83.再会と演奏と

 音楽とは芸術である。音を楽しむと言えば簡単そうに聞こえるかもしれないが、実際のところは一定のレベルが求められる。

 もちろん俺にそんな技術は備わっていない。がんばってもできないことってあるんだよ、うん。

 がんばってもその一定の実力を手に入れるのは難しい。そう思ったのは俺ができなかった以上に、葵ちゃんと瞳子ちゃんのレベルの高さを目の当たりにしたからだ。

 ピアノもそうなのだが、他の楽器でも自分の手足のように演奏してしまえる二人なのだ。二人との隔絶されたレベルの差というものを思い知った俺は「バンドやろうぜ!」などとギター片手にのたまうことはできなくなっていた。

 俺がそんな風に思い知らされたように、意外かもしれないが瞳子ちゃんも葵ちゃんとの実力差に敗北感を抱いていたのだ。

 思い返せば、最初はピアノ教室に入り立ての葵ちゃんを純粋に応援していた瞳子ちゃんだったけれど、歳を重ねるごとに素直な応援の言葉は少なくなっていたように思える。ついには四年生になる前に通っていたピアノ教室をやめてしまったのだ。スイミングスクールが要因の一つだろうが、彼女の感情としての決断でもあったらしい。

 その決断が間違っているだなんて思わない。だって瞳子ちゃんが悩んで決めたはずだから。絶対に間違っているだなんて言わない。

 瞳子ちゃんが掛け値なしに認める実力を持った葵ちゃん。彼女が出場するピアノコンクールに、俺と瞳子ちゃんは応援に来ていた。


「今日は私のかっこ良いところ、ちゃんと見ていてね」

「もちろん。いつも通りがんばってね」

「葵は本番に強いんだものね。別にあたしは心配なんてしていないわ。……しっかりやりなさい」


 淡い青色のドレスを着た葵ちゃん。艶やかな黒髪をアップにまとめていて、お嬢様みたいな雰囲気をかもし出していた。

 会場に到着して葵ちゃんが着替えをしている間、瞳子ちゃんからピアノに対して抱いていた想いを打ち明けられた。いや、葵ちゃんに対しての想いか。

 知らなかった俺は彼女の告白に驚いてしまったのだが、本人はむしろ晴れやかな顔をしていたので余計なことは口にしないことにした。たぶん、瞳子ちゃんの中ではすでに消化した想いなのだろう。


「今年は素直に応援できそうよ」


 そう言って笑う瞳子ちゃんはまた少し大人になったのだろう。強いなと素直に思う。


「それにしてもだいぶ人が多いね」


 会場は人の多さに比例して賑やかだった。出場者の関係者だけじゃないようで、主催者側なのだろう。きっちりとした服装の大人をたくさん見かける。

 出場者であろう正装をした子供達の姿が見える。ドレス以外にもフォーマルな服装の女の子もいるんだなと頭の中で感想を述べてみる。


「去年よりも大きなコンクールだもん。審査の人の中には外国人の人もいるんだって聞いたよ」

「へぇー。すごいんだね」


 話を合わせて頷いてはみたものの、どれだけすごいかはわかってなかったりする。それでも外国人がいるってだけでなんとなくすごいと思ってしまうのは島国の日本人らしい発想に思えてならない。

