開眼 刹那の瞳 1

 ヤマトがハンドガンでノアを撃ちけん制する。この攻撃が当たるなどとは思っていない。想像が正しければノアは手を使い弾丸を空間で固定すると思ったのだ。

 そして、それは想像通り目の前で起きる。

 ノアはその場から一歩も動かずに弾丸を止めて地面へパラパラと落としていく。


「そんなおもちゃじゃ止めれないよ」

「ならこれならどう!」


 弾丸に気を取られている間に瞬時に刀の攻撃範囲まで接近し切っ先で腕を狙う。だが、刀はむなしく空を切った。


「ねぇ、ちゃんと距離感つかめてる? 全然当たってないじゃん」

「そんなはず……」


 何年も稽古をして刀の距離感は目をつむって把握できたのにも関わらずこのミハルは外してしまった。


「次はこっちの番だよ」


 ミハルに手を向けて攻撃をしかけようとしたノアの背後に影が迫った。


「見えているよ!」


 攻撃を中断し後ろの影へと攻撃するがその瞬間煙が現われ人影だと思われていたものは身代わり用の藁へと入れ替わった。


「ちぃ~。後ろにも目ついてんの? 奇襲できないじゃん」

 

 フヨウの奇襲は失敗したが隙を見せたノアへとミハルが切りかかり同時にヤマトも2発放った。


「だから無駄なんだって」


 ミハルの刀を触れずして手を向けるだけで止め弾丸は見るだけで空中に固定された。刀はまるで見えない壁に阻まれているようにまったく動かない。


「小手先の技術でどうにかなるほど甘いもんじゃないのさ!!」


 弾丸をヤマトへ飛ばしミハルを空中に浮かし大きく飛ばした。

 

「ミハル! こうなったら私も!」


 今まで接近戦をしていなかったツバキだが突如盾と槍が大きく音を鳴らす。車のエンジンに酷似した音が最高潮を迎えると一直線に高速の突きが発動した。


「おっと。君もそんなに早く動けたんだね。でも、直線的過ぎてあまりにも単純」

「だったらもう一回!」

「させないよ」


 両手をツバキに向け衝撃を放ち吹き飛ばした。ツバキはガラスを割り店の中へと突っ込む形になった。


「あちゃ~いまの痛そう……。って余裕ぶってる場合じゃないか。やっぱ強いね君」

「君の逃げ足には手こずったがここで終わりにする。鬼ごっこは好きじゃないんでね」

「私が逃げなかった意味くらいは考えた方が身のためだよ!」


 複数の分身をノアの周りに展開しそれぞれ忍びの武器を構える。

 対象を選びその周囲に簡易的に分身を発生させる技「瞬滅多重分身」


「さっきの戦いでは半円状にしか囲まれてなかったからこそ隙が生まれた。でも、これなら攻撃の対象も定まらないしたとえ避けられお互いに攻撃が当たっても分身だから問題なし!」

「少しは考えたか。まぁやってみるといい」

「言われなくてもね!」


 隙のない一斉攻撃がノアに襲い掛かる。

 だが、それでも余裕な表情を浮かべ攻撃を回避するそぶりを見せない。

 すべての攻撃が中心にあたり砂煙が舞い上がる。まったく動き素振りを見せていないことから一瞬油断したフヨウは次の行動へ移る判断がわずかに遅れしまう。


「それじゃ僕は倒せない」


 その言葉と共に分身たちは一斉に消滅した。ノアはすでに宙に浮いており無傷であった。


「ヤマトくんの予想通りっぽいなぁ……」

「ぼやいてる暇はないよ」


 フヨウに手をかざし攻撃を仕掛けようとした時、高速でミハルが接近した。宙に浮いているノアのほうが有利であるがミハルは新たな技を発動する。


「紅葉返し!!」

 

 刀を振り上げるとノアの下かた大量の紅葉が現われ一つ一つが斬撃の特性をもち襲い掛かる。しかし、ノアは瞬時に消え回避して見せた。

 地上へと降りたところさらに畳ける。

  

