第四十九話「怪人・栗山林太郎」
ヒーロー本部、ビクトレンジャー秘密基地。
その自分がいざ極悪怪人デスグリーンを目の前にして。
こうして剣を
桐華はたとえ止められようとも、林太郎の
だが桐華にはわかるのだ、たとえ
だからといって、どうして心の内側からとめどなくあふれ出るマグマのようなこの
かつてなにごとにも
桐華自身、思ってもみなかった。
「……センパイ……」
そう
いまにも泣きだしそうな桐華の目の前に、マグカップが置かれる。
「コーヒーです。黛さん、まだ
朝霞が
「……私は、やり
「
「デスグリーンを
朝霞に食ってかかったところで、なにかが変わるわけでもないことは
しかし頭で理解できても、心がついてこないというのは桐華にとってはじめての経験であった。
そんな桐華をたしなめるように、朝霞はコーヒーに砂糖を入れる。
「
「……でも、私があのとき
朝霞は
「私たちヒーローの
朝霞は桐華の目をまっすぐ
「黛さん。あなたの生命に危険が
それなりに長いキャリアを誇る朝霞司令官は、桐華にとっては大先輩である。
だがその
朝霞自身の心から出た声であると、桐華は感じた。
「…………はい。
「ご理解いただけたようでなによりです。
それは朝霞なりの
言うだけ言うと、朝霞は部屋を後にした。
いま勝つことよりも、生きて戦い続けること。
それがヒーローの
それがきっと、桐華にできる、栗山林太郎への
「私が、
桐華は決意を
「あっま……」
朝霞が
…………。
ビクトレンジャーがほぼ
林太郎が
しかしいずれも
アークドミニオンの怪人の中でも驚異的な回復力を誇るサメっちはともかく、他ふたりの
「グヌウウウゥゥゥゥ……!」
「はぁっ……はぁっ……ベアリオン様ァ……!」
桐華が“クロアゲハ”に
アークドミニオン地下秘密基地の医務室に運び込まれたふたりは、見る見るうちに弱っていった。
「あわわわわ、大変だ! このままだとふたりとも死んでしまうぞ! 百獣軍団壊滅の危機じゃないか!!」
湊の心配はもっともである。
百獣軍団は知ってのとおり、“
しかしそれは百獣将軍ベアリオンという、
トップのベアリオンと、ナンバー
このふたりが同時に倒れるようなことがあれば、
ことは百獣軍団だけの問題ではない。
アークドミニオンという怪人組織そのものが、壊滅の危機に
「なんとしても、ふたりを死なせるわけにはいかない。考えろ考えろ考えろ……」
「うう、どうやっても
「解毒剤……くそっ、毒に
林太郎の
しかし
おそらく相当
「アニキぃ……」
医務室にみっつ
林太郎はサメっちの手を取り、
「サメっち、まだ動いちゃいけない。骨も何本か折れてるんだから」
さすがの
サメっち本人
「オジキと……ウサニー大佐ちゃんを、助けてッス……」
怪人の少女はボロボロになりながらも、仲間の命を助けてほしいとうわごとのように
林太郎がサメっちの
これほどの傷を負いながら、自分のことについては
「アニキ……お願いッス……」
林太郎は
怪人である少女に対して、ここまで同情してしまっている自分。
自身が人間であることを隠し続けていることへの背徳感。
そういったものが林太郎の心を
黛桐華と
しかしそれにも
「デスグリーンさんサイコー!」
「デスグリーン様ステキー!」
「アニキ、かっこいいッスー!」
栗山林太郎というひとりの男の存在は、あまりにも
林太郎の
林太郎はあのときとっさに、
もし桐華が怪人で林太郎がヒーローであったならば。
あるいは林太郎が心の
果たして栗山林太郎という男はどのような選択をしただろうか。
怪人として生きる覚悟を決めたはずなのに。
わがままな
社会正義を敵に回してでも、自分自身の小さな平和を守るのだと。
自分でそう選んだはずなのに。
林太郎はまだ、人間であることを
その
こんな自分が、サメっちの
ふと、そんなことを考えてしまうのだ。
「……ッスゥー……ッスゥー……」
怪我の
林太郎はサメっちに
「
その声は眠っているサメっちには
だが林太郎は自分に言い聞かせるよう、
サメっちの願いを
向かうべき先は、すでに決まっていた。
問題は“
…………。
一時間後、林太郎は
大きなアーチをくぐると、むわっとした熱気と
ドーム型の
温室の中央に
真っ白な椅子に腰かけるさまは、まるで
“その男”は、林太郎をひとめ見るや
しかしそれが本意であるのか、それとも演技なのかはわからない。
なぜならその男の顔は上半分がパピヨンマスクによって
サーカスのマジシャンを
そして
「
「ザゾーマ様は『よくぞ来てくれた。まずは座って紅茶でも飲みながら話そう』と
「話そうって言う
アークドミニオン最高幹部のひとりにして毒を
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