 去年までは会場は小さめで、観客もそう多くはなかった。しかし、この人の多さを考えれば会場が大きくなったにも拘わらず、観客席がいっぱいになってしまいそうに思えた。

 去年まではなかった予選を通過して、今日の本選を迎えている。

 この日のために、最近の葵ちゃんはピアノの練習に力を入れていたのだ。そのがんばりを知っているだけに良い結果で終わってくれればと願わずにはいられない。


「葵、これから本番なんだからあまりはしゃがないようにね。せっかくのドレスなんだから」

「はしゃいでなんかないよ。私ちゃんと落ち着いてるもん」


 葵ちゃんのお母さんが我が子の姿をチェックする。舞台が大きいものだから心配になっているのだろう。なんだか子供よりも親の方が緊張しているように見えてしまう。


「葵ちゃんがんばってね」

「楽しんでくるのデスヨ」


 俺と瞳子ちゃんの母親も葵ちゃんの応援をする。ちなみに父親勢は全員不参加である。残念ながら三人とも仕事だ。

 葵ちゃんのお父さんなんて「仕事したくない!」とちょっと駄々をこねたそうだ。……ちょっとか? 普段はダンディーな雰囲気なのに我が子に関してはちょっとどころじゃないほどの溺愛っぷりを見せつけてくるからなぁ。


