開眼 刹那の瞳 3

 ツバキともう一人の女性プレイヤーがにらみ合っていた。

 いつもと雰囲気の違うツバキにミハルは声をかけられず様子を眺めている。


「まさかこんなとこで会うなんて不思議な運命だよ。人一人自殺に追いやったくせにさぁ!!」

「違う……あれはあなたたちが!」

「あ~そうやって人のせいにするんだ~。いつだってそうだ。自分はいい子ぶっていいとこばかりとっていく。その失敗で一人の人間が自殺したんだよ」

「ち、違う……」

「ねぇ! 君たちツバキの仲間でしょ! こんな子と一緒にいるなんていいことないよ!」


 ツバキはミハルたちが来ていることに気づき動揺していた。

 いつもの元気で明るい姿はなく涙目で声が震えている。


「ミ、ミハル……違うの。私はそんなこと」

「……」

 

 ミハルは何も答えずツバキの目を見ながら近づく。横に立ちと相手を見ながら言った。


「真実がどうかは私に判断はできない。でも、ツバキが嘘をつけない性格だってのは知ってる。だから、行動で示してほしい」

「え……」

「私はいまからあいつと戦う。あとは任せる」


 柄を握り相手へと駆けた。


「あんたも正直者でだまされやすいようね! そいつと関わるとろくなことをないよ!」

「あなたに関わる相手を指南してもらう必要はない。想像をしたくない結果でもそれを受け入れなきゃいけない時もあるの」

「大層なご覚悟ですね~。だけど、私に攻撃を当てられると思わないで!」


 そういうと自身を中心に半径2メートルほどの光がカーテンのように降り注ぐ。ミハルは躊躇せず仕掛けるが近づいた瞬間に違和感を覚えた。


「ようこそ私の空間へ」


 すると相手はバールのようなものを取り出しミハルを強打しのけぞらせた。

 それは衝撃の場面でもある。得物を持った相手と戦うときにここまで一方的に攻撃をもらうことなどなかったミハルが避けることも防御することもできずに一撃をもらったのだ。

 

「あのミハルさんがまともに。しかも正面から」

「光のカーテンに謎があるみたいだね」


 2メートルというのは絶妙な距離で刀を当てるためにカーテンに入る必要があり入ってしまえば相手の攻撃が襲ってくる。決して一撃は重い方ではないが謎を解かずに攻めればあっという間にやられてしまう。

 一方でツバキはまだ動けずにいた。過去に起きた悲惨な出来事に対し自分の中で整理がついていなかった。


 椿は今年の春にミハルと同じ地域に引っ越してきた。それ以前は別の県でで過ごしていたが一つの事故、いや、事件をきっかけに引っ越すこととなった。

 椿の友達は自殺した。

 いつも通りに過ごしていたのにも関わらず友達は突如学校の屋上から身を投げ授業中に亡くなったのだ。そのことを今も悔やんでおり、さらにそれがきっかけで椿はいじめを受けることとなった。


「私はどうすれば……」

「ツバキはどうしたいの。過去の出来事を一生悔やみながら生きていくの?」

「私が一番気づかなきゃいけなかった。だから当然の報いなんだよ」

「じゃあ、そうすればみんな許してくれるの? その自殺した子は気分が晴れるの? 」

「わからない……」

「はっきり言うね。ツバキがやっていることは過去の失敗に対して自分が不幸になる代わりに許してくださいと言っているようなもんだよ」

「そんなこと思ってないよ!」

「でも、現になってるでしょ。新しい生活をしてたんじゃないの。そのために引っ越してきたんでしょ。忘れようとしたから、業を背負うのが辛かったから、あなたは逃げたんだよ」


