第四十二話「関東大制圧作戦」
明けて二十五日、アークドミニオン地下秘密基地はいたって静かな朝を
こうも
林太郎はソードミナスと連れ立って地下基地の
「ふぁぁ……ねむ……」
栗山林太郎、二十六歳。まだ若いとはいえさすがに
深夜の大騒ぎのせいで林太郎は結局、あれから
ジャムまみれで
その上、ぴーぴー泣く半裸の
「すまない……サプライズのつもりが……」
「まあ驚きはしたけど」
「本当はプレゼントを置いたらすぐに出ていく予定だったんだ……」
湊は林太郎のワイシャツとスウェットを着ていた。
さすがにボロボロのコスプレサンタ姿で泣きじゃくる女を部屋から追い出すほど、林太郎も
敵には一切
「あんまり落ち込むなよ。俺はこれでも感謝してるからさ」
「ああ、そうだな……たくさん
湊はすっかり
林太郎は湊の部屋の前で彼女と別れると、隣あわせの自分の部屋へと足を向けた。
さすがに少しぐらい寝ておかないと身がもたない。
しかし林太郎のその
部屋に戻ると
「あ、アニキおかえりッス」
「
それはモスグリーンの
手にした
「えーと……
「
林太郎の尻にピシィーンと鞭が飛ぶ。
「はいっ! ウサニー大佐ッ!」
「ちゃんを忘れるなこのマヌケッ!」
「はいっ! ウサニー大佐ちゃんッ!」
サメっちの話によると、ウサニー大佐ちゃんはこう見えて百獣軍団のナンバー
その彼女がなぜわざわざ林太郎を
「
お呼び出しがかかったことを伝えに来てくれたのだった。
「ねえサメっち、あの子なんでナンバー
「大佐は自分で言ってるだけッス。ウサニー大佐ちゃんは
ちなみにサメっちはお
“
…………。
地下秘密基地の一角、大聖堂から続く
幹部以外の入室を
暗黒議事堂と呼ばれたその空間には四つの
それぞれが三人の大幹部と、総帥ドラギウス三世を
すでに三幹部の
「いよう! 遅かったじゃねえかあ兄弟! 待ちくたびれたぜえ!」
ナンバー
「
「ザゾーマ様は『またあなたに会えて嬉しい。今度お
通訳としてカミキリムシ風の
「林太郎、ゆうべはお楽しみじゃったのう。おぬしがソードミナスと
その背後には
「ちょっと待ってください。なんでそんな
「そりゃーおぬし。クリスマスの朝っぱらにおぬしの部屋から一緒に出てきたら噂も立つじゃろ。しかもお互いに寝不足で、ソードミナスはおぬしの服を着ておったそうではないか。いっぱい慰めてもらった尻が痛いとか言ってたらしいのーう?」
「そこまで詳しく広まってるんですか!? いったいどこから見られてたんだ……油断の
だが言われてみればその通りである。
噂の内容は、なにひとつ間違っていない。
間違ってはいないのだが、よからぬ
誤解されない
「アニキ、朝チュンってなんッスか?」
「朝になるとスズメがチュンチュン鳴くだろう? ただそれだけのことだよサメっち。それ以上でもそれ以下でもないよ」
「なるほどッス! あれ? でも地下だからスズメなんていないッス!」
「知らないのかいサメっち。モグラもチュンチュン鳴くんだよ」
「そうなんッスか!? サメっちまたひとつ
いたいけな子供に
サンタクロースだってチュンチュンモグラと似たようなものだろう。
林太郎が議事堂内を見渡すと、五つ用意された席のうちひとつだけ紋章が
言わずもがな、ここに座れ、ということなのだろう。
面子が
すぐさま全員が席を立ち、緊張した
ドラギウス三世は昨日のサンタさんと同一人物だとは思えないほど、その全身から邪悪な闇のカリスマオーラを発していた。
悪の総帥は恐ろしい悪魔の紋章が描かれたひときわ大きな席につくと、
「今日おぬしらに集まってもらったのは他でもない。議題のは今後の方針についてである」
「おお、そりゃあひょっとして……!」
「むひょひょ、ついにやるんじゃな!」
「知っての通り、現在我らが宿敵ヒーロー本部の機能は現在完全に
三幹部ならびにサメっちは、その言葉に
一時的なものではあるが、首都圏は現在ヒーロー
対する秘密結社アークドミニオンの被害は極めて
「これは
「とは言ってもなあ。俺は自分の身のまわりが平和ならそれでいいんだけど」
「アニキの出世はサメっちの生活の安定につながるって、ソォンシーも言ってたっす!」
「それたぶん
ヒーロー本部から
それを
ロボ八体にしたって、林太郎からしてみれば降りかかる
「サメっちは俺が出世したら嬉しいかい?」
「もちろんッス。アニキが幹部になったらサメっちがナンバー
「そっか。じゃあちょっと頑張ってみるか」
いまの林太郎にとって、
かつて自分が真っ白に
さほど難しいことではないが、なんとも悪質なマッチポンプだと、林太郎はつくづく思う。
「北はベアリオン、西はザゾーマ、東はタガラックにそれぞれ任せるのである。林太郎には遊撃隊として各軍団の援護に回ってもらうのである」
ひととおり指示を出し
「これより“
こうして悪の秘密結社アークドミニオンによる、勢力拡大作戦が開始された。
すべては怪人の怪人による怪人のための、悪しき平和を実現すべく。
「がははははーっ! 腕が鳴るぜえーっ!!」
「我が
「とりあえず
悪のカリスマ・総帥ドラギウス三世から
その場で難しい顔をしていたのは、林太郎だけであった。
「関東大制圧作戦ッス! なんかカッコイイッスねえ! ……アニキどうしたッスか? なんか考え
「……そんなところかな」
「大丈夫ッスよ! いまのアークドミニオンには勢いがあるッス! アニキだっているんッスから、絶対
「アニキを信じてくれるのかい? サメっちは良い子だなあ」
「えへへーッス……あっ、ダメッス! 良い子にしてたら来年サンタさん来てくれないッス! サメっちは悪い子ッス!」
「よおし悪い子悪い子悪い子、悪い子だなぁーサメっちはぁー! わしゃしゃしゃ!」
サメっちの頭をこれでもかとなで回しながらも、林太郎は頭の
たしかに彼らがいくら優秀とて、
それはそうなのだが、
過去
危機的状況を何度も乗り越えてきた“人類の希望”のしぶとさを、林太郎は誰よりもよく知っている。
「……
林太郎は誰にも聞こえないようにそう
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