天の裁きは硝煙の先に 2

 ミハルたちが二つ目のエリアで戦闘を繰り広げていた時の話。クリントはアメリカニューヨークを舞台にしたエリアでチームと共に行動していた。クリント、マーセナス、ハボットの三人は銃、ファイター、ディフェンスというバランスのいい組み合わせであり、立ちはだかる敵を圧倒し壊滅までさせずとも常に会敵した相手を倒す直前まで追い詰め、チャンスがあれば倒すというプレイをしていた。無傷ではないとはいえ多くの相手チームと戦いながら善戦してる姿を見た観戦者たちは今回のトップはクリントたちだと疑わなかった。


「クリント、ランダムワープは君がもっておいてくれ。うまくいけば近くに転移して奇襲ができるかもしれない」

「混戦となればそれもやむを得ないか」

「つっても俺ら敵なしなんだからさっさと安全な場所見つけて――」


 ファイターのマーセナスが話している最中に突如頭部を撃たれた。しかし、戦闘中と戦闘終了後の少しの間だけ、全ステータスにバフがかかるファイタースキルの一つ鋼の肉体により一撃で倒されることはなかった。それでもヘッドショットを受けたために一時的な気絶状態となってしまう。

 ハボットが即座に全方位のシールドを展開しクリントが服屋の屋上にいたプレイヤーに撃ちこみダメージを与えたが倒すまでには至らず逃がしてしまった。

 少しすると正面から黒い衣装の男性が歩いてきた。


「天の裁きから逃れるとは運がいい。しかしだ、一人をかばいながらいつまで持つかな」

「あんたがリーダーか」

「如何にも。私の名はクルセイダー。同じ銃使いとして君のことは一目置いていた」

「だったら楽しみはあとで取っておきな」

「得られるときに得る。それが私の流儀でね」


 クルセイダーは軽く手を振ると服屋の一階からマシンガンを撃ちこまれ同時に向かいの建物の二階から爆弾がいくつも投げ込まれた。


「ボマーがいる。このままじゃやられるぞ。シールドはそう長くはもたない!」

「姿勢を下げろ。シールドが壊れたあと俺が動いて時間を稼ぐ。拾ったスモークを焚いて走れ」

「そういうことか。――気をつけろよ」

「即席チームにしては素敵な言葉をかけてくれるじゃないか」

「即席でもチームはチームだ。このあと敵になろうとも今はチームさ」

「そういうの嫌いじゃない」


 シールドの破裂音が鳴り響く。その瞬間、黒煙に紛れながらもボマーがいる方向へ発砲しけん制。隙を作り両サイドにスモークを焚いてハボットはマーセナスを抱え建物の方へと向かった。

 爆発が止まり煙は徐々に晴れていく。そこに浮かぶ一人のシルエット。カウボーイハットにポンチョ。葉巻を咥え、ただそこに立っていた。


「二人を逃がしたか」


 煙が晴れシルエットは現実になる。


「俺らは即席チームだ。お互いの能力と戦績以外はどんな人間なのか知らない。だがな、わかってることが一つだけある。――逃げるのが嫌いってことだ」


 ポンチョで隠した腕からクルセイダーへ一発。肩へ当てひるんでる間にマシンガンの相手がいる位置へ数発撃ちこむ。呻く声で着弾したことを確認し即座へ店の中へと突撃し近接戦闘へと持ち込んだ。


「くっそ! 格闘もできるのか!」

「普段はまかせてるだけだ。常に備えるのが戦いだろう」


 服屋においてあるものを使い男を翻弄しつつも背後を警戒しクルセイダーの侵入を防ぐ。その間にも向かいの建物では爆発音が鳴り響いた。ボマーとハボットたちが対峙していた。

 クルセイダーがクリントから手を引き少ししたあと店ガラスを突き破り誰かが吹き飛ばされた。そこにはボロボロになったハボットの姿があった。動揺したクリントの隙をつき男が後ろからクリントを羽交い絞めにし形勢は逆転。


