第175話

 と、その時。また大きな歓声が響いた。

 見ると、徒競走に一際目立つ格好の女の子が。


 ピンクのゆるふわヘアーをツインテールにし、裾を結んでヘソを出しているギャル系美少女。


 土御門ひよりだ。



「何あの子っ、かわいー!」

「今年の1年生、可愛い子多すぎ!」

「がんばってー!」

「応援してるよー!」

「ひよりーん!」

「ふぁいとー!」



 おー、さすがひより。学年問わず大人気だ。

 ひよりはいい笑顔でみんなに手を振ると、俺を見て満面の笑みを浮かべた。



「サナたーん! 見ててねー!」

「お、おーう……」



 やめて、みんなこっち見てるから。恥ずかしいから……!

 周りに見られないように顔を俯かせていると、薬師寺先輩が首を傾げた。



「ふむ、彼女は真田君の友人か?」

「あー……まあ、そんな感じです」

「煮え切らん態度だな。まさか人様に言えない関係ではないだろうな?」

「妄想豊かっすね。そんなんじゃないっすよ」



 でも、どういう関係かって言われたら一言では説明できない。

 ま、友人ってことで問題ないだろう。



「それにしても彼女、随分と派手な見た目だな。髪も染めているし……」

「勘弁してやってください。ひよりはあれでこそひよりなんで」

「……ま、いいだろう。桃色の髪も、ナチュラルなメイクも、彼女にとても似合っているからな」



 お、おお……? 意外だ。こういう人って、校則絶対遵守ってイメージがあったけど。


 横目で薬師寺先輩を見ると、薬師寺先輩も俺を横目で見て来た。



「意外か?」

「はい。正直、もっと頭が固い人かと思いました」

「本当に正直に言うな、君は。……私はこれからの時代、どれだけ個を大事にできるかが重要になると考えている。やれメイクをするな、やれ髪を染めるな、やれポニーテールをするな……そんな前時代的でクソみたいな校則は、私の方から願い下げだ」

「おお、言いますね」



 確かに、ここから数十年もしないうちに、世界はものすごい速度で進歩するだろう。

 それなのに、校則がどうのとか言っても意味がない。



「でも、生徒会長であるあなたがそれを言っていいんですか? それこそ、薬師寺先輩が先生から目を付けられるんじゃ……」

「大丈夫だろう。私には強力な味方が付いているからな」



 強力な味方?

 そのことについて聞こうとすると、スターターピストルが鳴りひよりたちが走り出した。


 おおっ。寧夏と同等の身体能力って言われるだけあって、速いな!

 そのままぐんぐんスピードに乗り、他の人と1秒以上の差をつけてゴール。


 普通に男と走っても負けないくらい速いな、ひよりのやつ。



「いえーーい! あいあむなんばーわん!」



 一位の旗を掲げて振るうひよりに、盛り上がる観客側。

 なんか、別チームとか関係なくめちゃめちゃ盛り上がってるな。



「ふふ、いい走りだ。恐らく陸上部から勧誘が来るだろう。守ってやれよ、友人として」

「え、だる」

「はっはっは! 君は本当に正直だなぁ!」



 薬師寺先輩は豪快に笑うと、自分のクラスの元に戻って行った。

 この競技で知ってるやつが走ることもないし、俺も自分の椅子に座るか。


 席に戻って水分を補給する。

 と、前の方にいた龍也も戻ってきた。



「いやぁー、さすがネイと土御門だな! 見たかよ、あの快速!」

「ああ。別チームなのが惜しいくらいだな」

「俺も徒競走にすりゃよかったかなぁ」

「そういや、龍也は何に出るんだ? 二人三脚はやめたんだろ?」

「おう! これからやる選抜綱引きと、午後の部の騎馬戦、その大将馬だ!」

「うわ、ずりぃ」



 うちのクラス、龍也以外にも180センチオーバーが2人はいるからな。

 そんなのが大将馬とか、反則にも程がある。



「へいへい、暁斗! 使えるもんは使ったもん勝ちよ! 向こうはネイと土御門がつえーんだ。俺らだってやることやるしかねーべよ!」

「……一理あるな」

「だべ!?」



 でもずるいもんはずるいと思う。



「っと、そろそろ時間だ。行こうぜ、暁斗」

「は? なんで?」

「なんでって、お前も選抜綱引きのメンバーだからだよ」

「……俺、立候補してないんだけど」

「俺が入れといたZE☆」



 KU☆SO☆GA

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