虹のふもと
「おや、お客さんだね」
「んぁ、あぁ。ホントだ。どうしたお前ら」
水も滴る(実際に)いい男が二人並んでいる。さすが攻略キャラ。美形揃いだ。
お城の料理人ザイラはクリーム色の髪を少し後ろで束ねているオレンジ色の夕焼けみたいな瞳の優男。
長い銀髪をさらりと流し、赤い瞳でこちらをうかがう妖しい魅力のある男の人は、国にいる魔術師の筆頭、グリード。
私は大きなアルテの後ろに隠れた。
「雨に降られたから火を借りようと思って――」
少し、アルテの言葉尻に勢いがない。私が後ろに隠れたから?
「どうぞってオレの起こした火じゃないんですけど」
「構わん、入ればいいだろう」
アルテの後ろにいたらきっと、遠慮しちゃうよね。えーい、ままよ!私は横に出てお辞儀をした。
「ありがとうございます!(精一杯の高音)」
アルテがぶっと吹き出した。笑うなっ!!
「女性も一緒でしたか。寒いでしょう、ここにどうぞ」
そう言って、ザイラが火の近くを譲ってくれた。
私とアルテが火の近くに座ると、サラマンデルがぴょいっと肩から滑り落ち火の中に飛び込んでいった。
「あっ」
火の中でサラマンデルは嬉しそうに転がっている。
「珍しいですね。サンスコーンの方ですか?」
サンスコーンは隣の国の名前。ちなみにこの国はトライフルムーン。美味しそうな名前よね。
なんて考えていると、二人がじーっと私を観察していることに気がついた。
「はい、そうです」
「あぁ」
私とアルテが同時に答える。
「精霊が一緒にいるという事は、別人なのですね。驚きました。この国に貴女そっくりの女性がいるのですよ」
知ってます。私です。
「そうなんですか」
「えぇ、とてもよく似ています。オレの主人の婚約者なんですが、今行方不明でして――」
冷や汗がでてないといいな。私は無言で頷く。すると、アルテが手をぎゅっと握ってくれた。
「そりゃ、大変だな。俺の相棒が間違われないようにしないと。なぁ」
「そうですね」
「ちなみに貴女のお名前は?」
「リリィと申しますっ」
あー、ダメだ。いらないことを口走っちゃいそう。はやく終わってぇぇ!
「可愛いお名前ですね」
優男さん、ナンパですか? そう言うキャラだっけ?
「俺はアルテだ」
「オレはザイラ、こっちはグリードです」
なんだか自己紹介だけで、心臓に悪いっ! とっても悪いですよーー!!
そこからはアルテが、話題を変えてくれた。
彼らはこのダンジョンにある、とある食材を求めて二人で来たということだ。私の事を探していたとかじゃないらしい。
食材って、お城で何かパーティーでもあるのかな? あ、婚約とか? うーん。何だろう。
そんな話をしながら少しすると、サラマンデルが元気になって、肩に戻ってきた。ちょっとあつい。
「雨の音が止んだな」
「そうですねぇ」
「世話になった!」
「お気を付けて」
「ありがとうございましたっ」
ニコニコと手を振りながらザイラは言った。もう一人、魔術師グリードは、火とサラマンデルをじっと見つめていた。
私は、アルテに引きずられて、洞窟を出る。雨はすっかりやんでいた。
「あ、虹!」
「おお、でっかいな」
きれいな七色の架け橋が空に大きな弧を描く。きっと、あの下に宝物が!!
「それじゃあ、続き、いくかぁ」
アルテは、にっと笑って手を引いてくれる。その二人の間にできた橋をサラマンデルは渡ってアルテに戻っていった。
「何も聞かないんだね」
「ん、何だ?」
「ううん、さぁ行こう! お宝のもとにっ」
私はぎゅっと握られた手を少しだけ強く握り返した。
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