69 ?視点:一目惚れ

 僕の名前は小夜さよ一星いっせい


 見ての通り、苗字も名前も全て夜に関連するもの。

 『一星』という名は、親曰く、一番星のように輝いてほしいみたいな意味らしい。


 その名前のせいかな? 

 あのキャラに転生したのかもしれない。


 小夜一星。

 これは前世での名前。


 そう。

 僕ってさ、転生したんだよね。


 え? 

 じゃあ、今の名前は何かって?

 











 今の名前は―――――ステラ・マクティア。






 あは、ステラとか、女の子みたいな名前だろう。

 まぁ、実際女の子なんだけどさ。


 Mctear息子の涙とか嫌味かよ、って思った。


 はぁ……全くなんで彼女に転生しちゃったんだろうね?

 僕は本当は男の子に転生したかったのに。


 そんな僕の前世はこんな感じだった。




 ★☽★☽★☽★☽★☽




 前世での僕には、仲のいい女友達がいた。

 その子の名前は初姫はつき

 彼女はポップで元気な女の子って感じで、みんなからは好かれていた。

 僕も彼女が普通に好きだったね。

 まぁ、恋愛対象にはならなかったけど。

 

 そんな彼女にはある特徴が。

 それはもうとんでもない乙ゲー好きってこと。


 学校行っては乙ゲー。

 バイト行っては乙ゲー。

 僕と遊んでは乙ゲー。


 怖いぐらいの乙ゲー三昧。


 それでも初姫は成績をトップで維持。

 なぜそんなに好成績を収めるのか、聞いてみたところ、彼女は。


 「推したちが頭がいいから、私も頭良くなろうと思っただけよ!」


 と、即座に返答。

 その時の僕は、推しのためになぜそこまでできるのだろうと思っていた。

 全く想像がつかなかったね。


 そして、時が過ぎて、高校1年生が終わろうとしていた春。

 突然、初姫から。


 「やってみてよ! 一星もきっとはまるから!」


 と乙女ゲームを勧められた。


 「え? 僕、男なんだけど?」

 「それがなによ! 男でも乙ゲーをプレイしちゃいけないの!?」

 「いや、別にそんなことは言ってないけど……」

 「じゃあ、やってみなさい! きっとはまるから! はいっ!」


 最初は全然乗り気じゃなかった。

 乙ゲーするぐらいなら、他のゲームをしたい。

 だって、乙女ゲームって女の子を対象とした恋愛ゲームでしょ?

 はっ、僕が二次元の男を好きなるわけない。


 だが、いざやってみると。


 「は? ……めちゃくちゃ面白いじゃん」


 その考えは間違いだって分かった。

 次の日には、初姫に会うなり、土下座をした。


 「ごめんなさい、乙女ゲームなめてました」

 「あはは! 一星もはまったのね! いいわ! 許してあげる!」

 「ありがとうございます、師匠」


 初姫は自分のカバンをがざごぞ。

 バッグの中から何かを取り出した。


 「じゃあ、次! これしてみて!」


 差し出されたのは違う乙女ゲーム。

 

 「ははぁ~、ありがたき幸せ」


 僕はそれをありがたく受け取った。

 ――――――――数ヶ月後。


 「一星! このゲームしてみて!」


 また、初姫からゲームを紹介された。

 渡されたボックスのタイトルには「Twin Flame」。


 「…………ん?」


 そのゲームの名前には非常に見覚えがあった。

 あ、これ、知ってるぞ。

 乙ゲー界隈で流行ってるやつだ。


 「うーん」


 だが、このゲームは王道だったはず。

 僕の中では王道乙ゲーはあんまり。

 悪くはないんだが、もう少しシリアス展開や驚きの展開がほしい。

 そう思って、渋っていると。


 「まぁ、やってみなさい! やってみないことには面白いか分からないでしょ!」


 と押されたので、とりあえずやってみた。

 最初の方はまぁありきたりな乙女ゲームだなと思った。

 絵もよし、ボイスもよし、シナリオは普通という評価。


 だが、彼女が目の前に現れた瞬間、その評価はガラリと変わる。


 「…………へ?」


 綺麗な銀色の髪をもつ少女。

 彼女はめちゃくちゃ怒っていて、主人公を見下げていた。

 ゴミを見るような目だった。


 そんな彼女――――ルーシー・ラザフォードに、僕は惚れた。一目惚れだった。

 

