第8話 魔石の意味と、おねぇからの注意。
俺はその夜、俺の部屋でベッドに寝っ転がってぼうっと考え事をしていた。
デリラちゃんに懐かれて、癒されまくってるのは事実。
それにナタリアさんのあの態度、可愛すぎるどころか……。
そんな風にひとりで悶えてるときに、エルシーが話しかけてきたんだけど。
『ウェル、あなたナタリアちゃんに気に入られてるみたいね』
「(そうか?)」
『えぇ、とてもいい子に思えるわ。それこそ、あの国の王女なんて裸足で逃げ出してしまうくらいに、ね。ウェル、ナタリアちゃんをお嫁さんにしないの?』
「(いやいやいや。俺と十三歳も違うんだよ? 姪っ子みたいなものじゃないか)」
『そうかしら? 男性として魅力的だって言ってなかったかしらぁ?』
それはそうなんだけどさ。
俺そういう経験ないから。
いざそうなろうとしたとき、どうしたもんかわからないんだよ。
確かに、デリラちゃんは娘のように可愛い。
俺だって勇者なんてやってなければ、娘のひとりでもいたかもしれない年齢なんだよな。
ナタリアさんだって、かいがいしく俺の世話をしてくれる。
彼女の笑顔は可愛いし、デリラちゃんと同じくらいに癒されているのも確かだよ。
それにあのおっぱいの破壊力。
あーうん、ごめんなさい。
「(そういえばさ、エルシー。教えて欲しいことがあるんだけど)」
『どうしたの? 女性の口説き方かしら?』
違うって。
「(違うって。あのさ、魔石って知ってる?)」
『えぇ。魔物の心臓の近くに結晶化するあれのことね?』
「(知ってたんだ。エルシーでもそういう認識なんだね)」
『そうね。ウェルはあの国で教えられなかったの?』
「(名前は知ってたけど。俺、実物見たことないんだ。俺は魔物を倒す専門だったから、剥ぎ取り作業は俺以外の人が受け持ってたんだ)」
『……黒いわね』
「(えっ?)」
『魔石って、昔から相当の価値があるものなのよ。……あの王女かしら、それとも聖女かしら? 魔石ってね、魔法を詠唱するときにね、マナを増幅する効果もあるの。魔法を使う人が持ってる杖、知ってるでしょう?』
「(うん)」
『あの先に埋まってる、大きな赤い宝石みたいなもの。あれが魔石なのよ』
「(あれがそうだったんだ。知らなかったよ……)」
『あれひとつで、金貨数十枚。いえ、百枚以上の価値はあるわね』
「(まじですか……)」
『おおまじよ。それにね。魔石を鍛えることで、魔剣の修復に使う素材になるって聞いたことがあるの。休眠の台座だったかしら? あの中がね、魔石でできてるみたいなの。勇者が引退した後に魔剣を魔法で修復してるっていうのも聞いたことがあるわ』
ちょっと待て。
それってもしかして。
「(まさか、魔剣って魔石から作られているのか?)」
『そうね。修復に使うって言うくらいだから、魔剣の一部も魔石でできてると思って間違いないはずよ。思い出して、魔剣の刃の部分。赤くなってなかった?』
たしかに最初見たとき、変な剣だと思ったよ。
あの赤い部分が魔石だったのか。
「(う、うん)」
『わたしが勇者だった時ってね、聖剣じゃなく魔剣って呼ばれてたのよ。わたしが眠ってるときに聖剣って名前になってたのは驚いたわ。……そうなのね。そこまで秘匿されてたなんてね……』
俺はただひたすら魔物を狩ってきた。
狩った後のことは、騎士たちが処理してたから全く知らなかったんだ。
ちょっと待て。
魔石、魔物、魔獣……。
いやいやいや。
考えすぎだとは思うけど。
「(エルシー)」
『どうしたの?』
「(魔石って、魔獣からだけなのか? もしかして──)」
『えぇ。ウェルが懸念することはわかってたわ。そうね。魔族の人の中にも魔石があると聞いてたわ。それが元で、その昔。人が魔族を攻め入ったという話もあったくらいに』
「(うっそだろう? まさか……。あの赤い角って)」
『デリラちゃんの、あの綺麗な角よね? 確かに魔石に似てると思うわ。もしあれが違ったとしても、デリラちゃんにも、ナタリアちゃんの心臓近くにもあるかもしれないわね。もしそうだとしたら、ウェルはどうするの?』
「(もちろん、守るさ)」
『ウェル。あなた、勇者を斬れるの?』
『勇者を斬れるの?』というエルシーの言葉が胸に刺さった。
そうだ。
イライザさんたち、この集落の皆を。
デリラちゃんを。
ナタリアさんを守るということは、人間の国と、勇者と敵対する可能性だってあるんだ。
『勇者を斬れるのか』、それは今の俺には難しいかもしれない。
剣技だけならそれなりのものを積んだ。
だが、魔剣を相手にして、それが可能かどうか。
「(必要なら、斬るだろうね。もし俺の大切なものを奪おうとするなら。俺は
『そうよ、ウェル。間違えちゃ駄目よ?』
「(間違えるって、何を?)」
『守るべき人を間違えちゃ駄目。あなたは誰が大切なのか、誰のために戦うつもりなのか。それを間違えたら、わたしみたいに、全てを失うことになるのよ?』
エルシーも何かを間違えたんだ。
それだけ想いも強かったんだろう
俺はどうする?
