7 カイル視点:君の世界を変える
手紙を出すと、数日後にルーシーから返事の手紙が返ってきた。
その手紙にはぜひともお会いしたいと書いてあった。
ああ、やっとラザフォード家に行ってもいいんだ。
やっとルーシーに会えるんだ。
僕はそう思うと、つい叫んでしまい、家族に心配をかけてしまった。
そして、ルーシーの手紙を受け取って、数日後。
僕はラザフォード家に向かった。
到着するなり、彼女は出迎えてくれた。
「こんにちは、ルーシー様」
「こんにちは、アシュバーナム様」
挨拶を交わした瞬間、爽やかな風が吹く。
そして、自分の髪が大きくなびく。ルーシーの銀髪もなびいていた。
ルーシーの奥に何かを秘めたような紫の瞳。
彼女はそれをこちらに向け、じっと見つめていた。
本当にルーシーなんだ……………………。
目の前のルーシーは悪役感などなく、すでにデビュタントした令嬢に見えた。
とはいえ、ゲームで見る頃とは違いまだ幼さがあるルーシー。
だとしても、彼女の態度は凛としていて、美しかった。
黙って見つめていると、ルーシーは嫌だったのか、僕から顔を逸らした。
しまった。
じっと見すぎてしまった。気を許すと、ルーシーを見つめてしまう。
「カ………アッシュバーナム様、どうぞこちらへ」
ルーシーに案内され、僕はラザフォード家の屋敷に入っていく。
隣に
そこには庭が広がっており、それはそれは豪華で。
前世では見たことがない庭だった。
もちろん、アシュバーナム家の庭もすごいけれど、
「庭を歩いてみましょうか」
外が気になっていたことを察されたのか、ルーシーがそんな提案をしてくれた。
僕は当然了承。
庭を歩くなんて、夢のようなことだった。
僕らは庭を歩いていく。
すると、ルーシーからこんなお願いをされた。
「あなたの魔法を見せていただけませんか」
もちろん、僕はそれを了承。
ルーシーに会うまでにすでに魔法は練習していたので、何の問題もなかった。
少し広くなったところで、僕は魔法を見せることにした。
「行きますよ」
手に意識を集中させ、氷の彫刻を作り出す。
「うわぁ…………」
背後からそんな感嘆の声が聞こえてきた。
確かルーシーはそこまで魔法が使えなかった。
だから、こんな魔法はそこまで見たことがなかったのだろう。
完成すると、僕はルーシーを彫刻の方へ促した。
「綺麗…………」
ルーシーはそう呟き、彫刻の方へ歩いていく。
もう少し面白いことをしてみようか。
ルーシーにぜひとも楽しんでもらおう。
ルーシーが彫刻に触れた瞬間、僕は彫刻を粉々にする。
すると、いいタイミングで風が吹いてきた。
太陽の光に照らされ、キラキラと氷の結晶が舞う。
ルーシーは笑みを浮かべ、楽しげにクルクルと回り始めた。
ずっと大人びた人だなと思ったいたけど、こうすると普通の少女。
滅多に見えれない、いや、僕しか見たことがない、ルーシーのかわいい一面だな。これは。
きっとルーシーの推しの誰もが見たことがないだろう。
あぁ、スマホがここにあれば、今すぐ動画に収めたい。
そして、何度も再生したい。
そんな感情を隠し、僕は静かに見守る。
「ウフフ、楽しんでもらえてよかったです」
「あ」
僕はルーシーに微笑みかける。
すると、ルーシーは顔を赤くさせていた。
「お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ございません」
「いいえ、大丈夫ですよ」
あぁ! かわいすぎやしないか!?
写真、いや動画に今すぐ収めたい!
なんでこの世界にはカメラがないんだ!
