開眼 刹那の瞳 2
気づけば残りプレイヤーは60人を切っていた。
ミハルたちは市街地とこのフィールドで多くの時間を使用していた。
――――
「やぁやぁ、みなさんがんばってますねぇ~」
「あなたこの前の……。何の用?」
「いやいや、そんな警戒しなくても。今はチームメンバーがやられて一人なのですよ」
「だったらここで倒せばプレイヤーが一人減る」
「おっと、それはさせないよ。てか倒さない方がいいと思う。君にとって大事なことを伝えに来たんだから」
「なに……?」
「君のお友達がピンチなわけですよ」
「友達?」
「無天四季流の生徒ですよ」
「……」
――――
一時の動揺を見せたノアであったがいまだに能力を打破できずに激しい戦闘が続く。わかったことと言えば接近戦は行わず物をぶつけたり対象を浮かせたりする念力のような技を放つこと。物質を瞬時に入れ替えたりすることから空間操作とした。
そして、もう一つは気づいたときには別の場所へ移動していること。これは3チームが同時にやられたことから時間操作の類ではないかと推測している。
さらに発見したのはノアは相手に触れないということだ。
だが、ミハルたちもまたノアに触れることができていなかった。
「はぁ……はぁ……」
「だいぶ奮闘しているようだけどまだ僕には触れることはできないね」
唯一の隙は遠くから狙い撃つヤマトの攻撃を避けるとき。ミハルたちの攻撃を受け止めたり避けたりするときよりもヤマトの攻撃を避けるときだけは余裕がない様子だ。
しかし、遠くにいるヤマトと連携を取る手段がなく同時に攻撃をすることが難しい。ヤマトもミハルたちに当てないようしかもそれなりの距離からノアを狙うため歯がゆさを押し殺しながら冷静に好機を待っていた。
呼吸を荒くし再び襲うプレッシャー。希望の光が見えた時ほど絶望の闇というのは無慈悲に迫る。
それでもミハルは刀を持ち立ち上がった。
ツバキとフヨウが戦っている間にふと周りを見渡す。すると、建物の色が一部違うところを発見した。周りは薄暗いというのにその建物一帯だけは柔らかい光が照らすようにはっきりと見える。
対角線上の建物を見ると同様に色の違いが発生している建物を発見する。そして、その光は不定期に移動し時折手前を照らしたり奥を照らしたりと何かを基準として動いているように見えた。
「……もしかして」
ノアに目をやるとツバキとフヨウの攻撃を避けると同時に光もまた移動していた。
「あそこまで距離は100メートルかそれ以上。でも、ヤマトくんがいるのはそれよりもっと遠い……。そうか、この光の膜の中にいるプレイヤーの動きだけを手に取るように察知してる。だから、効果範囲の外から狙うヤマトくんの攻撃だけは余裕がないんだ」
打破するほどのことではない。
だが、この小さな気づきはミハルにとって精神的な優位性を取り戻す大きなきっかけとなる。
ミハルもすぐに戦闘に参加しノアに攻撃を加えつつそのことを話した。
「ってことは私たちの動きは奇襲さえもバレるってことじゃん」
「だから策を考えた」
二人にその策を伝えるとフヨウはどこからともなく煙幕用の爆弾を取り出した。
「ミハルちゃんが仕掛けたタイミングでいくよ」
「まかせて」
ミハルがノアに攻撃を仕掛けた瞬間にフヨウは大量の煙幕を発生させる。
ノアは煙幕の中でもミハルの位置を特定しつつ攻撃していたが光の膜の範囲の中で遠くへ移動するプレイヤーを見つけた。
「視界を塞いだところで場所は――。いや、なぜだ。人数が多い! しかもそれぞれ違う方向へ逃げていく?」
煙幕が晴れる直後同時に霧が発生。再び静寂が場を包んだ。
「よいしょっと」
フヨウは人仕事終わらせミハルの元へ戻ってきた。
「フィールドも私にたちに味方してるみたいだね」
「なんでノアは霧の時は攻撃してこないんだろう」
「そりゃ見えてないからじゃない」
「でも、位置が特定できるなら物を飛ばすだけでいいでしょ」
「確かに。う~ん」
「もしかしたらこの霧ってプレイヤーの能力に影響を与えてるのかもしれない」
「それってノアの光の膜が無効化されてるってこと? でも、ヤマトくんのゴーグルは使えたよ」
「仮説だけど道具なら無効化を逃れられるのかも」
「確認する術はないけどここまで何もしてこないと確かにそうかもしれない」
そうこうしていると霧は晴れていき視界が鮮明になっていく。
完全に霧が晴れるとノアは再び姿を現した。
「何かこそこそやっているみたいだけど本当に僕を倒せるかな」
