第165話

   ◆



「“待”ってたぜェ!!」

「この“瞬間とき”をよォ!!」

「うるせぇ」



 教室に着くなり龍也と寧夏に絡まれた。

 ウザイことこの上ない。



「へいへいへーい。暁斗、どうだった? どうだった?」

「嫁ちゃんとはどんな感じよ、アッキー。もうネタはあがってんだぜぃ?」

「絡みついてくんな、暑い」



 上からも下からも圧がすごいわ。

 2人を押し退けて自分の席に座る。と、今度は左右から圧を掛けられた。



「まあまあ。委員長ちゃんの脅迫という名のインタビューで、お前らのことってのは察してるから」

「いっえーす。おういえーす」

「だったらそんな大声で言うな」



 学校側には言ってないし、秘密ってことになってるんだから。

 だけど俺らが絡んでることは日常なのか、特に周りが気にしてる様子はない。



「見て見て、真田君来たよっ」

「うち、お姉ちゃんに真田君紹介してって頼まれちゃった。運命の人とラブラブだからって断ったけど」

「うちもうちも!」

「まあ、あれだけカッコイイ写真を見せられちゃったらねぇ」

「そんな人が同じクラスって、ついてるー♪」



 まだあの写真で盛り上がってるみたいだけど……参ったな。



「にひひ。モテモテじゃねーか、暁斗」

「今や世界的有名人だからねぃ」

「嬉しくねぇ……」



 俺はゆっくり暮らしたいだけなんだよ。

 あぁ、俺の平凡な生活はどこへやら。



「あ、そうだ。ウチのお父さんが、モデルの件についてアッキーとリラに話があるってさー」

「モデル?」

「そうそう。ほら、ウェディング会社の広告モデルやったじゃん? それでお父さんが、別のモデルもやって欲しいって張り切っちゃってさぁ。勿論バイト代も出すって」



 寧夏が十文寺社長からのメッセージを画面に移し、俺に見せた。


 えっと、いち、じゃう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃくま……。



「これマジ?」

「まじまじ。勿論、アッキーとリラの2人のギャラだし、2人揃って出るのが条件だけど」



 …………。



「梨蘭と相談して決めます」

「おい暁斗。目が『¥』になってるぞ」



 いや、こんな金額提示されたらなるだろ。

 梨蘭がやりたくないって言ったら、それまでだけど。


 でもこれ、濃緋色の糸の効果だよなぁ。

 俺1人じゃただの一般人だけど、梨蘭と一緒ならなんでもいい方向に転がる。


 どういう原理なのかはわからないけど……なんか色々と怖くなって来た。

 このまま何事もなく生活できればいいけど。



「っと、そうだ暁斗。あと2週間で体育祭があるだろ? 出場する種目決めたか?」

「いや、なんも。龍也は?」

「俺は男女混合二人三脚だ。ネイと出る」

「イエイ」



 ……二人三脚?



「その身長差で?」



 片や190センチオーバーの巨人。

 片や140センチの合法ロリ。


 身長差50センチ以上のでこぼこコンビだ。

 うん、無理だろ。



「暁斗、ネイの身体能力を甘く見てないか?」

「うむ。ウチがりゅーやの歩幅に合わせて飛ぶように走れば問題ナッシング」

「なるほどわからん」



 忍者かこいつは。

 ……寧夏ならできるって思えるくらい、こいつの身体能力は馬鹿にできないんだけども。

 それに、このでこぼこコンビの二人三脚で1位を取るのも見てみたい。



「参加希望出せる競技って、何があったっけ?」

「えっと、徒競走に障害物競走、借り物競走、二人三脚、選抜綱引き、騎馬戦だな。1人1つ出ればいいそうだ」



 ほーん。結構限定されてるんだな。

 俺は別に速さに自信がある訳でもないし、徒競走とかは陸上部に任せればいいか。


 選抜綱引きも、パワーはあるけどやっぱりガタイがいい奴に任せた方がいい。


 二人三脚は……無理だな。梨蘭の運動神経の悪さを考えたら怪我する。


 となると。



「借り物競走かな」

「その心は?」

「1番楽そう」

「ヒューッ! さすが俺達の暁斗さんだぜ!」

「お嫁ちゃんが見てるのにも関わらず、いい所見せたいって欲がないのはアッキーらしいね」



 だって疲れるじゃん。

 自分がやりたいこと以外で疲れるのはナンセンスだ。


 そもそも体育祭自体やる気がない。全体的にめんどくさい。



「……始まる前から帰りたい」

「体育祭始まってすらないぞ」

「というか始まる2週間前の件について」



 体を動かすことは好きだけど、体育祭は嫌い。こういう人って結構多いと思う。


 え、俺だけ? そうですか、しょぼん。



「あー、体育祭かぁ」

「私何出よっかな」

「俺は徒競走だ!」

「男なら騎馬戦っしょ!」

「メイク崩れるからだるーい」



 俺らが体育祭の話をしてるのが聞こえたのか、クラス中で体育祭の話になった。


 えぇ、みんなそんな体育祭好きなの? マジかよ……。

 クラス中が盛り上がっていると、何も知らない梨蘭が教室に入って来た。



「おはよう。……なんか、朝から盛り上がってるわね」

「…………」

「な、何よ暁斗。そんなに見つめて……」

「……梨蘭は俺と同じで、体育祭嫌い派だよな? 運動できないし」

「え? しばかれたいの?」

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