「むしろずっとやっていてほしい」
そんな心の声が漏れてしまう。
僕はとっさに口を抑えるも、ルーシーには聞こえていないのか、先に歩き始めていた。
よかった。
こんなこと聞かれれば、ルーシーに引かれてしまう。
気を付けよう。
ずっと薔薇の生垣に囲まれた道を歩いていたが、そのうち広くなった場所に出た。
そこには1つのガーデンテーブルと2つの椅子。
「あそこで、お茶をしましょうか」
まるで庭でお茶をすることが決まっていたかのようだった。
本当に用意がいいなぁ。
なんて思いながら、椅子に座る。
ルーシーはもう1つの椅子に座り、僕らは向かい合う。
どうしよう。
こうして、向き合うとめちゃくちゃ緊張する。
だって、大好きなルーシーが目の前にいるんだから。
前世ではこんなことが起きるだなんて思わなかった。考えられなかった。
僕は緊張のせいか、それとも推しの姿を頭に叩き込んでおきたいと思ったのかはっきりしないが、ルーシーのことをまた見つめてしまった。
婚約の話をするタイミングがなく、僕らはずっと他愛ない話をした。
いつ婚約の話を切り出そうかとムズムズ。
プロポーズみたいなことなんて前世ですらやったことないのに。
なんて、言えばいいんだ。
そして、時間が過ぎ、話題も尽きてきたころ。
「実は僕、ルーシー様にあるお話をしたくて、参りました」
と切り出すことができた。
「えーと…………それはなんでしょう?」
首を傾げるルーシー。
その仕草さえ、愛おしく思えた。
もう前振りとか分からないから、言っちゃおう。
「突然の話ではありますが、僕と婚約してください!」
「え?」
ルーシーは驚いたのか『あ、あ…………』と呟きしどろもどろ。
動揺しているのはすぐに見て取れた。
ど、どうだろうか?
僕は返事をじっと待つ。
そして、一時して冷静になったルーシーは答えてくれた。
「申し訳ございません。私、あの、殿下と婚約しているんです…………」
「え?」
僕の思考は停止。
うそ?
ハーマンが言っていたことは本当?
でも、まだ僕らは9歳だよ?
婚約するまでにあと1年もあるんだよ?
今の
この世界はゲームと同じようになっているはずだ。
だって、それまでの僕はゲームのシナリオなど知らず、何もしていないのだから。
だから、今のルーシーには婚約するまでにあと1年もある。
あるんだぞ……………………。
「そんなバカな。まだ、9歳なのに」
「アシュバーナム様も9歳ですよ?」
「いや、そうなんだけど…………」
すると、背後で待機していたハーマンが、小さな声で言ってきた。
「カイル様。私は何度もお伝えしましたよ。ルーシー様は殿下と婚約なさっていると」
「そ、そんなはずない!」
何かの手違いだ。
きっとそう。
ルーシーが9歳で婚約だなんて、冗談だろう?
「ルーシー様の左手を見てください。アレがどういう意味を示すのかお分かりでしょう?」
「そんな、そんなはずは…………」
僕はルーシーの左の薬指を見る。
小さなその指には指輪がはめられていた。
あそこの指にあるってことは……ことは………………。
「………ルーシー様、殿下との婚約は本当に本当なのですか」
「はい…………申し訳ございません」
そんな、そんな。
僕は推しと婚約…………いや、結婚できると思ったのに。
僕なら、ルーシーを最悪のエンドにさせないことができたのに。
絶望的だった。
このままだと、ルーシーが国外に追放されるか、殺されるかの2択。
――――――――――――僕はどうすればいい?
すると、ルーシーがこう言ってきた。
「カイル様、婚約はお受けできませんが…………その、私の友人になっていただけませんか?」
「え?」
「私にはそんなに友人がいません。こうして、カイル様にお会いできたので、よければでいいんです、友人になっていただけませんか? あ、もしカイル様が嫌と――」
僕はルーシーが言い終える前に、席を立ち。
「はい! 友人になりましょう!」
そして、ルーシーの両手を握った。
ゲームでは
でも、友人になれば?
世界を変えれるのではないか?
「僕はルーシー様の友人になりましょう!」
僕は嬉しさを抑えきれず、大声で話す。
友人関係であれば、一緒にいても違和感はない。
ずっとルーシーと過ごすことができるんだ。
それにルーシーの悩みも聞いて支えることができる。
王子以外の相手もいるんだよ、僕もいるんだよ、って伝えて。
――――――――――――ルーシーの友人である僕が彼女の世界を変えるんだ。
ルーシーの両手をぎゅっと握る。
そんな僕はすでに彼女の親友になった気分だった。
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