのペットのコッコちゃんを絞めて食ったという事件があって、トラウマぎみなんだが。

そういや母方の親戚だから同級生たちと同郷だったわ!


「ああ、その手があったね」


 俺は、多少引きながら認めるしかなかった。

今度はペットとして感情移入しないぞと心に誓って。


「他にも鶏舎とか柵が必要だな。

誰か作れるかな?」


「材料と道具があれば僕が作れる」


 雅やんが名乗りをあげる。


「道具か、無理だよね」


 ただし道具なんてないのだ。

釘、鋸、金槌、全て金属加工品だ。

誰かがレベルアップで錬金術のスキルを当てないと無理だろう。


 こうして前途多難な拠点での養鶏が始まったのだった。

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