「詐欺はもちろん気を付けるべきだけどさ、常に人のこと疑ってばっかな人間よりかは、おれは良いと思うけど?」

「そう、かな……」

「先輩もよく気が付いたよな。くじ引きに仕掛けがされてるなんてさ、誰も思わねえだろ? 普通。おれはそういう懐疑的なやつは、苦手だな」

「どうして? 用心深いってことじゃないの?」

 予鈴が鳴る。昼休みがもうすぐ終わるようだ。

 志鶴は私の言葉を受け、斜に構えながら目を細めた。

「おまえって、呆れるほど楽観的っていうか、前向きっていうか……とにかくお人好しだよな」

「え? 何。私、変なこと言った?」

「いや、さ。ただ用心深いだけなら良いけど、常に物事を疑って見てるなんて、どうかと思わねえ? だってそんなのはさ、誰も何も信じてないってことだろ」

 私の反応など見ずに言うだけ言って、志鶴は自身の席へと戻っていった。

「信じていない……か」

 だからあの時、先輩はあんなことを言ったのだろうか。


 ――そうやって今まで生きてこられたのならば、それはそれで幸せなのかもしれないね。


 そう言って、口元で笑ってみせていた先輩がどこか寂しげに見えたのは、気のせいだったのだろうか。

 あの隠れている目元が見えていれば、また違ったのだろうか。

 私にも、何かがわかっただろうか……。

「わからない……私には、わかりっこないよ……」

 変人で天才の考えなんて、それこそ超能力でもない限り、私のような人間に推し量れるものではないだろう。

 考えても詮ないことから思考を切り替えるように頭を振って、そうして私は、チャイムとともに始まった授業に集中した。


 こうして、ひょんなことから関わることになってしまった白衣の変人、倉科将鷹。

 私はこれから彼と共に、美化委員へと舞い込む謎に巻き込まれていくことになる。

 倉科先輩とパートナーになること――その本当の意味を私が痛感するのは、もう少し先のことだった。

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