第二十六話「決めるのはあんたじゃない」
“
アークドミニオン
タガラックによって壊滅させられたヒーローチームは全国あわせて
それが林太郎がヒーローとして知りえるタガラックの全てであった。
ヒーロー本部の資料にもその“
なぜなら彼女、あるいは彼にとって性別や
いまのタガラックの
まるでフランス人形のような
好きな花はカスミソウ、花言葉は『
「わはは! どうじゃ林太郎、わしは
「おっさんみたいな笑い
「そんなこと言わんとほれ! 頭なでてみい! 特別サービスじゃぞ!」
「ワーカワイー、オニンギョウサンミタイー」
「むほほ、そうじゃろう、そうじゃろうて!」
東京で最も高いビルの最上階で、金髪幼女に頭なでなでを強いられる瞬間がまさか
人生なにが起こるか本当にわからないものである。
「いや、こんなことさせるために俺を呼び出したんですか?」
「おおそれよ。おぬしを怪人にしてやろうと思うてな。優しいじゃろわし」
「怪人に……? 俺が?」
「極悪怪人デスグリーンはサイボーグ怪人となって、わしの絡繰軍団に入るのじゃ!」
くらら嬢ことタガラックはその
それを伝えるために、彼女は
「なるほど、そいつが
「
タガラックは幼女に似つかわしくない、
そう、林太郎はこの幼女の姿をした悪魔に
タガラックの
たとえ
「
そう言うとタガラックは
「ひとつ目はその体じゃ。デスグリーン変身ギアが肉体にかける
林太郎はその言葉に覚えがあった。
タガラックが魔改造したというビクトリー変身ギア。
通称“デスグリーン変身ギア”はいままでの性能を
だが当然のことながら、
ヒーロースーツによる
デスグリーン変身ギアは本来
そんなものを継続的に利用して、生身の人間の体が
「あれは怪人の
「それもうロボの体で戦えばスーツいらなくないですか?」
「むぐっ、それはそうなんじゃけど……いやいや! メンテナンスさえすれば
タガラックは鼻でフフンと笑うと、腰に手をあてどうだと言わんばかりに胸を張った。
「ふたつ目は立場じゃな。機械化して怪人となればおぬしは
当然、それは林太郎も考えていた。
ビクトレンジャーと敵対し、ヒーロー本部と
もしこのまま完全に怪人としての人生を歩むというのであれば、極めて不本意ではあるが怪人になってしまうことがもっとも現実的かつ合理的だ。
そして現在の立場を守る上で林太郎が人間であるとことは、タガラックの言う通りアキレス
本来ならば明確なデメリットとなる怪人化も、林太郎にとっては必ずしもメリットの無い話ではない。
「それは確かに
「ふぬぅーッ! 悪魔の証明というわけじゃな……おぬしなかなかやるではないか……!」
だがタガラックは、林太郎の顔に一瞬
タガラックは確信したように邪悪な笑みを浮かべる。
そしてトドメであるとばかりに言葉を続けた。
「ならば心して聞くがよい! これがみっつ目じゃ!」
タガラックが指をパチンと鳴らすと、会長室内の壁がどんでん
「これは!?」
「うひゃひゃ、そーの顔が見たかったのじゃー」
否、近くで見ても人形であると気づける者は少ないだろう。
人形たちはそれほどまでに
だが問題はその造形の
「こいつは……プロ野球の
そこに
その
「それはきゃつらの
あるいは自ら望んで“タガラックの人形”となった者たちはすでに日本中のあらゆる場所、人々の生活のいたるところに
それこそが、ヒーロー本部が
「なんなら“本物と入れ
邪悪に
それがどれほど
「どうじゃ林太郎! 肉体、
「お
「そうじゃろうそうじゃろうて。おぬしもリアルでバ
美少女人形のスパッツを
驚きのあまり林太郎の顔を
「こここ、断る? なぁにを言っとるんじゃ林太郎? おぬしこのチャンスをみすみす
回りすぎた首を元の位置に
タガラックはこれまで気に入った人間を
そして
「わかったわかった、いきなり
まるで服を売りつけるアパレル店員のように、タガラックはいろいろな肉体をとっかえひっかえ林太郎に見せた。
しかし当の林太郎は
林太郎は額に手をあて少し考えると、背の低いタガラックの視線に合わせるようにしゃがみ込んだ。
「そのご提案だと、俺の夢は叶いそうにないんで」
「そそそ、そんなバカな! おぬしは人間じゃろ? これ以上の夢があるはずなかろう!」
タガラックが見せる夢は、人間の願望そのものである。
この誘惑を断ち切れる人間などいるはずがない。
今回はそれに加えて
よもや断られることなど、あるはずもない。
だが、林太郎は続ける。
「もう、誰かに
林太郎が
彼が
顔も知らない市民の平和と安全を守り、誰かが勝手に決めた社会正義に
「平和も、正義も、悪も、願望も、決めるのはあんたじゃない。俺だ」
そう言うと林太郎は、タガラックにまっすぐ目を向ける。
相変わらず泥沼のように汚れた瞳は、何者にも変えられない黒い決意に染まっていた。
「うぐっ……うぎぎぎぎぎ……!」
いっぽうのタガラックは、怒りを隠そうともせず歯をギリギリと
タガラックには
それをいとも
「いいのかおぬし! わしがおぬしの正体を
「どうぞご勝手に。それならそれで壊滅させるだけです。もちろんあなたの
この一年たらずのうちに七つの怪人組織を
“緑の断罪人”はまるで
「むぐぎぎぎぎぎ……!!」
「
林太郎はそう言い
「それじゃ、俺はもう行きますね。それともうひとつ、リボンだけは似合ってますよ」
ちょっと惜しいことをしたなと思いつつ。
林太郎は唖然とするタガラックを尻目に踵を返し、会長室を後にしようとした。
……が。
「待てーぃ! わしは
そう
「えええええっ!? すごくいい感じにかっこよくシメたと思ったのに!?」
「うるさーいっ! こんなの
林太郎は文字通り頭から
といっても体重や
「おぬしは美少女になるのじゃーっ! そしてわしと
「むちゃくちゃだ! 結局それが本音じゃないですか!」
「うるさーい! こうなったら無理やりにでもスク
そんな改造手術を受けたらどんな
タガラックは自分の願望を
林太郎が対応に
「そこまでである、タガラック」
地の底から響くような声、それと同時に
夜より暗いその
そして音もなく林太郎とタガラックの前に立つ。
「“
ドラギウス三世は勝ち誇った顔でそう言った。
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