第29話 自分らしい技

 ボスオークの片目は弾丸により負傷。だが、例え両目を封じたとしてもボスオークを討伐したことにはならない。完全に動きを止めるためにはやはりツバキの攻撃を確実に当てる必要があった。

 ミハルは刀を抜きレイランは二郎刀を構え前へと出る。その後ろで銃を構えるヤマト。ミハルたちに対し直角に曲がった位置にある花園の外付近でチャージをするツバキ。

 気の抜けない攻防が始まる。


「あいつのパワーは段違いだよ。こっちは一発でさえも譲ってやれない」

「回避して注意を引かなきゃいけないわけね。なら最初から全力でいく!」


 先陣を切ったのはミハル。圧倒的なパワーを前にしても毅然と立ち向かい避けるときにはなるべく最小限の動きで回避をしていく。

 ゲームの世界でも基本的には重力に支配されており空中でできることは少ない。そのため地面から足が浮いている時間を減らすことにより急な動きに対しても対応することができる。

 棍棒の風圧で時折体が倒れそうになるがすぐにレイランが援護し隙を与えない。

 

 しかし、二人には一つだけ懸念材料もあった。

 それはお互いにもっている武器が長物であるということ。お互いの動きを把握しつつも攻撃のタイミングも考えなければ武器同士が干渉し大きな隙を与えてしまう。

 ボスオークもそれを理解してるからか容易に背後を取らせようとはしない。


「ここだ!」


 レイランが二郎刀で棍棒を防御した隙にミハルは一閃。

 だが、ボスオークの体には薄い切り傷からうっすらと血がこぼれる程度で大きなダメージとはならなかった。


「刀で切れないなんて硬すぎだろう」


 異常な耐久力にヤマトは半ば呆れていた。弾丸で怯む程度、刀で切り傷がつく程度、中途半端な武器では傷すら与えらえれない。

 

「ミハル、こいつを倒すためには技を作るしかないかもしれない」

「技を作る?」

「そう。イマジネーションシステムを活用するんだ」


 想像力から自分だけの技を作り出すイマジネーションシステム。ミハルは以前ダブルヘッドシャークとの戦いで無意識で使っていた空天回刀がそれにあたる。

 無意識で繰り出した技のためミハルは覚えていなかったが空中での戦闘など本来の剣術では想定することはない。あの技を使えたのはイマジネーションシステムを活用したからだ。


「でもどうやって……」

「感覚を鋭くさせるんだ。この巨体に立ち向かえるほどの自分らしい技を想像して感覚で放つ。それがこのゲームの攻略法」


 その時、ミハルに棍棒が襲い掛かる。

 

「感覚と想像……」


 ミハルはまだ動かない。当たれば一撃でやられるかもしれない棍棒はものすごい勢いで近づいてい来るがそれでも動かなかった。三人は早く避けるように呼び掛けるがその声は耳に入ってはない。

 ミハルは集中状態ゾーンに入っていた。不利な状況などは師範代との稽古で何度も体験している。大人との稽古では腕のリーチの差で不利になることは多々あった。そんな状況になるとミハルはこうやって周りに情報を遮断し相手と自分だけの世界を作り上げていた。


「私らしい技を!」


 棍棒の軌道に対して合わせながらギリギリで体を右側へと傾ける。大きく右へ傾けたと同時に体に回転力を加えながら姿勢を下げていった。


「桜旋風!!」


 傾けた重力と体重を利用し回転力に変えて低姿勢から足元を斬り裂いた。

 刀を追うように無数の桜の花びらのような刃が斬った箇所に追い打ちをかける連続攻撃となった。

 ボスオークは痛みに耐え怯むがレイランがさらに追撃する。


「龍炎舞!」

 

 先端に炎を纏った二郎刀を×を描き振るうと炎が龍の姿となり描いた軌跡にそってボスオークを襲う。

 たまらずボスオークは下がり膝をついた。

 確かな手ごたえを感じる二人であったがボスオークにも奥の手が隠されていた。


 緑色の肌から煙が噴き出し徐々に赤黒く変化していく。呼吸を荒くしてゆっくりと立ち上がり耳がつぶれてしまいそうなほどの大きな方向をあげた。


「ふんばりどころってやつかな。ミハル、準備はいい?」

「いつもでもいける。ツバキの準備が終わるまでもうひと踏ん張り頑張るよ」


 ボスオークとの戦いは最終局面へと向かう。


 


 

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