第140話
◆
「それじゃあ梨蘭。またな」
「ええ。またね、暁斗」
その後、絶叫ランドを楽しみつくした俺らは、無事に地元に帰宅。
梨蘭を家に送り届け、俺も家に帰るべく夜道を歩いていると。
「ん?」
なんだ、着信? こんな時間に……って、寧夏?
「……もしもし」
『お、出た』
「出ちゃ悪いか。俺のスマホだ」
『まあまあ。どう? 今日は楽しかった?』
あ、こいつ今スマホの向こう側でニヤニヤしてやがんな。
近くから龍也の笑い声も聞こえる。よし、あいつは今度殴ろう。
「……ああ、楽しかった。悪いな、梨蘭のわがままに付き合わせちまって」
『気にしなくてもいいぜぃ。これは正式なビジネスだから』
「ビジネス?」
『あれ、リラから聞いてない? 体験で使った写真、ジュウモンジグループの経営してるプロデュース会社の広告に使わせてもらうって』
「何それ聞いてない」
と、急にスマホが耳元で震えた。
梨蘭:ごめんなさい、言い忘れてたわ。今日の写真、寧夏が会社の広告として使いたいらしいんだけど、いいかしら?
事後承諾ッ。
「……今梨蘭から連絡来たわ」
『あぁ~。リラ、幸せすぎて忘れちゃってたんだねぃ。そんで、どうかな?』
どうかなと言われても、そんなの答えは1つしかない。
「そんな不特定多数の人間に見られるなんて嫌だ。断——」
『あ、そうだ。お父様が、プロデュース会社の売り上げが上がったら、モデル代も出すって言ってたよ』
……モデル代?
「……因みにおいくら?」
『ここだけの話……ごにょごにょごにょ』
…………。
「はっはっは! もちろんいいに決まってるじゃないか! 俺ら友達だろ?」
『金額聞いて手の平くるくるするアッキー、嫌いじゃないぜ』
「いやいや、何を言ってんの? こっちは将来ジュウモンジグループにお世話になる身だし、梨蘭が寧夏に頼まなければ、今日の花嫁姿は見られなかった。ウィンウィンだよ」
『うーん、ビックリするくらい舌が回るねぃ』
はて、なんのことかな? 俺は最初から承諾するつもりだったよ。
軽く寧夏と話し終え、通話を切った。
ふむ……これだけ金があれば、梨蘭を旅行に連れてってやることもできるな。
トレーニングに時間を割きたいから、バイトはあまりする気になれないし。
まあ、プロデュース会社の売り上げが上がらなかったら、金も出ないんだが……濃緋色の糸があれば、なんとかなるだろう。……多分!
さすがに今年の夏は、色んな所に行ったからなぁ。
そろそろ本腰入れて宿題もやらなきゃいけないし、次の長期休暇とかを利用するのもありか。
……なんだか腹減って来たな。いつものラーメン屋に寄っていくか。
と、住宅街にある大きめの公園を抜けようとした、その時。
「——ん?」
なんだ? なんか、くぐもった叫び声みたいな音が……あっちか?
様子を伺うべく、そっと公衆トイレの影に隠れて覗き込むと。
「う、う、動くなっ。ううう、動いたら、殺すっ……!」
「ぅ、ひぐっ……う、うぅ……」
なっ、ナイフ……!?
それに、男が女の人を抑え込んで……!
それを見た瞬間、当時乃亜が襲われそうになったのを思い出し。
血が沸騰した感覚と共に反射的に物陰から飛び出て、男の顔面を蹴り飛ばした。
「へぎょ!? がっ!」
クリーンヒット。威力だけなら、リーザさんからもお墨付きをもらっているハイキックだ。
それに、壁も利用した二段ダメージ。
しばらく立てないだろう。
中年の男が気絶したのを確認し、上着とシャツを使って男の腕をベンチの脚にきつく縛り付ける、女性の下に向かった。
見たところ、最悪の事態にはなってないみたいだ。服はよれよれだけど、間一髪のところだったらしい。
「あの、大丈夫ですか?」
「……ぅ、ぅ……うえぇぇん……! うわあああぁぁぁん……!」
余程怖かったのか、女性は俺にしがみついて泣き出した。
可哀想に。怖かっただろう。
俺は警察に連絡して待っている間、女性の背中をさすってなだめる。
これ、俺1人だと手に余るな……よし、応援を呼ぼう。
暁斗:梨蘭、今すぐいつもの公園に来てくれないか? 大至急だ。
梨蘭:え? わ、わかったわ。
と、梨蘭にメッセージを送って数分後。
「暁斗! ……え、なんで上半身裸なの? って、その女の人は何!?」
「お、落ち着け梨蘭。俺は何もしてないから。この人が襲われそうになったところを偶然助けたんだ。悪いけど、しばらく側にいてやってくれないか?」
「???? じょ、情報が多くてよくわからないけど……わ、わかったわ」
震えている女性から離れ、梨蘭がその側に寄り添う。
と、丁度その時、公園の外にパトカーが二台止まった。
さすが日本の警察。通報から来るまでが速い。
「じゃあ、色々と事情を説明するから、その人のことよろしく」
「ええ。……あれ? この人……」
ん? なんだ、梨蘭の知り合いか何かか?
そう聞こうとすると。
「動くな!」
え?
突然、4人の警察官に警棒を持って囲まれた。
「通報にあった不審者……お前だな!」
「動くんじゃない!」
「い、いや、ちがっ。俺じゃないですって! あっち! あっちですからぁ!」
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