「そろそろあたし達は観客席に行きましょうか」


 瞳子ちゃんが時計を確認して言った。別れてしまう前に葵ちゃんに一言でも多く応援の言葉を口にしようとした時である。


「トシナリ!!」


 いきなりの俺を呼ぶ大きな声に飛び上がりそうになってしまった。

 言葉のニュアンスが瞳子ちゃんのお母さんっぽいと思って彼女を見やる。しかし首をかしげられてしまった。どうやら違うようだ。

 だったら誰だ? と首を巡らせると、すぐにこちらへと走ってくる少女が視界に入った。

 金髪をなびかせる少女が目前でブレーキをかける。顔を上げると見覚えのある彫の深い顔が目に入った。


『トシナリ! トシナリよね!! わたしよわたしクリスよ! 憶えてるでしょ?』

『クリス? 本当にクリスか! どうしてクリスがこんなところにいるんだ!?』


 彼女の興奮に当てられたかのように、俺も声が大きくなる。久しぶりだったけれど英語がスラスラと出てくれた。

 小学四年生の夏に出会った女の子、クリスが俺の目の前にいた。二年ぶりの再会である。

 初めて出会った頃から年上に見えていた彼女は、変わらず俺の数歩先を行くような成長を遂げていた。歳は同じはずなのに、高校生を間近にした中学生くらいに見える。


『本当に偶然ね! いいえ、これはもう運命的かも! やだ、わたし興奮しちゃってはしたない……』


 我に返ったクリスは恥じらいからか頬を紅に染める。成長の差なのか、仕草に艶めかしさがあった。

 俺も突発的な再会に興奮していたのだろう。クリスとの会話を楽しんでいた。


『それにしてもクリスはなんでここに? もしかしてコンクールに出るの?』


 クリスの恰好を改めて見てみると、黒のドレス姿だった。ドレスに詳しくはないが、そんな俺でも気合の入れようが見て取れた。


『そうなのよ。審査員の一人がわたしの親戚なんだけど、注目度が上がるから出ろって煩くって。まあ日本に来たかったしちょうどいいかなって思って参加させてもらったの』


 そんなんで出られるのか……。その審査員はどんだけ権力持ってんだよ。

 呆れながらも、そのおかげでクリスと再会できたのだと思うとまあいいかと想ってしまう。我ながら現金なものだ。


「トシくん? この人は誰かな?」

「ちょっと俊成。距離が近いんじゃないの」


 葵ちゃんと瞳子ちゃんに腕を引っ張られる。入れ替わるようにして二人はクリスの前に出た。


『あなた達は?』


 クリスの言葉に葵ちゃんと瞳子ちゃんが揃って呻く。クリスの英語に臆してしまったのだろうか。難しくない言葉のはずだけど、反応が悪いように見受けられる。

 二人にはたまに英語教室で習った内容を教えたりしている。けれど、本場のネイティブな発音を前にしては上手く聞きとれないようだった。

 だが、言葉の壁を前にしても二人は引き下がらない。わからなくても絶対に退かないという意志を感じる。

 そんな二人を前にしてクリスはパンッと手を打った。にこやかな表情で言葉を発する。


「わたしは、クリスティーナです。よろしく」

「えっ!? 日本語?」


 クリスの日本語に葵ちゃんと瞳子ちゃんが驚く。あいさつ程度は話せるのは知っていたけど、前と違って発音のぎこちなさが解消されているように聞こえた。


「二人の、名前を、教えて、ください」

「あ……と、私は宮坂葵です」

「あ、あたしは木之下瞳子よ。……で? あなたは俊成のなんなの?」


 自己紹介をして緊張が解けてきたのか、瞳子ちゃんが切り込む。ぽぅとしていたクリスは噛みしめるように頷いた。言葉の意味を咀嚼していたようだ。


「わたしは、トシナリの、友達……」


 そう言ってクリスは頬を紅潮させる。彼女の熱っぽい瞳が俺を映した。

 ちょっとクリスさん? そんな意味深な反応したら誤解してしまうじゃないですかっ。

 案の定、葵ちゃんと瞳子ちゃんが同時に「どういうこと!?」と詰め寄ってきた。


「いやいや、言葉の通りだって。クリスとは四年生の夏休みに仲良くなったんだ。ただの友達だよ」

「私そんな話聞いてないんだけど?」


 葵ちゃんの笑顔が怖い。これから演奏が控えているんだから冷静にいこうよ。リラックスリラックス。


「アオイと、トウコはトシナリの、何?」


 聞き返すクリスの言葉に、二人はピタリと固まってしまった。

 もちろんクリスの言葉に棘なんか含まれてはいない。単純に聞かれたから聞き返したに過ぎない。


「私とトシくんは、その……友達……よりは特別で……えーっと……」

「俊成とは……別にまだそういう関係じゃないけれど……でも……」


 葵ちゃんと瞳子ちゃんは顔をこれでもかと真っ赤にさせていた。そんな反応に俺まで顔が熱くなる。

 二人の呟きを聞き取ろうとクリスが耳を傾ける。それが追及されているように見えたのか、ついに葵ちゃんと瞳子ちゃんは弾け飛ぶように後ずさった。


「あ、葵ちゃんっ。ほらドレス着ているんだから激しい動きはしちゃダメだよ。もうすぐ本番なんだから落ち着いていこう、ね?」

「う、うん。……大丈夫、私は落ち着いてるよ」


 なだめようとして葵ちゃんの前に立つと、真っ赤な顔をしていた彼女の顔色はすーっとほど良い血色に戻っていった。言葉通り、落ち着きを取り戻したみたいだ。

 気づけばコンクールが始まる時間が迫っていた。懐かしいクリスとの出会いだったけれど、いつまでもここにいるわけにもいかない。


「トシナリ」

「ん?」

「わたしを、応援してね」


 クリスはバチンッとウインクして去って行った。様になっているなという感想を抱く。

 返事を聞く前に行ってしまったクリスの後ろ姿を眺めていると、顔を掴まれて葵ちゃんの方を向かされる。


「私の応援を、してね」


 静かに、けれどしっかりと強調する葵ちゃん。もちろん葵ちゃんの応援をする。しないわけがない。


「うん。がんばってね葵ちゃん。ちゃんと見ているから」

「私、絶対に負けないようにがんばるね」


 彼女の手が離れてようやく一息入れられた。顔が近いから息するのも躊躇ってしまう。


「「……」」


 何か嫌な視線を感じ取って振り向いてみれば、葵ちゃんと瞳子ちゃんのお母様方からじとーとした目を向けられていた。

 口を動かさずとも言葉が聞こえてくるようだ。「またか……」と。

 圧迫感に耐えられなくなって助けを求めて母親に目を向ければ、あっさりと目を逸らされてしまった。母様見捨てないでっ。


「早く席に行くわよ」


 親からの冷たい視線から守ってくれたのは瞳子ちゃんだった。俺の手を引いてこの場から逃がしてくれる。


「……」


 でも、心なしか足音がズンズンと聞こえるのは気のせいだろうか? それに握られた手が痛い気がするんですけどこれも気のせいかな?



