稽古合宿
第二戦の戦いのあと、道場へいき稽古をつけてもらったあと師範代は言った。
「お前三日くらい時間取れるか?」
「特に用事はないですけど」
「ならよかった。交通費渡すから稽古に行ってこい」
「行ってこい? どこに行くんですか」
「俺の知り合いの山さ。心配しなくてもしっかり泊まる所もあるし温泉もある。ただ、秘境みたいなもんだからちょっと疲れるかもな。詳しいことは現地で聞いてくれ。なんだったらお友達連れて行っていもいいぞ」
そのことを椿に伝えると。
「行く行く行く!! 温泉入りたい!!」
「遊びじゃないよ」
「わかってるよ。美春が稽古する姿も見たいしさ。温泉も入りたいし」
「絶対温泉メインでしょ……」
「いいじゃ~ん。師範代さんもいいって言ってるんでしょ」
「わかったよ。明日の朝、駅に集合ね」
こうして、二泊三日の稽古合宿をすることになった。
美春は師範代の知り合いが管理する山奥へとやってきた。
「ねぇ~、まだつかないの~」
「別についてこなくてもよかったのに」
「そんな冷たいこと言わないでよ~。美春とおでかけする機会少なかったんだから行きたくもなるじゃん」
「と言ってもこんな山奥でしかも稽古だよ」
「正直今は後悔してるよ……」
合宿という響きに釣られて椿も同行していた。
田舎の最寄りの駅を降りてバスで一時間。その後、山を登ってすでに30分が経っていた。普段運動をしない椿にとってはかなりきついことであるが美春は涼しい表情で進んでいく。
そこからさらに数十分が経ったころ、異変は起きた。
「ちょ、ちょっと休憩しようよ」
「さっきも休憩したでしょ」
「傾斜がきつくてもうへとへとだよ」
「まぁ、仕方ないか。その辺の木陰をで10分だけね」
椿はもしかしたら道のりが長いことも考えパンや飲み物をいくつか買っていた。まとめて自身の横へとおいて美春の分をリュックから取り出していざ自分も食べようとした時、すでにおいていた食べ物や飲み物が消えていた。
「あれぇ、おかしいな」
「どうしたの」
「さっきここに置いたはずなのに」
ほんの一瞬の出来事。少しリュックと美春へと意識を向けたほんの一瞬に二つのパンと飲み物が消えた。周囲を見渡してもころがってもいないしタヌキやヘビなどの生物が来た形跡もなし。音さえ鳴らさずに一瞬にして消えてしまった。
その時、椿の上からポロポロと何かが落ちてきた。
「うわっ! 虫!」
「いや、虫じゃない。何かの屑みたいだよ。――これって……。もしかしてメロンパン買った?」
「うん、買ったよ。見せたっけ?」
「この屑、メロンパンのクッキー生地じゃない?」
「ほんとだ! やっぱ動物が――」
そう言いながら上を見るとそこには少女がメロンパンを食べていた。
「これ美味しいね」
「あー! 私のメロンパン!!」
「不用心においてあるから悪いんだよ。ここがどんな山か知らないの?」
「ねぇ、あなたは誰なの」
「私の名前は……。そうだね、赤城って呼んでよ。ま、苗字だけどね」
少女は降りてくるともう一つのパンを椿へ返した。
「ここは通称忍びの山。私は忍者なの」
赤城は堂々と言ったが二人は不審そうにその姿を見つめる。
「あー、全然信じてないね。だったらちょっと本気みせちゃっおかな」
そういうと赤城は近くの木へと簡単に登った。それは子ども時代にするような手足を駆使したよじ登るというものではなく、助走と脚力を活かした壁走りのようして木の上へと登ったのだ。すると、いくつもの木へとジャンプして乗り移る。細い枝でも恐れず飛び回り次々と飛び移る姿はまさしく忍者。赤城の言葉は嘘ではなかった。
「ポニテが美春でオレンジの髪が椿ね。ふ~ん、まんまだねぇ~」
「私たちのこと知ってるの」
「あ、いや。二人のことは聞いてるからさ。そのまんまだなって。ここからは私が案内するよ」
美春同様黒髪ではあるが髪はそこまで長くなく少し高めの位置で一つ結びにして前髪は斜めに流している。服装はショートパンツに肌になじむ色のタイツを履いており靴は足首を守るようにできている茶色いブーツ。上衣は薄いパーカーを腕まくりしている。
赤城の案内の下進んでいくと開けた土地に出た。そこには小さな村のようなものが広がっており家屋もたくさんあった。
「山奥にこんなとこあるなんて」
「すごーい! 赤城ちゃんもここに住んでるの?」
「まぁね。と言っても今は神奈川で一人暮らししてるんだけど、野暮用で戻ってきてたの。で、君たちが来たってわけ」
忍び山にあるこの村は通称忍びの里。電気も水道もあるが一般家庭よりも不便な部分は多い。しかし、この里の人々は特に気にせず日々過ごしている。
「荷物はあっちの家ね。君たちが寝泊まりする場所だよ。私の家でもあるけどね」
赤城の家は現在誰も住んでおらずかつて使われていた家具がそのまま置いてある。
二階の部屋に荷物を置いて窓から里を眺めるとまるで昔の時代にタイムスリップでもしたような感覚に襲われる。
ここが美春の合宿場所だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます