どっち!?

「最後のポイントは風の強いコースみたいだな」

「雲が速いですね」


 霧や霞みの様な白い薄雲がずっと続くコース。

 ここは大きなカーブがいくつかあって最後は真っ直ぐだ。


「この速度なら飛行機雲できるんじゃないか?」

「飛行機雲ってスピードでできたっけ?」

「出来ないのか?!」

「さぁー? 出来たら何か描くの?」

「そうだなー」


「おい、何、ラブラブした会話をしている!」


 アルベルトからツッコミが入った。いや、別にラブラブ会話ではないと思うのだけど。


「真剣な勝負だぞ! 真面目にやれ」


 えっと、そのままお返ししてもよろしいでしょうか。

 私はツッコミたい気持ちを必死におさえる。


「それじゃあ、真面目にやろうか!」


 アルテが、きゅっと握り直す。真面目じゃなかったの、と無粋なツッコミは……、今はいいか……。


 一つ目のサークルポイントを抜け、今は私達が少しだけ前だ。

 でも、この距離だとすぐに抜かすことが出来そう。


「速いね。もしかして危ない?」

「そうだな。操縦技術も拮抗してる。気を抜いたら負けだろうな」

「それは困る!」

「だろうな。だから、勝つぞ」


 かかっと笑っているが、背中がすごく真剣だ。あれ? え、なんで、背中だけで、こんなドキドキするの。

 大きくて、あったかくて、この背中に前、おんぶしてもらって――。

 ぎゅっとくっつきたい。

 そんなこと、考えてる場合じゃないのに。


「ふふ、このコースの形は僕の特訓した得意コースだ! さすがグリード。よくわかっている」


 なんだか、王子特権的なことを言ってる人がいる。人の事はあまり言えないけれど。

 すっと五つ目のサークルポイントの直前に追い抜かれた。

 あぁぁぁぁぁ!!


「さあ、あとはゴールだな。さらば!」

「まだ、おわってねーぞ!!」


 アルテはグッと力をいれる。横にぴったりと二機が並んだ。

 これは、本当にデッドヒート!!

 楽しんでいる場合じゃないけれど。だって、私の花嫁先がかかってる! 最悪逃げてやるけどもー! ただ、国外逃亡は、トレジャーハントが……!!


「絶対負けねえ!」


 アルテが強く言う。


「アイツに任せるなんて出来ねーよ!」


 え、それって、どういうこと?

 私はアルテをじっと見る。大きな背中はまっすぐ前を見てる。

 少しだけアルベルトが前に出て、アナスタシアの姿が目に入った。彼女は手をアルテにむけて、何か呟く。あれは、魅了の――。


「アルテ!」

「何だ!」

「何ともない?」

「だから、何が!?」


 あれ、別段、変わってなさそう。不発? それとも、アルベルトにかけた? アルテに腕輪を向けた気がしたけれど、気のせいだったみたい。

 アナスタシアは何事もなかったかのように前を向いていた。


 ナホ、どうして? 私のお願いより、……。


 私は人の事を言えた立場じゃないことに気がつく。

 だって、二人一緒にこの世界に来たのに、私は私のやりたいことを優先して、ナホをたった一人、ゲーム攻略に置いていった。

 一緒にやろうって、誘ってくれたナホを置き去りにして、他の人アルテと遊んでいたのだ――。


「リリーナ? どうした?」

「……何でもない」

「ゴールが見えたぞ」


 目の前にグリードが立つ、最後の大きなサークルポイントが浮かんでいた。


 ごめんね、ナホ。何とかする。だけど、今は、負けられない!


 私はぎゅっと操縦桿と魔法核マジックコアを握る。

 すると、ハイエアートが光を放った。そう、まるでアルベルト達の機体のように。


『っっゴーーーーーール!!』


 わーーーーーっと大きな歓声があがる。

 どっち?! どっちが勝ったの?


『優勝は――――』

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