「それは違う。あなたは私たちを倒さなきゃいけないはず。だって、ここまで長く戦闘を続けたのは私たちくらいでしょ。それってこのままチームバトルが終わったら得た情報を他プレイヤーにばらまくかもしれないんだから」
その言葉をきくと眉がぴくッと軽く動いた。
ノア自身が想定していなかったことだ。
「なら、すぐに終わらせてあげよう」
力を溜めるとノアは触れずして周囲にヒビを入れ街頭や瓦礫を浮かしミハルたちに放った。激しい攻撃ではあるが二人の身体能力なら無理なく回避していくがその時、ミハルの動きが完全に止まった。
意志とは別に体が動かなくなってしまったのだ。
「あまり調子に乗らないことだね」
「ミハルちゃん!」
遠くからヤマトが狙撃するが宙に浮いて固定されている瓦礫が邪魔でノアを狙い撃つことができない。
フヨウが宙に固定されているものを利用し近づくがミハル同様に空間操作の餌食なってしまう。
「やば……」
自分たちではどうすることもできない状態となりノアは不敵な笑みを浮かべる。
「僕が懸念していことは一つ。君ら参加プレイヤーが逃げることだった。正直あとの二人はどうでもいい。だって餌にしかならないしもう餌はいらないからね」
「あくまで狙いは参加プレイヤーってこと」
「そうだよ。それ以外にないさ。僕がこの世界のトップであることを証明するためには参加プレイヤーを倒すこと。だから、君たちが残ってくれたのは僕にとってはラッキーなんだ」
圧倒的な勝利への確信。ノアからはそんなオーラが満ち溢れていた。
指を動かすことさえもままならない二人では抵抗することはまずできない。フヨウに策はないかと目を向けるがフヨウは目をそらした。
「忍者も侍もこうなると赤子同然。このまま君らを倒す!」
その時、ノアの後ろから巨大なビームが放たれた。まばゆいほどの閃光があたりを支配し瓦礫も道路もすべて包み込む。
二人は同時に思った。間に合ったと。
ノアは片腕に攻撃が掠りやけどあとのように傷ついていた。
「もう手加減してやらないぞ! 僕が最強なんだ!!」
オーラを纏い閃光を放った。
「これが僕のエースストライク。インフェルノカタルシス!!!」
すべての時間が停止し異様な空間が広がる。
川も建物もすべてを壊し空間操作で一斉にミハルとフヨウを襲う。
「これは無理だ……」
時間停止からの圧倒的破壊力による空間操作。
ミハルは敗北を悟った。
「エースストライク……。
ポータルの方から小さく声が聞こえる。
その瞬間、空中に浮いているすべての物質が桜の花びらへと変わり桜色の炎を放ちながら一斉にノアへと向かった。
「なぜだ! これは僕だけの時間だ!!」
「エースストライクはエースストライクを打ち破る。圧倒的勝利をしてきたあなたが気づかないのも無理ないわ」
一斉にノアを包むと大きな爆発が発生しミハルたちの拘束は解除された。
後ろを振り向くとそこには桜柄の袴に竹笠をかぶった女性のプレイヤーがたっていた。さらに後ろに黒い衣をまとった少年とフヨウの分身の姿があった。
「やーっと来てくれたか~。もう遅いよっ。分身向かわせて何分経ってると思ってんの?」
「二つも先のフィールドから来たんだからこれでも早いほうよ」
竹笠で顔ははっきり見えないがその声と立ち振る舞いには見覚えがあった。それに、プレイヤーネーム……サクラ。
「サクラ!」
「……」
サクラは返事をしなかった。
「呼ばれてるよ」
チームメンバーのクロノが言うが一人ポータルへと向かっていく。
「ごめんね。あの子シャイだからさ。君はヨハネと戦ったミハルだよね。一回あいさつしたけど覚えてる?」
「第一戦の前に確か」
「そうそう。もうじきこの戦いも終わる。君がまた活躍するところ楽しみにしてるよ」
そういうとサクラのチームは去っていった。
「フヨウ、どうしてあのチームを?」
「一番助けてくれそうだったからかな」
「それだけ?」
「それだけだって~。仲間なんだから疑わないでよ~」
じーっとフヨウに疑いの目を向けているとヤマトがいる方向から大きな爆発が起きた。
「おっと。何かあったみたいだね。行かないと!」
「あとでちゃんと聞くからね!」
話を後にしてヤマトのもとへと向かった。
ヤマトは別のポータル付近に立っており二人をまっていた。
「何があったの?」
「姉ちゃんがほかのプレイヤーを追いかけてあっちに行ってしまって」
「急になんでそんなことを」
「わからないです。俺が到着したときにはすでに向こうにいってて」
「とりあえず追いかけよう」
ポータルに入るとそこは夕日が照らす日本の住宅街であった。
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