第113話

「へいへいへーい。そりゃ暁斗が悪ぃな」

「やっぱり?」



 梨蘭がへそを曲げてから2日が過ぎた。

 さすがに1人で悩むには辛すぎたから、こうして龍也の家に来てるんだが。



「そりゃそうだろ。久遠寺は勇気出したんだぜ? それを暁斗は断ったんだ。女の面目丸潰れだろ」

「ぐっ……」



 た、確かに。男より、女の方が誘いづらいというのは聞いたことがある。

 だけど梨蘭は、勇気を出してくれた。

 それなのに俺は……。



「はいはい、りゅーや。それ以上アッキーをいじめないの」

「いじめてない。事実を言ったまでだ」

「全くもう……ほらアッキー、お茶入れたよ」

「ああ。ありがとう、寧夏」



 エプロン姿の寧夏から湯呑みを受け取り、すする。

 ずずず……はぁ、落ち着く。



「……なあ、ところで聞いていいか?」

「お、なんだ?」

「なんだと言うか……なんで寧夏がここにいんの?」



 今日は龍也に相談があって来た。でも寧夏を呼んだ覚えはない。

 まさか、龍也が呼んだのか? いやでも、男だけの相談って言ったしな。


 首を傾げていると、寧夏が「あ〜」と苦笑いをした。



「言ってなかったっけ? ウチら、長期休暇は同棲することにしてんの」

「イッエース」



 …………。

 ……………………。

 ……………………………………は?



「どうせい……どうせい…………………………同棲!?」

「アッキー、溜めたなぁ」

「ま、いきなりこんなこと言われてもビビるか」



 ビビるどころの騒ぎじゃねーよ! 驚愕の事実だよ!?



「お、おまっ……同棲って、マジか!?」

「おう。因みにネイの両親と俺の両親には許可してもらってるから、安心しろ」

「ぶいぶい」



 2人揃ってダブルピースすんな!


 え、えぇ……待って。色々と混乱しちゃってるんだけど……。



「えっと……聞きたいことは山ほどあるんだけど。まず……その……2人は一緒に住んで、色々と我慢することないのか?」

「セ〇〇スのこと? アッキー、親友の情事を知りたいなんて、どんな特殊性癖?」

「そんなんじゃないわい!」



 あと、普通にセ〇〇スとか言うな!



「ネイ、女の子なんだから少しは恥じらいを持てな」

「すまそ」



 寧夏は素知らぬ顔でずずーとお茶をすする。

 こいつ、本当に変わってねーな……。



「ま、俺とネイは大丈夫だ。俺らを繋いでるのは普通の赤い糸だし、お前と久遠寺みたいに年がら年中発情してる訳じゃないから」

「言い方が酷い」

「事実だろ?」

「ぐぬぬ」



 何も言い返せねぇ。


 確かに、言ってしまえば俺と梨蘭はずっとお互いを意識している、言わば発情期だろう。

 でも、親友とは言えそれを他人に言われるとなんかヤダ。


 が、寧夏は呆れたように嘆息した。



「何言ってんだかこの人は。昨日だって沢山ウチを求めもがもが」

「ちょっと寧夏さん黙ろうか!?」

「おいコラ龍也、テメェもやることやってんじゃねーか!」

「うっせぇうっせぇうっせぇわ! 世界の誰よりも好きな女と24時間一緒にいんだぞ! これで手を出さない方がどうかしとるわ!」



 あー……確かに。そっちの方が逆に不健全か。

 それにしても、こいつサラッと惚気けやがったな。俺も惚気けてやろうか? おん?



「ったく。……それに毎日じゃねーし」

「え? ウチがここに来て1週間近くなるけど、毎に」

「あっははははは! ちょっとうんこ行ってくるわ!!」



 わかりやすいな、龍也。

 それにしても、まさかこいつらが同棲か。



「これからはもう、一緒に遊んだり馬鹿やったりもしにくくなるなぁ」

「なーに言ってんのさ。ウチらはずっと変わらんよ。これからもずっと、一緒に馬鹿なことやろうぜぃ」

「……だな」



 俺だって、まだまだ2人と遊んでたい。

 そう言ってくれるのは、嬉しいな。



「寧夏、もし龍也にいじめられたら、俺に言えよ。ぶん殴ってやるからな」

「あははっ。アッキーってば、リラ以外の子にも優しいから色々面倒事に巻き込まれるんだゾ☆」

「困ってたら助けるのって普通だろ」

「……世の中、アッキーみたいないい子ばかりなら、戦争もなくなるんだろうねぃ」



 同い歳(見た目年齢小学生)に子供扱いされた気がする。え、気のせい?



「ま、とにかく今は大丈夫だよ。……ウチ、今すっごく幸せだから」

「……そうか」

「うん、そうだ」



 にひっ、と恥ずかしそうに笑う寧夏。

 こんなこと言うのもなんだが……その笑顔に、思わず見とれてしまった。


 絶対言わないけどな。

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