「愛着なんか沸くから動揺するんだ! このまま後ろから撃って終わりだ!」

「愛着じゃない……。共鳴だ!!」


 ブーツの仕込みナイフで男を蹴り上げ追撃。向かいの建物からマーセナスが飛び出した。


「クリント!! そっちは大丈夫か!!」

「ハボットがやられた!」


 マーセナスもすでにボロボロの状態だった。気絶状態は解除されたもののダメージを受けているため不用意に接近戦に持ち込めず態勢を立て直すためなんとか道路まで飛び出した。

 男をひるませハボットを外に連れ出そうとした瞬間、服屋の中に爆弾が投げ入れられた。


「――クリント行け!!」


 ハボットは最後の力でクリントをシールドの反射能力で突き飛ばし爆弾での大ダメージを受けリタイア。


「二対一か……」

「いや、俺が吹き飛ばされる寸前、男は奥へ隠れた。ノーダメージではないがまだ戦えるだろう」


 状況はどんどん不利な方へと進んでいた。クルセイダーはノーダメージでボマーは大してダメージを受けていない。マシンガン持ちがいる以上下手をうてば一気にやられる。


「クリント、エースストライクは使えるか?」

「いや、まだ条件を達成していない」

「そうか、なら俺が使ってあいつらを仕留める」

「まて、お前のエースストライクは」

「クリント、お前は一人でも勝てる。だが、ここで消耗したらその光さえも消えてしまう。ここは俺が人柱になってやるさ。――エースストライク!! 燃え盛る闘魂バーニングソウル!!」


 体の周りに炎のようなオーラを纏い真っ先に店の中にいるマシンガンの男を仕留める。障害物をすべて破壊するほどの突進力に男は一撃でリタイアとなった。

 投げられた爆弾をクリントが撃ちぬこうとした時、それをもろともせず食らいながら即座にボマーとクルセイダーがいる建物の二階へ。

 激しい戦闘音が周囲に響き渡る。狭い室内に置いてはエースストライクを発動しているマーセナスが圧倒的有利。数分もしないうちにボマーが突き飛ばされ道路へと転がりリタイア。

 その後も激しい戦闘音が続いたがほどなくして辺り一帯は静寂に包まれた。

 階段を降りて建物の外へとやってくるシルエットが見える。


「やったか」

「――これでイーブンだ」


 出てきたのはマーセナスではなくクルセイダー。激しい戦闘音が鳴り響いていたというのに無傷の姿。


「なぜダメージがない……」

「私のエースストライクは神の御心。一定時間だけどんな攻撃も私には通用しなくなる。エースストライクはエースストライクに介入できるという例外さえも私の前では意味がない。そして、彼は裁きの時に到達した」

 

 クルセイダーのエースストライクは時間経過で発動できるものですでにその条件を達成していた。簡単な条件ゆえに能力の多様性は削られるがたった一度だけ自身の動きを完全停止状態としすべて無力化し最大の防御を行う技。そして、マーセナスもまた時間経過を条件としたもの。だが、クルセイダーと違い全能力の強化の代償に、自身の強化中は体力を消耗していく。残りわずかだったマーセナスは完全防御状態のクルセイダーに何度も拳を叩きつけながらも一切ダメージの入らない悔しさの中リタイアとなった。


「君を倒して終わらせよう。例え君が私に弾丸を当ててもこちらが二発撃ちこむころには君はリタイアだ。体力差くらい把握しているだろう。両手を挙げて大人しく裁きを受けろ」

「……仕方ないな」


 銃を腰に戻し両手をゆっくりと挙げた。ポンチョで隠していた手が表に出た時、そこには光の玉が一つ握られていた。


「まだ終わらせない」

「待て――」


 光の玉を握り潰し効果が発動。ハボットから受け取ったランダムワープのアイテムを使いこの場を脱した。


「まだ抗うか。おもしろい。運命はいずれ導いてくれるだろう」


 運よくポータルの近くへ転移したクリントはその後回復をしながら相手チームを避けつつ万全な状態を維持しついにクルセイダーのもとへとやってきた。


「ミハルたちは手を出すな。これは俺の戦いだ」


 乾いた風が吹きすさぶ荒野の町で二人は決着をつける。

 

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