  ※ ※ ※



 司会の人が開演を告げる。注意事項を述べてからあいさつへと移る。

 観客席はほとんど埋まってしまっていた。俺が想っている以上に今回のコンクールは注目度が高いらしい。

 席に着くと瞳子ちゃんにクリスのことを洗いざらい話せとの圧力を受けた。言葉にしていないはずなのに尋問されている気分になり、俺は包み隠さず夏の思い出を語った。

 俺だってあれが今生の別れだと思っていたのだ。思わぬ再会にテンションが上がってしまったとしても、許してほしい……というのはダメですかね?

 事情を知った瞳子ちゃんは「まあ俊成だしね」と一言。一応、尋問が終わったという合図だと受け取る。


「あの子……、クリスティーナって言っていたかしら。お手並み拝見ね」


 トップバッターはクリスだった。司会の紹介で「クリスティーナ・ルーカス」というフルネームを初めて知った。

 彼女が姿を見せると観客から大きな拍手が広がる。外国人を珍しがっている子供の声が聞こえた。

 ライトに照らされて金髪が輝いているかのように見える。堂々としていて案外場慣れしているようだ。

 椅子の位置を調整してから座る。一度目をつむるとクリスは手を鍵盤に這わせた。


「すごい……」


 隣の瞳子ちゃんから思わずといった呟き。素人の俺ですら引き込まれてしまうほどの圧倒的な演奏力。

 ただのひいきなんかじゃない。クリスは確かな実力があったからこそこの場に呼ばれたのだ。

 繊細で滑らか、同い歳の小学生が弾いているとは思えない。

 そう思っていたのはほとんどの観客が抱いていたことなのだろう。クリスの演奏が終わると水を打ったような静寂となる。そして夢から覚めたかのように遅れて万雷の喝采が巻き起こった。

 これには認めざるを得ないようで、複雑そうな表情ながらも瞳子ちゃんは拍手を送っていた。俺もあまりの演奏に力いっぱい拍手していた。


「俊成、あの子何者なの?」

「いや、俺も数日遊んだだけだから詳しくは知らないんだ。ピアノやっているなんて今日初めて知ったし」


 頭をかいてそう返すしかない。クリスにこんな一面があるだなんてあの時は本当に知らなかったのだ。

 それからは本来の出場者の演奏が行われた。みんな上手なのだが、最初に演奏したクリスのインパクトのせいで言っては悪いがどの子も小粒に感じてしまった。これは明らかに順番を間違えているだろう。

 せめてクリスの順番が最後だったら。いや、どちらにしても最後で全部持って行ってしまっただろうか。それほどに圧倒的だったのだ。

 主催者は何を考えているのか。しかしクリスのおかげでレベルの高いコンクールにはなったのだろう。


「葵はこの次ね」


 プログラム表を見ながら瞳子ちゃんが言った。ようやく真打登場である。

 だけど、本人は意図せずであろう作ってしまったクリスの流れは厄介だ。ここまで演奏した子達はあまりの実力差に萎縮してしまっているようなのだ。そう瞳子ちゃんが言っていた。