デリラちゃん、ナタリアさん。
この集落の人たちを守るために……。
「(あぁ。間違えない。俺は守るものが、今はあるからね)」
『いい子ね。でも魔剣相手では今のウェルでは手を焼くかもしれないわ』
「(うん。それは考えてた。もちろん手は打つつもり)」
俺は翌日、イライザさんに頼んで、彼女の元に届いているだろう魔石を預かることにした。
彼女は何も聞かずにかなりの数の魔石を俺に預けてくれたよ。
それを持って、俺は鍛冶屋の親父さんに会いにいったんだ。
「お、ウェルさんじゃないか。どうしたんだい?」
「あのさ。親父さんに頼みがあるんだ」
親父さんって言っても、俺とあまり見た目が変わらないんだよな。
親父さん、興味津々な表情で、カウンターを乗り出しそうになってるよ。
「聞こうじゃないか」
俺はイライザさんから預かった魔石の入った革袋をカウンターの上に置いた。
「これは?」
「全部魔石が入ってる」
「ほ、……ほほぅ。それで、どうしたいんだい?」
親父さんの眉がひくひくと動いてたね。
きっとこの先の展開を予想できてたんだろう。
「これで剣を打ってもらいたい。今俺が使ってる剣と同じ形でいいんだ」
「魔石、だけでかい?」
「そうだね。できる?」
「俺を誰だと思ってるんだ? 俺は鍛冶屋だぞ。ウェルさんのそれも俺が打ったんだ。……でもいいのか? ある意味俺の、長年の夢も叶っちまう」
「夢?」
「あぁ。魔石だけで剣を打つなんて、鍛冶屋の夢だよ。魔石を買い集めるなんて、金貨が何枚あってもできやしない。それだけ貴重なものだからな。それが今目の前にこれだけあるんだ……」
親父さんもある意味男の子なんだね。
夢を追いかけてる部分があるとは。
俺はニヤッと笑ってこう答えた。
「親父さん。余った魔石は手間賃として受け取ってもらっていいよ。それで打ってくれるのかい?」
「いいのかっ!」
「あぁ。量的に余るのは確かだろうさ。足りなきゃ金貨を出してもいい」
「いや。足りる。それどころか、余った魔石だけでもおつりが出るくらいだよ。わかった。俺が今まで鍛冶屋として培ってきた技術を全てぶつけてやる。そうだな。ひと月、いや、半月程待ってくれ。そうすれば、うん。絶対にいいものを作ってやる」
「あぁ。頼むよ。期待してる」
「任せてくれ。さぁ、忙しくなるぞ」
俺は笑顔の親父さんに見送られて鍛冶屋を出てきた。
もし、今使っている剣よりも頼りになるものができ上がれば、守る力を増すことができるだろう。
俺は今度は間違えない。
この集落の皆を、デリラちゃんを、ナタリアさんを守ることに決めたんだからな。
とりあえず、俺は甘いものを買って、昨日見たデリラちゃんとナタリアさんのあの笑顔を見ようと下心を持ってたりしたんだけどな。
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