第60話
◆
時は早々に過ぎ、土曜日になった。
龍也と寧夏はその間、毎日のように作戦会議をしていたのか、放課後は基本俺とは別行動を取っていた。
まあ、俺も梨蘭と気兼ねなく作戦会議ができたからありがたかったけど。
正直、俺達の作戦は本当に最後の最後まで取っておきたいレベルだ。
下手すると、龍也達ではなく俺達の運命さえ縛ってしまう。
そうならないようにするには、2人の作戦が第一だ。
「ごめんね、アッキー、リラ。こんなところに呼んじゃって」
「気にすんな。親友のピンチなら当然だろ」
目の前には十文寺家の巨大な屋敷。
高い塀が屋敷をぐるりと囲い、外からの侵入も中からの逃亡も許さないと言った感じ。ご近所さんから、要塞なんて呼ばれてるのも頷ける。
庭で梨蘭と寧夏が2人で何か話しているのを見ていると、龍也が俺に近付いて来た。
「おい暁斗。何で久遠寺がいるんだよ」
「俺が助太刀に呼んだ」
「何で。もし頭の回転が速い助太刀が必要なら、竜宮院の方がよくないか?」
「ちょっとな。俺らの方も色々あるんだよ。それより、お前らの作戦はどうなんだ?」
「多分、うまくいく。……と思う」
まあ、絶対成功する作戦なんてこの世にないからな。
俺達の方もうまく行くとは限らないが……あとは、寧夏の両親がどれだけ柔軟か、頑固かで決まる。
「龍也。どうなっても、俺はお前らの味方だからな」
「……おう。ありがとな」
龍也と軽く拳を合わせる。
と同時に、屋敷の扉が開いて中からメイド服を着た女性が現れた。
竜宮院に似ている大和撫子風な雰囲気で、おっとりした目元が特徴的な美人だ。
現代日本ではまずお目に掛かれないリアルメイドの登場に、梨蘭はぽかんとしていた。
わかる、わかるぞその気持ち。俺と龍也も、最初に見た時は唖然としたもんだ。
「お待ちしておりました、お嬢様のご学友の方々。ご主人様がお待ちです。どうぞこちらへ」
メイドさんに促され、寧夏、龍也、俺、梨蘭の順に屋敷に足を踏み入れた。
背後で自動的に閉まる扉。玄関は、俺達が横に並んでも余りあるほど広々としている。
もう何度も来てるけど、このデカさはまだ慣れそうにないな。
そんな俺の服をくいくいと引っ張った梨蘭が、緊張した面持ちで小声で話し掛けてきた。
「ちょ、ちょっと暁斗っ。でかい、でかいとは聞いてたけど、こんなにガチなお屋敷だって聞いてないんだけど……!」
「そうだったか?」
「それに何よあれ、リアルメイドじゃない。現代日本にあんなのいるって、ガチお金持ちってことでしょ……!? もう意味がわからないわよ……!」
軽くパニックになっている梨蘭。
梨蘭の家もデカいけど、ここはそれ以上のデカさだもんなぁ。うんうん、わかるわかる。
メイドさんの案内で、屋敷の奥に進んでいく。
龍也と寧夏は緊張してるみたいで、体が僅かに震えている。
本来は関係ない俺だって緊張してるんだ。2人の緊張は計り知れない。
「ネイ、大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫」
「あんまり無理すんなよ。俺が何とかするから」
「……ううん。私も当事者だから……2人でなんとかしよ?」
「……ああ、そうだな」
前を歩く2人が、目を合わせるとそっと微笑んだ。
赤い糸で繋がってる同士の絆、か。
「いいなぁ……」
「そうだな……」
……ん??
「り……久遠寺、今」
「言ってないから。言ってませんからぁ……!」
「お、おう。そうか」
そんな顔を真っ赤にして否定されても、逆に肯定してるようにしか見えないぞ。
俺達が騒がしくしていても、龍也と寧夏はそれをおちょくってこないで真っ直ぐ前を向いている。
俺達をおちょくる余裕すらないんだろうな……そんなんで大丈夫なのか?
そのまま進むこと数分。
階段を上り、『応接室』と書いてあるプレートの前で止まった。
「ご主人様。寧夏様とご学友の方々をお連れ致しました」
「ああ、入ってくれ」
中から聞こえてくる、初老の男性の声。
威厳というのだろうか。扉越しなのに、身が竦むような感覚になった。
メイドさんが扉を開け、順々に入っていく。
中にいたのは2人。
1人は、若干老け込んでいるがダンディーな男性。
髪をセットしていて、太りすぎず痩せすぎずの体形。
鋭い目で、俺達のことを値踏みすように見ている。
もう1人は、寧夏そっくりの可愛らしい女性。
髪はウェーブがかっているけど、ツインテールにしたら見分けは付かないレベル。そっくりさんというより、クローンと言っても信じられるくらいだ。
「お父さん。お母さん。今日は時間を作ってくれて、ありがとうございます」
寧夏が恭しく頭を下げる。
これが、この家族の距離感なのか……なんだか見ててもやもやする。
そんな寧夏を見たお母さんが、優しそうに微笑んだ。
「ネイちゃん、元気そうね。ちゃんとご飯食べてる?」
「まあ、ぼちぼち」
そっと目を逸らした寧夏。まあ、基本昼飯は菓子パンだからな。そんなこと言えないけど。
ただお母さんの方は何となく察しているみたいで、口元に手を当ててコロコロと笑った。笑い方は全くにてないな。
そんな寧夏を鋭い目で見ていたお父さんが、そっと息を吐いて口を開いた。
「そろそろ本題に入ろう、寧夏。我々も忙しいんだ」
「っ……はい、お父さん」
……なんか、嫌な感じだな。今のは俺でもカチンと来たぞ。
龍也と寧夏が2人の対面に座り、俺と梨蘭が4人の間に座る。
頑張れ、2人とも。しっかりな。
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