 葵ちゃんのピアノは上手だ。彼女の演奏には心惹かれるものがある。

 それでも、クリスと比べると……。俺には答えられなかった。


「何心配しているのよ」


 俺の手に瞳子ちゃんの手が添えられる。葵ちゃんを心配してしまう心は彼女にはお見通しらしい。


「このあたしがどうしたって勝てないって思わせた葵の演奏よ。ぽっと出の女なんかに負けたりしないわ」


 まるで自分のことのように、瞳子ちゃんは誇らしげに胸を張った。

 瞳子ちゃんは葵ちゃんを信じている。きっと葵ちゃんも自分自身を信じている。

 だったら、俺が葵ちゃんを信じないわけにはいかないだろう。

 ついに葵ちゃんの順番が回ってきた。

 きっちりとしたお辞儀。ピアノへと向かう葵ちゃんの表情は真剣でありながら柔らかい。

 緊張して動きが堅くなる、という心配はなさそうだ。

 深く息を吐いたのがわかる。始まりを予感させた。


「おぉ……」


 誰の呟きだったのか。右から聞こえた気がするし、左から聞こえた気もする。はたまた前か後ろか、それとも俺自身だったのか。

 葵ちゃんの演奏は観客を魅了していた。心に訴えかけるような音の集合体。おそらく誰もが彼女に見惚れていただろう。

 指はそれぞれが別の生き物のように動いている。それでいてリラックスしており自然体の姿があった。

 まるで歌っているかのようだ。葵ちゃんの演奏が俺の心に響く。

 心が弾む。心が安らぐ。まさかピアノでこれほどまで心が動かされるものなのかと驚きを与えられる。

 演奏が終わるとクリスに負けないくらいの拍手喝さいが巻き起こった。何度も「ブラボー!」と連呼している人までいる。


「どう? すごいでしょ!」


 興奮気味に瞳子ちゃんが胸を張った。俺は何度も頷く。

 すごい。本当にすごい! すごいしか出てこないくらいすごい!!


「葵ちゃんってこんなにすごかったのか!」

「そうよ! 今さら過ぎよ俊成。葵はすごいのよ!」


 俺と瞳子ちゃんは大はしゃぎである。まあ母親勢も似たようなものなので許してもらいたい。

 全員の演奏が終了して結果が出る。葵ちゃんは文句なしでの金賞に輝いた。

 クリスはといえば、ゲスト扱いということで賞はもらえないようだった。それでも彼女の実力を疑う人なんてこの場にはいないだろう。


「アオイ、すごい!!」

「わっ!? クリスティーナさん?」


 ピアノコンクールが終わった後、クリスが葵ちゃんに目を輝かせながら迫っていた。

 どうやら葵ちゃんの演奏に感激したのだそうだ。熱心なファンのようにぐいぐいと迫っている。

 困り顔の葵ちゃんの意志が届いたのか、瞳子ちゃんが割って入る。


「ちょっと! 葵が困っているでしょ!」

「トウコですか。あなたがアオイ、教えてくれますか?」

「え? えぇっ?」


 ターゲットを変えたクリスは瞳子ちゃんに迫る。止まらないクリスに瞳子ちゃんもたじたじである。

 しかし話してみれば人懐っこい面を見せるクリスに、葵ちゃんと瞳子ちゃんは次第に仲良くなっていった。

 笑顔が増えていき、かしましくなる。また一つ、クリスの日本での思い出が増えたと思えば嬉しくなる。


「わたし、もう行かなければ、なりません……」


 そう名残惜しそうにクリスは肩を落とした。別れの時がきてしまったのだ。

 久々の再会。しかし次もまた会える保証なんてどこにもない。あの時のような寂しさが込み上げてくる。


「トシナリ」


 なのにクリスは微笑んだ。


「また会える、思う。二度あることは、三度ある、から」


 しっかりと発音を意識するように言葉を紡ぐ。まだ片言だけれど、クリスがどれだけ日本語を勉強しているかは伝わってきた。

 クリスは葵ちゃんと瞳子ちゃんに目を向けた。


「アオイ、トウコ。わたしもっと、日本語、勉強する。次に、会ったら、友達に、なってください」


 間違って伝わらないように。この出会いを大切にしたいという気持ちが伝わってくる言葉だった。


「クリスちゃん、私達もう友達だよ」

「そうよ。今度会う時は友達としていろいろ教えてあげるわ」


 葵ちゃんと瞳子ちゃんの優しさにクリスは笑顔を浮かべた。目の端には薄っすらと涙が見えた気がした。

 クリスは俺の方へと顔を向ける。


「またね」


 今度は「サヨナラ」ではなかった。根拠は何もないはずだ。それでも、クリスはまた俺達と会えるんだって信じているのだ。

 親御さんにつれられ去って行くクリス。前と同じように見えなくなるまで見送った。

 思い出とともに寂しさが顔を出そうとする。俺はそれを必死で押し留めるのであった。


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