聞こえません

「滝だぁ!」

「でけぇな」


 まるでナイアガラの滝みたいな大きな滝。幻だとわかってるけどすごい。流れ落ちる水、音、はねる水滴、全部目の前にあるの。飛んでいる場所より上空から水があふれ流れ落ちていく。

 あそこから入るために、滝の真ん中にサークルポイントがある。


「いくぞ!」


 アルベルトの後を追って、滝に入る。

 大きな透明パイプのコース。水族館にある透明トンネル水槽みたいな感じのね。上から落ちてくる滝の勢いがかなり恐ろしい。現実じゃ出来なさそうな眺め。


「アルテ! そこ次カーブ」

「お、サンキュー」


 あ、ずるになっちゃうかな。このコースはこのレースのためのグリード特製だった。先読み出来るはずがないんだ。

 でも、少しくらいならいいよね。


「ここを抜けたら、最後のポイントかな」

「あ、なんだってー?」

「だーかーらー」


 ドドドという音に声がかき消されてしまう。


「ここを抜けたら、話しましょう」

「なんだってー?」


 もう、電波が遠くて繋がらない電話じゃないんだから!

 私は話すのを諦めようとアルテに伝える。まあ、どうせ聞こえないけど。


「今は話しても聞こえませんよね! はやく、コースを抜けましょう」

「何かわからんがわかった!」


 まるでコントみたいなやりとりをして、滝のコースを抜ける。


「よし、聞こえるようになったぞ! で、何だって?」

「もういいです。先に進みましょう」

「あぁ、ラストのポイントだな」

「えぇ」


 さっきのコースでだいぶ追い付いたようだ。追い付けるように、魔力を強めに調整する。

 すると、アルテは私が魔力を強めたのがわかったのか、彼自身の魔力も上げてきた。


「面倒をかけるな」

「バレてました?」

「練習でどんだけやばかったか。さんざん見てるだろ」

「そうでした」


 そんな軽口を言い合いながら、アルベルトのハイエアートにどんどん寄せていく。

 アナスタシアの黒い髪と、アルベルトの金色の髪が見えてきた。


「さすが、一国の王子ってだけはあるのか」


 いや、それはたぶんアナスタシア主人公補正が。言えないけど。


「つえーな! あっちの国のハイエアートでも勝負してみたいぜ」

「おーい、なんか違いませんかー! 今はこのレースで勝つことを考えないと!」

「そうだった」


 アルテは、かかっと笑い、アルベルト達のハイエアートを見据えた。

 出会い方とかが違えば、彼らは仲良くハイエアートレースをしたりしてたのかな。なんて、私も考えてしまったけれど。


「並ぶぞ!」

「はい」


 気合いをいれて、飛んでいく。横に並ぶと、あの【ピッ】を思い出してしまって、少しだけ思い出し笑いしたのは、ばれてないはずだ。

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