 彼女が多く登場するライアンルートを何周かして、ルーシーが好きであることを確認。

 ゲームを紹介してくれた初姫には涙をしながら土下座し大感謝。


 「え!? あの悪役令嬢が好きになったの!?」

 「はい、師匠」


 ルーシーに恋したことを話すと、初姫は珍しく「うーん」と唸っていた。

 だが、一時して。


 「それもいいわね! 一星らしい乙女ゲームの楽しみだわ!」


 と言ってくれた。

 さすが乙ゲーの師匠。最高の師匠だ。


 それからは、ルーシー中心の生活に変化。

 勉強しては、ルーシーに会いに行き。

 生徒会の仕事をしては、ルーシーに会いに行く。

 そんな日々を繰り返した。


 最終的には等身大のルーシーパネルを自作。

 それを初姫に見せた時には、「いいわね! あんたらしいわ!」と褒められた。




 ★☽★☽★☽★☽




 高校2年の秋。

 僕は生徒会長になった。

 初姫は副会長。他のメンバーは知っている子たちばかり。

 身内だらけの生徒会が発足した。


 その生徒会の仕事だが、勉強や部活があったので、それなりには忙しかった。

 だけど、1年生の時にも生徒会に入ってたしな。

 去年ほどきつくはなく、楽しくできた。

 

 平穏な学校生活を満喫していたある日。

 僕はこんな噂を耳にする。

 それは他校には全員が「Twin Flame」が好きなクラスがあるというもの。


 どうやら、クラス全員をツイフレ民にさせた女の子がいるらしい。

 (「ツイフレ民」とは「Twin Flame」のプレイヤーのこと、またはそのオタク)


 会ってみたいんだが、学校遠いしな。

 それに、急に「はい! 君もツイフレが好き! 僕も好きなんだ! 仲良くしよう!」と話しに行くわけにもいかない。


 と、僕はその女の子に会いに行くのを諦めた。

 せっかくなので、初姫師匠にもこの噂を知ってほしいと話してみた。

 すると、師匠は。


 「ちょっと遠いから、会うのは無理そうね! 残念! 私もその子と友達になってみたかったわ!」


 元気よくそう言ってきた。

 全く同感だった。


 ――――――数ヶ月後。

 文化祭開催が近づき、僕は初姫と文化祭の準備をしていると、

 

 「最近、〇×をしめていた不良が大人しくなったらしいわよ!」


 彼女がそんなことを話してきた。


 「へぇ、よかったじゃん」


 不良が更生をすることはいいことだ。


 「どうやら、彼の付き合いが悪くなったみたいね!」

 「…………なんでお前、そんなことを知ってんだよ」

 「ちょっと耳にしたのよ! もしかしたら、彼も一星みたいに、乙ゲーにハマっていたりして、不良やめたのかもね!」

 「そんなのあるわけ…………その話が本当なら、僕は今すぐにでもそいつと友達になりたいね」

 

 僕も笑いながら冗談を言った。

 不良と友達…………そんなことはきっとありえないだろうけど。


 「私もよ!」


 初姫もにっこり笑って、答えていた。




 ★☽★☽★☽★☽

 



 ――――――――数日後。


 結論から話す。

 僕は事故にあった。


 運転手が居眠りしていたのか、それとも気が狂っていたのかは分からないが。

 その車は見るからに暴走していた。


 しかし、初姫は楽しそうに僕に話しかけていた。気づいていなかった。


 だから、初姫の体を押した。

 車に衝突後、僕の体はぽーんと飛ばされ、コンクリートにゴロゴロと転ぶ。


 痛い、痛い、痛い。


 全身には痛みが走り、手足末端に至っては感覚なし。

 視界もぼやけている。


 そんな状況でも、なぜか僕は意識があった。話せた。


 「バッカじゃないの! なんで私をかばったのよ!」


 初姫は僕を抱きかかえ、叫んでくる。

 なんでって。

 

 「それは……師匠が引かれそうだった、から」

 「ばっかじゃないの! それならあんたも側転して避ければよかったじゃない!」


 …………いや。そんなアクロバティックなことできないよ。


 「あんたが私をかばう必要なんてなかったでしょ!」


 いや、あったよ。

 師匠には死んでほしくなかった。

 最近、師匠には彼氏ができてたし、2人は幸せそうにしているのを何度か見かけた。


 だから、きっと師匠に何かあったら、彼氏さんが哀しむだろうと思った。


 ――――――――でも、僕は?


