暗雲立ち込める

 サクラの勝利によりヴィランサイドは流れを掴んだ。

 その後、6回の戦闘においてギリギリの戦いをしつつもすべてヴィランが勝利。

 そして、次はヒーローサイドが一番危険視していたノアの順番が回ってきた。

 ヒーローサイドからはフヨウが戦う際にお助けとして参戦しつつも活躍の場がなかったゼンガ―が選ばれた。


「俺の相手はあいつ。男か女か知らんがあんなチビにやられるわけにはいかねぇ」


 すると、ノアはゆっくりとゼンガーの前までやってきて見上げながら不敵な笑みを浮かべつつ言った。


「そんなに気合いを入れなくてもいいよ。終わるから、一瞬で」


 そういうとポータルへと向かった。

 ゼンガ―は生粋のパワータイプで力比べで勝てるものはこの中にいないほど。ヒーローサイドにとってもかなり重要なポジション。のしかかる期待をもろともせずサムズアップを見せポータルへと向かっていった。


「ねぇ、ミハルちゃん。今回どう思う」

「……ノアは強い。不慣れなツバキがいたとはいえメインプレイヤーの私とフヨウ、それにゲームに慣れてるヤマトくんがいても手も足も出なかった」

「あの時は正直諦めかけてたよ。でも、どんな相手でも力技で押し切るゼンガ―ならワンチャンあるかもしれない」

「ここでポイントを抑えることができればかなり有利になる。あとはお助けとして出てきたときにがんばれば勝機はある」

「この戦い、かなり重要な一戦になるね」


 高層ビルの立ち並ぶ中心街にゼンガ―は立っていた。

 勝利条件は至ってシンプル。ヴィランプレイヤーの撃破だった。


「このタイミングでこれか。気合いを入れないとな」


 拳を突き合わせ気合い入れる進んでいくと離れたところでいくつもの大きな音が鳴り響き煙が昇った。誰かが戦っていると考えすぐさま現場へと向かった。


 現場に到着すると周囲はめちゃくちゃで車は横転して煙を上げビルのガラスは割られ半壊している建物さえある。戦いが始まってまだ間もないというのに異常な規模の破壊が行われていた。


「やぁ、思ったより早いじゃないか」


 空にはノアが浮いていた。その手にはヒーローサイドのお助けプレイヤーアキオの姿。ノアに傷一つないところから一方的になぶられやられたことが伺える。手を離し地面に落ちると体力がゼロとなりリタイア。

 直後、特殊部隊が周囲に集まり武装したヘリさえも現れた。


「な、なんだこいつらは」


 デジタルデバイスで確認すると周りに集まったのはヒーローサイドの仲間であるNPC。本来ならば時間的に10人程度が仲間になれば多い方だったがノアが大きな被害を発生させたことで一斉にこの場に集まりさらに増援として続々と増えていく。。

 銃火器をもった隊員たちは一斉にノアへと攻撃態勢をとる。


「力を見せつけすぎたんじゃねえか? こっちとしては仲間が集まるからいいけどな」

「蟻が100匹集まっても神には勝てないよ」

「自分を神だとでも思ってんのか? 見た目通りならお前はただのがきんちょだ。俺は一人でもいいが、戦いにおいて数がどれだけ大事が思い知らせてやろう」


 直後、ゼンガ―の後ろで大きな爆発が起きた。

 ノアはヘリから放たれた攻撃を操作し車両に向けて破壊していた。その爆風と連鎖により後ろにいた隊員たちはほぼ壊滅状態少し離れた位置にいた者たちは無傷だったが、それを確認したノアは車を宙に浮かし何台も飛ばしもう一度ヘリに攻撃をさせる。

 再び大きな爆発が起きると用済みといわんばかりに手を触れずにヘリを動かし建物へと叩きつける。1分にもみたない時間で駆け付けた部隊は壊滅した。


「なんで僕が大きな被害を出したのか理解してくれたかな」

「こっちのNPCを撃破してポイントを稼ぐためか……」 

「ついでに言っとくけどもうお助けNPCはいないからね。あとは君だけだ」


 すでにヒーローサイドのお助けプレイヤー、お助けNPCは全滅している。ノアが暴れれば暴れるほどヒーローサイドのNPCは集まってきてしまうため下手に時間をかけるとたとえ勝利してもポイント差を広げられてしまう。ゼンガーができる行動はたった一つ。この場でノアを仕留めることだった。


「お前を倒せば終わりだろ。シンプルな解決だ!!」


 割れ目の入った道路に拳を入れると強引に持ち上げノアへと投げた。異常な怪力は参加プレイヤーの中でもトップでこれ以上のパワーを発揮できるものはいない。空を飛ぶノアへの対抗手段としてはゼンガ―の数少ない攻撃手段ではあるが強力かつ投げられるものがいくらでもある街中はむしろ好都合だった。

 周囲にあるものをすべて利用し数えきれないほどの瓦礫を投げつけていった。


「ほら! もういっちょう!!」


 さらに投げつけ近くの壊れた車さえも次々と投げていく。これはゼンガ―なりの作戦の一つだった。どれだけ能力が強くても扱うのが子どもならば油断が生まれる。むしろ能力が強ければ強いほど未熟な精神では油断という悪魔に刈られる。能力の限界を発揮した時、そこに付け入る隙があると判断したのだ。