「桜旋風!」


 下段からの斬撃に桜が現われ攻撃をするがそれもまた回避。

 幾度となく繰り出される攻撃はまったく掠る気配もなく次々と回避され4人の精神にプレッシャーがかかる。


「いってて……。もう! 仕返ししちゃうよ!」


 ツバキが復帰した再び攻撃を仕掛けようとするがフヨウがそれを止めた。

 当たれば強力なのは明白だがあまりにも直線的過ぎて当たる気配すらなくむしろツバキが捕まりそうだと判断した。


「私のエースストライクなら」

「それもどうかな。確かに拘束系で攻撃は当てられそうだけどまず閃光を浴びせる必要がある。確実に当てられるタイミングじゃないと難しいよ」


 先のチームに比べノア相手に善戦しているようにも見えるが実際はかすり傷一つ与えていない状態。時間操作と空間操作の可能性が確定的になっているが打開する手段はない。

 むしろ、対面したことにより超えられない壁を実感しつつあった。

 ポータルまでなんとか逃げ切れたとして追ってくれば再び戦うことになる。ミハルたちに残された手段はここでノアを倒すかプレイヤーの数が減るまで耐えるくらいであった。


「……視界が白く。もしかして霧が」

「まずいねぇ。この状態で霧なんか出たらどうなることやら」


 そう言っている間に霧がフィールドを覆っていく。

 ミハルとツバキとフヨウはお互いに背を向けて守るが唯一懸念していたのはポータル側にいるヤマトだった。 

 一人離れている状態で襲われさらに接近されれば分が悪い。


「何も落としないね……」


 ツバキがぼそっとつぶやいた。

 霧が発生してからおよそ1分。先までの戦闘が嘘のように静寂が支配する。

 ヤマトが襲われている感じもせず時間画だけが過ぎていき少しずつ霧が晴れていく。

 霧が晴れるとヤマトの姿もノアの姿もなかった。


「あれ、ヤマトは?」

「音はしなかったからやられてはないと思う」

「隠密行動できるしいったん隠れてるんじゃないの?」


 周囲を探そうとするとノアが上から再び現れた。

 

「逃がさないよ。君たちはここで仕留める」


 ノアの周囲には瓦礫や電柱などが浮いていた。


「やる気満々だねぇ」

「ってあれどうやって避けるの?」

「ツバキちゃんはこうやってればいいんだよ」

 

 ツバキに斜め上に盾を構えさせミハルとフヨウはその後ろに隠れた。

 戸惑うツバキであったがノアは無慈悲にも周囲に浮かせた瓦礫を使い一斉に攻撃を仕掛ける。


「え、ちょっとまってよ!」

 

 怒号が鳴り響き攻撃が集中し砂煙が舞い上がる。

 まともに受けたらすぐにやられてしまいそうな攻撃であったが砂煙が晴れると3人とも無傷で立っていた。


「私の盾すごーい!」

「それだけ大きい盾なんだからこうやって使わないとね。ツバキちゃん瞬間的な攻撃力と機動力はあるけど基本は防御型だから好機を逃さないように」

「基本戦闘は私たちでどうにかするから」

「わかった!」


 ノアは地上に降り地面に触れると大きなヒビを発生させ瓦礫作り出した。


「ミハルちゃん、私からのアドバイス。余裕を持っている相手はヒントをたくさんくれる。しっかり見てた方がいい」

「ヒント……?」


 急なアドバイスに戸惑うが相手を観察するというのは師範代から何度も言われていることであり改めたそのことに集中をしてみることにした。


「僕にとってフィールドにあるものすべてが武器だ。逃げきれると思わないことだね」


 ノアが攻撃を飛ばそうとすると、顔の横を弾丸が通り抜けた。


「なにっ!?」


 今までにない驚いた表情にミハルは好機とみて攻め立てた。

 瞬時に目の前で移動して一振り。だがこの攻撃は気づけば攻撃範囲の外へと逃げられてしまう。

 それでもノアは初めて動揺した。その事実はミハルにとって精神的に大きな前進をするきっかけになる。


「ヤマトの攻撃だ! やっぱあの人も無敵じゃないんだよ」

「みたいだね。ノアがゲームを存分に利用してるならゲームゆえの不便をカバーしているはず。そこを探しだせれば勝機はある」

「ミハルちゃんは逆にもっとゲームを利用しないと。想像力はツバキのほうが上だよ」

「想像力か……。うん、やってみる!」


 現実で培った技術とゲームの想像力。この2つを組み合わせノアへと挑む。

 

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