 思い出したくない過去がフラッシュバックのごとく一斉によみがえりツバキは涙を流した。

 止められたかもしれない。気づけたかもしれない。救えたかもしれない。

 そんなことばかりを考えていた日々。

 見つからない原因にうやむやにしようとする学校。

 そんな闇の中にいては自分が自分でなくなってしまう。

 だから椿は離れた。いや、逃げたのだ。


「じゃあ、どうすればいいの……? 逃げても忘れても責められてもダメ。私はどうすれば……」


 ミハルは刀を鞘に納め相手に背を向けるとツバキの瞳を見ながら言った。


「戦いなさい。そうやってその子の分まで生きるしか道はない」

「戦う……」

「嫌なことを後回しにはできる。だけど、いつかはこうやって立ちふさがるんだ。戦う覚悟をしなさい。それが生きるということ」


 背を向けたミハルに対しバールのようなもので襲い掛かる。

 納刀状態かつ柄にさえ触れていない今のミハルではカーテンの中で戦うことは不可能。抜刀術さえも間に合わない。

 だが、相手は無慈悲に迫ってくる。

 その時、ツバキは今まで守るために使っていた盾をその場に落とした。


「もう……後悔はしたくない!!」


 ツバキの思いに答えるように大きく寸胴な槍は鋭利で細長く攻撃に特化した形へと変化した。その一撃は相手の意表を突き大きく突き飛ばした。


「戦えるじゃない」

「ちょっと強引すぎるよ。もし私が動けなかったらどうするの?」

「その時はその時だよ」

「ミハルってたまに大雑把というかなんというかノリで行動するなぁ」


 強烈な一撃であったが相手を倒しきるほどのものではなかった。

 身軽に立ち上がりバールのようなものを巨大化させ先端からは鎌のような形をした紫色の光がとめどなく溢れる。


「せっかく手加減してあげたのにこうなったら全員叩きのめしてやる!」

「カリナ! 私はもう逃げないよ。あなたたちが言うことを鵜吞みにして反省することがあの子にとっての贖罪だと私は思っていた。でも、それはゆがめられた記憶。どれだけ醜くても泥臭くても私は前へ進む!」

「自分だけ前へ進んであいつは置いてけぼりにする気ね」

「動き出した時間は止められない。だから、あの子の分まで進むしかないだけ」


 カリナの武器のリーチが伸びたことによりカーテンの内側に入らずともお互いの攻撃が接触することができる。しかし、攻撃に特化した武器で攻めの姿勢を身に着けたとしてもうちに秘めた闘争本能はカリナの方が上。

 さらに勢いの増すカリナにツバキは少しずつ苦戦を強いられる。

 だが、ミハルが割って入り言った。


「ツバキは頑張ったよ。あとは私に任せて」

「でも、ミハルの武器じゃ」

「あのカーテンはノアの時間操作と同じ感じがする。遅れちゃったけど今の私なら時間操作にも対抗できる。これでね」


 刀を鞘に納めたまま柄を握る。

 ミハルが一番得意とする抜刀術だ。


「武器も出さずに前に立つとはな!」


 迫りくるカリナに対して焦る祖びりは一切見せない。呼吸を整え息を吐くと、目を開き柄を強く握る。開いた目には光彩はなく深い闇のようにとめどなく流れる時間の波を見つめていた。

 光のカーテンに包まれ効果の範囲内に入るがまだ動かない。それが癪に障りカリナはさらに激情する。

 

「刹那一閃」


 カチャリと刀を納める音だけが聞こえる。カリナは武器を振るうことなくミハルを通り過ぎとぼとぼと数歩歩きツバキの横で倒れた。


「い……いったいなにが……」


 小さくを後ろを振り向きカリナを見つめる瞳はまるで下等な存在を蔑むような冷酷かつ冷淡で無慈悲なもの。さっきまでのミハルとはまったく違う雰囲気を放つ。溢れんばかりの冷徹な振舞いはヤマトやフヨウ、さらに一番ミハルのことを信頼しているツバキさえも恐怖させるほどだった。

 次に瞳を閉じ再び開くと光彩が戻りいつものミハルへと戻った。


「カリナ、あなたがツバキへどんな思いがあるのかはわからない。でも、あなたも前へ進みなさい。その思いが誰かに諭されたものでなく本気の思いならば戦いさない

。だけど、自分の思いでなく他者の言葉に踊らされているようならば今一度自分を見つめなおすことね」

「……おせっかいな女ね」


 その言葉を最後にカリナは消えた。


「ミハル……。その、中学のことなんだけど」

「今は言わなくていい。まだ戦いは続いてるから。この戦いが終わってそれでも私に言いたいって気持ちが消えてなかったらその時教えてほしいな」

「……うん」


 残りのプレイヤーは47人。

 第二戦の終わりが見え始めた。


 

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