4-5 芽生える残虐性

 貫禄を出すために腹の膨らんだ服を着ることのある貴族だが、どうやらバルフェルトは腹にだらしのない贅肉をため込んでいるから、衣装に頼る必要はないようであった。アッシュは数秒後の自分の運命を知らない男の額に魔銃を突きつける。


「こいつは!」


 見覚えがある顔だった。アッシュ達ラガリア王国の捕虜が魔銃使いに虐殺された場にいた貴族だ。バルフェルトは西方面の侵略を担当しているので、ペールランドやラガリア王国に何度も攻め入っている。


(こいつだったのか! 村を焼き、ユシンを殺した全ての元凶が! 眠ったまま殺していいのか? ふざけるな!)


 頭部を破壊するつもりだったが、アッシュは予定を変更した。腹の内から込みあげるほの暗い感情を抑えられないから、バルフェルトの左腕を銃魔術『炸裂エクスプロード』で撃った。空気が破裂したような音が室内に響き、魔力弾は左腕の骨を砕き肉を引き裂いた。


「ぎゃああああっ!」


 バルフェルトが絶叫し暴れだす。女達は跳ね起きベッドから転がり落ちると、顔に浴びた血で状況を察して甲高い悲鳴を挙げる。どちらも二十代前半の若い女だ。礼儀作法を学ぶために宮殿に仕える貴族の子女だろうから荒事と無縁なのは当然として、料理をしたこともなければ獣や魚の血や内臓すら見たことないはずだ。

 アッシュは女を無視し、傷口を押さえるバルフェルトの右腕を引き剥がし、再び『炸裂』。バルフェルトの右上腕が半ばから千切れ飛んだ。苦鳴とともにバルフェルの丸い身体が鞠のように大きく跳ねる。

 女の一人は腰を抜かして動けないようだが、もう一人が、悲鳴を残して部屋から出ていった。


「あぎっ、ぎっ! あぎゃああああっ!」


「バルフェルト! 簡単に死ぬなよ。苦しみ叫ぶ時間が長くなることを望むぞ!」


 バルフェルトは涙と鼻水と血を垂らしながら暴れている。脚をばたつかせるのが煩わしいから破壊することにした。銃魔術『三点射バースト』で右の太ももを潰した。残る左足は狙いやすい股間付近から吹き飛ばした。大公は両手足を失い、醜く膨らんだ腹だけを残す肉塊と化した。


「あひっ、あっ、ひっ……。ぐ、ぎ、いぃぃぃぃっ」


「この程度で死ぬなよ。皮肉なことに、世界で誰よりも俺がお前の生を望んでいる。おい、女、止血をしろ! こいつを死なせるな!」


「ひ、ひぃ……」


 裸の女は怯えるばかりで、床に落ちたまま身動きがとれないようだ。アッシュは舌打ちをし、バルフェルトに向きなおる。


「なあ、もっと苦しめよ! 俺の両親は家の中で焼け死んでいた。母さんの遺体に足首から先はなかった。それでも、腹を裂かれた父さんを外に連れだそうとして、寄り添って死んでいた。ライラやリイラは何人もの男に犯された後、焼かれた。ユシンは腕と胴を切り離された。なあ、全部お前の命令なんだよ! おい、女。料理用でもなんでもいい。油をもってこい」


「ひ、ひぃぃ……。助けて、助けて……」


 恐怖で失禁した女は、大公の血で汚れた尻を引きずりながら床に暗赤色の線を引き、部屋の隅へと後ずさっていく。窓から差す僅かな月明かりと壁際の蝋燭の灯りが混ざり、女の股間の茂みに纏わり付いた水滴に反射するのを見てアッシュは目眩がした。


「違う! 俺が見たかったのは、こんなのじゃ……。あ、ああっ!」


 おぞましい光景がアッシュの脳裏を過った。それは、現在の体グラハム・ルドフェルの記憶。女の裸とシーツに血の染みが広がっていく様子が、グラハムの記憶を揺さぶったのだ。グラハムには孤児をさらって猟奇的に殺害する嗜好があった。シルフィアに返り討ちに遭うまで、彼は何人もの女児を壊してきた。毛も生えない幼い身体を少しずつ破壊していき、悲鳴を楽しむことに性的興奮を抱いていた。


 美しい幼女の肢体と異なり、部屋の隅で震える女の、膨らんだ胸やはみ出た秘肉や、伸び放題の陰毛の、なんたるおぞましいことか。魔銃使いの視力は夜の室内でも、濡れた陰毛の先が細まり、水滴が滴り落ちるのを見てとる。アッシュが目眩を抱いた理由はそれだ。醜い女性器など不快の極みだ。まして、たるんだ中年男の腹など、見るに堪えない。アッシュは目障りなそれを破壊しようと魔銃を向け、どうせなら死ぬ前に最後の屈辱を与えてやろうと、贅肉に埋もれた男茎を撃った。

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