 彼女はいないし、ぶっちゃけルーシーにしか興味がない。

 だから、僕はきっと一生独り身。

 ルーシーとぐらい魅力的な人と結婚したい願望はあるけど、そんな人は現れるはずがない。


 結婚が全てじゃないのは分かってる。


 でも、師匠には死んで哀しむ人がいっぱいいるから。

 師匠には将来幸せになる未来が見えているから。


 だから、師匠には生きてほしかった。


 「誰か! 救急車を! 誰か! 助けて!」


 初姫の声が遠のいていく。

 ああ……助かりそうにないな。


 死ぬのなら……そうだな。

 ライトノベルみたいに異世界転生でもしたいな。

 できればルーシーの世界へ行きたい。


 ルーシーに会いたい。


 …………あは。まぁ、そんなの無理だろうけど。


 初姫はらしくなく、泣いていた。

 彼女の涙が、ぽたぽたと僕の顔に落ちてくる。


 「あんたは最高のゲーム仲間なの! 趣味仲間なの!」


 僕もだよ、師匠。 


 「…………大切な親友なの!」


 僕もだよ、初姫。

 

 「だから、お願い! 死なないで! こんなところで死なないで!」

 「…………ご、めん」

 「ダメ! 一星! 目を閉じないで! 死なないで!」


 初姫は僕をぎゅっと抱き着く。


 ――――――――じゃあな、相棒。お前と過ごせて、本当に楽しかったよ。


 そうして、僕は目を閉じた。




 ★☽★☽★☽★☽★☽

 


 

 気づけば、部屋にいた。


 ――――――――病院? 


 いや、違う。

 木造の家にいた。


 一体ここはどこだ?


 そう思って、体を動かそうとする。

 だが、上手く動かせない。

 なんなんだ、この体。

 刺されて動けなくなったのか? 神経が麻痺したのか?


 自分の手を見てみる。

 

 …………え?


 自分の手は小さかった。赤ちゃんみたいだった。

 

 え? 

 うそ?

 え?

 なにこれ?


 手以外にも頑張って、見る。

 自分の体は赤ちゃんみたいだった。


 僕は、ふと死ぬ間際に考えていたことを思い出す。


 『ライトノベルみたいに異世界転生でもしたいな』


 …………え? 

 あれ、冗談だったのに?

 本当に、僕、転生したの?

 うそでしょ?


 「うぅあ――!!」


 うまく言葉を発せず唸っていると、視界に女性の顔が入ってくる。


 「そんな顔して、どうしたのー?」


 どうしたもこうしたもありませんよ、奥さん。

 僕、転生したみたいなんですよ! 

 すごくないですか!?


 なんてことは伝わることはなく。

 金髪の女性はこちらにニコリと笑うだけ。

 でも、この女の人。

 どこかで見たことがあるような………。


 思い出そうと、その女性を凝視していると。


 「あれー? ステラちゃーん? そんなにこっちみてどうしたのー? うーん?」


 と言ってきた。


 え?

 ステラちゃん…………だって?


 もう一度、その女性の顔をみる。

 赤ん坊の視力のせいかよく見えないけど。


 でも、この人見たことがある。絶対にある。


 …………ああ。

 Twin Flameのサイドストーリーで出てきた主人公のお母さんだ。 


 となると、僕は――――――――ステラ・マクティア?

 

 え? うそでしょ?

 まさかの乙ゲー主人公に転生?

 しかも女に転生?


 はー、もう最悪じゃん。

 そういうのはフィクションだけにしてよ。

 僕、女の子として生きるとか嫌なんだけどー。

 

 と初めはがっかりした。

 

 ―――――――だけど、冷静になってあることに気づいた。


 僕がステラ・マクティアってことは、この世界は「Twin Flame」?

 じゃあ、じゃあ。

 ここがあの乙女ゲームの世界だというのなら、この世界にはあのルーシーがいるってこと!?

 ふぉっ!? 僕の推しがいるってこと!?


 「あぎゃ――――――――!!」

 「ス、ステラちゃん? 急にどうしたの?」


 よぉっしゃあ――!!

 僕の大好きなルーシーに会えるぞぉ――!


 僕を転生させてくれた神様、マジありがとう――!

 最高だぜっ!


 「あぅぎゃ――――――!!」

 「……え? どうしたの? ステラちゃん?」


 突然、奇声を発し始めた赤ちゃんに驚くお母さん。

 僕はそんなお母さんを無視して、体をめいいっぱい動かし、叫けぶ。

 そして、神様に赤ちゃん風に大感謝していた。




  ★★★★★★★★


 余談:初姫師匠、始めは男の子設定でした。

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