「はぁ~、すでに地の利は僕にあるんだよ。どれだけ投げようともここまで単純では簡単に――」


 その時、いつのまにか移動していたゼンガーにより後方からも瓦礫が複数飛んできた。余裕をこいていたノアはすぐに正面の瓦礫を別の物で相殺し背後から迫る瓦礫を能力によって完全に停止させた。そんなノアの姿を見てゼンガ―はにやりと不敵な笑みを浮かべると体を屈伸させ大きく跳躍。ノアの視界を妨げていた瓦礫を破壊し一気に距離を縮めた。


「近づけば倒せるとでも思ったか!」

「別に俺を止めてもいいがそのあとのことを考えな」


 上空からは落下してくる瓦礫、ゼンガーの後ろからも新たな瓦礫が迫っていた。近づく前に瓦礫を投げてたった一人の包囲攻撃を完成させたのだ。


「お前の能力は視界に収まっていないとだめなんだろう!」

「……」

「俺を倒せしても後方の瓦礫がお前に迫る。正面叩いても上の瓦礫がお前を襲う。さぁ、どうするか選びな!」


 ノアは悔しそうな表情を浮かばせたがすぐにため息を吐き悟った目でゼンガーをみつめた。


「筋肉だるまにしてはやるじゃん。でも、僕の能力はそれだけじゃない」


 ゼンガーは瞬きをしていない。ノアを捉えるために集中力を高めどんな選択をとられても確実に一撃必殺の拳をぶち込むつもりだった。だが、気づけば目の前にノアの姿はなかった。


「あいつはどこへ!?」

「ここだよ」


 隣のビルの上で大量の瓦礫の屑を周囲に浮かばせるノアの姿があった。


「今までお前が投げつけた瓦礫をした。落下し屑となって道路に散らばっていた瓦礫はお前にとっては用が済んだゴミ屑でも、僕にとってはこれもまた武器になるんだよ」


 瓦礫の屑を竜巻のごとく高速で回転させそのすべてをゼンガーへと一気に放出。空中ではまともに身動きが取れないゼンガーは攻撃を受けることしかできなかった。

 周囲の物さえも巻き込みビルさえも超える巨大な竜巻へと変化しフィールドを突風が支配した。この状況を見ていた全プレイヤーは思った。こんな相手とどう戦えばいいのかと。

 竜巻がおさまると天高く飛ばされたゼンガーは地面へと体を叩きつけられる。ゆっくりと舞い降りた。


「瀕死だね。いまの姿とっても惨めで愚かで素晴らしいよ。パワーがあっても策を弄しても結局負けてしまう。それをみんなに知らせてくれたお前の功績はたたえてあげる」

「……まだだ!!!」


 ぎりぎりの体力の中ゼンガーは最後の力を振り絞りノアの脚を掴んだ。常に浮いていたノアに対して有効打を当てることができなかったが今ならどんな攻撃でも当てられる。ゼンガーは常に考えこの瞬間を待ち望んでいたのだ。


「子どもってのはかわいいな。うぬぼれて油断するんだからよ! エースストライク発動!!!」

「お前まさかこのタイミングを――」

「もう遅い! これで終わりだぁぁぁ!!!」


 フィールドには怒号が鳴り響く。土煙が広がりノアとゼンガーの姿は見えない。近接戦闘の手段を持たずゼンガーを拘束するパワーもないノアには成す術はない。

 これでゼンガーが勝利したならヒーローサイドにとっては大きな前進であり、ヴィランサイドにとっては最強のメンバーがやられてしまう最悪の事態となる。

 そして、バトル終了のアナウンスが流れた。


「勝者は――ヴィランサイド、ノア選手」


 ヒーローサイドのメンバーは耳を疑った。あの状況下でどうやって勝ったのか、疑わずにはいられない。

 土煙が晴れ、二人の姿が見え始める。

 ミハルはゼンガーの最後の姿を見て下唇を咬んだ。


「最後はちょっと驚いたけど別にどうということはない。確かに視界に入っていないと空間操作は難しいけどできないわけじゃない。なんたって最初からずっとお前が投げ飛ばした瓦礫を宙に浮かしていたんだから」


エースストライクが発動する直前に空に待機させていた瓦礫を一気に落下させ攻撃を仕掛けていた。土煙はゼンガーが発生させたものではなくノアの瓦礫が直撃し巻き上げた物だった。


「言ったでしょ。お前の瓦礫を利用したって」


 ノアの驚異的な能力によりヴィランサイドのポイントは5300。ヒーローサイドは0ポイントでバトルを終えることになった。異常なまでの破壊行動によりNPCのほとんどがノアを敵として認識してしまったことから発生した常軌を逸したポイント。このまま戦っていてもヒーローサイドがノアのポイントほど稼ぐのは至難の業であり、最悪なことにまだノアにはお助けプレイヤーとして戦う機会が残されている。

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