第13話 せっちん強奪
拠点を移しつつ渓流沿いを下って行くことにした同級生たちだったが、ヤンキーたちの起床時間が遅く、今日の移動は微々たるものに終わってしまった。
そして、さらなるヤンキーたちの身勝手な行動が続く。
「今日からせっちんはこっちに合流するかんな」
委員長が焚火に火をつけようとせっちんを探していると、ヤンキーからせっちん強奪の宣言が出された。
せっちんは火魔法が使えるため、重宝するという判断なのだろう。
俺はMPが回復しなければ玉子も出せない無能と判断され事なきを得た。
まあ、ヤンキーどもと一緒に行動するなら、さっさと逃げ出して一人で生きて行く選択をするだろうけどな。
「せっちんの火魔法は、クラスの共有財産だ。
独占しようとするのは我々も容認できない。
焚火は全員の生命線となる。
君たちは同級生を見殺しにする気か!」
「はぁ? 独占じゃねーよ!」
「そうだ、せっちんが俺たちの仲間になっただけだ」
「火が欲しいなら分けてやんよ」
どうやらヤンキーたちは火を渡す見返りを要求するつもりのようだ。
「ぼ、僕は皆のためにしか火を出さないよ!
それに仲間だ仲間じゃないなんて思ってない。
クラスの皆は全員僕の仲間だ。
特定の人のためだけには僕は火をつけない!」
せっちん、渾身のサボタージュだった。
拠点を移したことで、焚火は前の場所で消されていた。
さすがに山火事の危険は田舎では子供にまで熟知されていて、最後に水をかけて鎮火するまで厳重に消火されていた。
山に火が回ったら全員が死ぬかもしれない。
田舎ではそれだけの危機感を持って火を取り扱っているのだ。
「はあ? てめぇふざけんなよ!」
ヤンキー5がキレる。
まあ、ヤンキー全員がそんな感じなのだが……。
しかし、せっちんも引かない。
「殴るの? 仲間にそんなことするんだ。
それって本当に仲間だといえるの?」
「ぐぬぬ」
ヤンキーどもはぐうの音も出なかった。
仲間が大事だと言っていた手前、仲間に手を挙げる理不尽に、自己矛盾に陥ってしまったのだ。
この後はお決まりの「うるせー」が出て、何でも放り投げて責任転嫁するパターンだろう。
だが、今回はそうはならなかった。
「お互い日が暮れる前に焚火を付けた方が良くね?」
不毛な争いを見かねたヤンキー6は、そう言うと余裕の表情でタバコに百円ライターで火をつけた。
「おい、おまえ!」
ヤンキー1が凄む。
それはそうだろう。火で揉めていたのに、百円ライターを持っていたのだから。
いや、まさか自分達の行動に反対意見を言う仲間にキレた?
ヤンキー1は怒りの表情でヤンキー6に詰め寄る。
「おまえ、持っていたのか!」
だよね。百円ライターがあればせっちんの独占なんて意味ないもんね。
「俺はとっくに
俺にも貸せよ」
え? そっち?
誰もが心の中で突っ込まざるを得なかった。
ちなみにヤンキーの貸せとは永久に貸せという意味だ。
二度と戻ってくることは無い。
数限りあるタバコを貸せと言われ、ヤンキー6はカースト上位であるヤンキー1にタバコを差し出すしかなかった。
そんな茶番を他所に、委員長は百円ライターの存在で存在価値が下がり、解放されたせっちんを慰めながら、共有の焚火に火をつけてもらっていた。
今日もヤンキーたちは別行動でヤンキー6の百円ライターで焚火に火をつけていた。
文明の利器は魔法を上回ると言う事実に全員がモヤモヤを感じていた。
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