第164話

 梨蘭と同棲を始めて週が明け、月曜日になった。

 初めての同棲ってこともあり、この土日はおっかなびっくりで色々と進めたけど……まあ、それなりにやって行けている。


 で、今日は普通に学校があるんだが……。



「なあ梨蘭。朝から龍也達がメッセでうるせぇんだが」

「奇遇ね。璃音と委員長からもめちゃめちゃメッセージ来るわ」



 お互いさっきからスマホが鳴り止まない。

 この感覚懐かしい。『運命の赤い糸』が現れた時も、めちゃめちゃ詮索されたっけ。


 とりあえずスマホを機内モードにして放置。これから飯だし、うるさすぎ。


 食卓に座り、梨蘭の作ってくれた朝食に手を付ける。

 今日の朝食はご飯にウインナー、卵焼き、豆腐の味噌汁。それにブロッコリーとミニトマトのサラダだ。

 今日も美味しいご飯をありがとうございます。



「あ、お弁当は作ってあるわよ。今日リーザさんの所でしょ? 念の為、トレーニング前のおにぎりも作ったけど……」

「ありがとうお母さん」

「お母さん言うな」



 だってやってる事がお母さんっぽいんだもん。

 でも実際、トレーニング前のおにぎりは助かる。

 特にダイエットしてる訳じゃないし、動くにはエネルギーが必要だ。


 いつもは惣菜パンとか食ってるから、これはありがたい。



「今日のお夕飯はどうする?」

「なんでも──」

「なんでもいいって言ったら胡麻食わせるわよ」

「ハハハ、またまたご冗談を」

「冗談を言ってる目に見える?」



 見えません、ごめんなさい。

 育ち盛りの歳に、夕飯か胡麻オンリーとかたまったもんじゃない。

 ふーむ……。



「因みに、まだ料理も覚えたばかりだし、あんまり凝ったものはできないからね」

「ああ、わかってる。そうだな……あ、鮭のムニエル」

「オッケー。鮭買ってこないと……」



 …………。



「なんか、夫婦っぽい」

「ぶーーーーーーーーーー!!!!」

「おぶっ!?」



 ちょっ、思い切り水吹きかけられたんだけど!?



「あっ! ご、ごめっ……じゃない! ああああアンタ何言ってんのよ!?」

「な、何って、思ったことを素直に口にしただけだけど」

「素直すぎるのよ! ふ、ふ、夫婦って……気が早すぎるというか、なんというか……」



 いずれなるのは確定してるのに、まだ慣れないのかこいつは。


 モジモジしてしまってる梨蘭を見ながら、味噌汁をすする。

 いいなぁ、運命の人と一緒にすごすこういう朝。心が洗われる。


 髪の毛をいじりつつ、ボソボソと何かを高速で呟く梨蘭。



「そりゃあ私だってそういう思いはあるし結婚できる歳になったら直ぐにとは思うけどそうなったら子供も作っちゃう訳でいや別に私は今すぐでもいいけど高校も卒業したいし大学も行かなきゃならないしっていうか寧夏のお父さんとの約束もあってその辺も色々と考えなきゃならないから──」

「ごちそーさまでした」

「──って話聞きなさいよ!」



 いや、なげーわ。ほとんど聞き流してたけど、なげーわ。



「じゃ、話し合った通り俺が先に出るから。遅刻すんなよ」

「わ、わかってるわよ。アンタじゃあるまいし。……って、アンタシャワー浴びなくていいの? 私、水掛けちゃったけど……」

「チャリ乗ってたら乾くだろ」



 今日も気温は30度を超える真夏日だ。天気もいいし、熱中症には気を付けなきゃな。


 カバンを持って玄関で靴を履く。

 と、着いてきた梨蘭がキュッと俺の服を摘んだ。



「ん? どした?」

「いえ、その……」



 梨蘭は恥ずかしそうに顔を伏せると、そっとはにかんだ。






「い、行ってらっしゃい……」






 あ……なるほど。これが言いたかったのか。何この若妻感。これで同い歳の16歳とかマジか。


 妙な気恥しさが漂い、無意識に頬をかいた。



「あー……行ってきます」

「ん。車には気を付けてね」

「わかったよ、お母さん」

「だからお母さん言うなっ」



 わかりやすくムッとなった梨蘭に手振り、外に出て自転車に跨る。


 照りつける陽射しが肌をさす。

 けど、胸の内にあるこの熱さは気温だけのものじゃない。


 梨蘭への想いが日に日に膨らんでいく。

 その熱さが胸を締め付け、焦がす。



「あっちぃな……」



 噴きでる汗を額に感じ、自転車を漕いで学校に向かっていった。

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