達人の時間 2
先に仕掛けたのはゴウだった。
俊敏かつ力強い動きで攻めるもののサクラはしっかり対応しつつカウンターを当てにいく。しかし、先ほどまでとは違いゴウは柔らかな動きで刀を避けて波動を溜め手のひらをサクラへと向ける。レベッカの時とは違い拡散する波動が放たれたダメージは低いが吹き飛ばす。
「柔よく剛を制し剛により柔を圧する。これが波動の戦い方だ」
「自分の実力に上手く能力を合わせてきたのね」
「まだまだ若いやつに遅れは取らんわけだ」
「だったら、こっちもゲームとしての戦いをさせてもらう」
刀を一振りすると周囲には可憐な桜の花が舞い散る。
「あなたはとても強い人。だけど、戦いには相性がある。とくにゲームの世界ではそれがはっきりと分かれる。――
再び刀を振るうと花びらは一斉に軌道を変えてサクラの振りと同じ軌道を描きながらゴウを斬った。
「なにっ!?」
「クールタイムが長いからここぞという時にしか使えない。時間制限のある第三戦ではなおさら。そんな技をあなたに使うということは、あなたを倒せば私の敵はいないということ。これは私からの尊敬の念よ」
波動を溜めて防御へと応用するが四方八方に舞い散る花びらのどれが攻撃してくるかわからない中で回避することは困難だった。
サクラとゴウの相性とはあまりにも単純で適正距離の違い。サクラは接近戦においても高速戦闘が可能で離れていても距離をもろともしないほど一気に詰める。刀を振るう隙すらない超接近戦ならばゴウの勝機は多分にあったが、一度離れてしまえばサクラの術中に入ったも同然。ゴウは接近戦での高速の連打は可能だが、自身が高速で長い移動をすることはできないために回避が難しく予測のしづらい攻撃にはあまりにも無力だった。
もし、これがレナだったなら距離をおいて攻撃のパターンを呼んだりすることも可能なのかもしれない。だが、その時はサクラ自身の実力がレナを凌駕しているためにシンプルに負けてしまう。この場で唯一攻撃を回避できるのはレベッカだった。炎を発生させることで花びらを破壊することができる。味方の能力を知っているからこそサクラはこの技を発動した。
「くそっ、これじゃ手も足も出ない。八方ふさがりだ」
ヒーローサイドはすでにお助けNPCを倒されておりポイントはヴィランがリードしていた。その上お助けプレイヤーを倒されれば例え勝利してもポイントでは負けてしまう。
「覚悟を決めろ私……最善の行動を……!! エースストライク発動!!!」
レナのエースストライクが発動し衝撃波が周囲に拡散。誰も吹き飛ばされてはいないが様子は状況は確実に変化した。
「な、なんだ……。あたしの体が……」
衝撃波の範囲にいたすべての者の動きを完全に停止させた。
レナの刀は眩しい光を放ち刀身が伸びる。
「すべてを斬ります! 万物万象無尽斬り!!!」
長く伸びた刀身はさらに大きくなり、横降りで建物さえも両断。ゴウを含めレベッカさえも一撃で仕留めた。その瞬間勝敗が決まる。
「条件達成によりヴィランサイドの勝利です」
「――えっ……」
レナが期待していたアナウンスとは違うものだった。確実に全員を倒したと確信していたのにも関わらずだ。
その時、後ろで何かが倒れる音がし振り返るとそこには護衛対象である佐久間象山がうつぶせで倒れていた。その後ろにはサクラが立っている。
「な、なんで……」
「ポイントを取らせないために仲間も同時に斬る判断は正しかった。でも、付け入る隙がないわけじゃない」
「みんな動けなかったはず! むしろサクラさんは近かったんだからやられてないとおかしいのに!」
「エースストライクは個人の想像から生まれる。といっても際限なく強いわけではない。ゲームという性質上確実に何かしらの調整はある。あなたのはミハルと同じで相手の動きを拘束してからの斬撃。だけどミハルと違って衝撃波も攻撃も範囲が広い。そこで思ったの。硬直時間に限りがあるんじゃないかって」
斬撃が迫る直前、サクラは自分の体が動くことをいち早く察知した。目の前にいたゴウは避けられずレベッカは動けないという認識が固定された故に回避を取れなかったがサクラだけは違った。
動けるとわかると姿勢をギリギリまで低くして斬撃の軌道に合わせつつ低姿勢で移動し対象を倒した。
なぜレナがこのことに気づけなかったのか。それは今まで回避した者がいなかったからだ。エースストライクは発動すればその技の内容を把握できるが今まで回避したものがいないという状態が回避できないという認識になってしまいわずかな隙を生んだ。さらに斬撃は大きさゆえの反動が生じ軽く斜め上を描くようになってしまいサクラの移動する隙を与えてしまった。
「最後まで何が起こるかわからない。油断は禁物よ」
レナ ヴィランNPC撃破4人 40ポイント
サクラ ヒーローNPC12人撃破 120ポイント
お助けNPC撃破 800ポイント
勝利ボーナス 1000ポイント
「サクラ、腕は落ちてないみたいね……」
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