第36話
どうせ、パンティーを持っていても使い道がないので、桃の香りのパンティーをレクシーに、メロンの香りのパンティーをアルアに、引っ越しの挨拶のつまらない物として渡した。
二人とも興味なさそうに受け取っていたけど、一度は履き心地を確かめる為に、装着するはずだ。
そして、装着したまま僕の家にやって来て、「お返しします」とか言って、僕にパンティーを脱がすのを強要するはずだ。
まったく、女って面倒臭いなぁー。
「とりあえず、左から順番に回る予定だから、次はここだな」
町の建物は左から鍛治屋、アクセサリー屋、冒険者ギルド、アイテム屋、食堂が建っている。
だから、次は無口なクエスト嬢がやっている冒険者ギルドになる。
どうせ無口なクエスト嬢とは、会話は長くは続かないから、パパッと終わらせないとな。
「すみません。今日、町に引っ越して来た者です。引っ越しの挨拶に来ました」
カウンターの奥に見えた、薄紫のロングヘアーのクエスト嬢に話しかけた。
「んっ?」
クエスト嬢は、手に持っていた書類の束を捲るのを止めると、眠そうなトロンとした金色の目で、こっちをジィーッと見つめている。
中性的な顔立ちで、黒の生地に金の刺繍が縁取りされている、貴族の男爵が着るような高級スーツを身に纏っている。
黒と金のビシッとしたジャケットと、フワッとした膝丈上のショートパンツは、男装の麗人を思わせるけど、つま先から膝丈上まで伸びるセクシーな黒タイツで、女性なのは見れば分かる。
そして、僕に匹敵する美しい容姿を持ちながら、非常に残念な部分がある。おそろしく無口なのだ。
「あのぉ~、今日、町に引っ越して来た者でトオルって言います。よろしくお願いします」
クエスト嬢から返事が返って来ないので、もしかすると聞こえなかったのか、聞き取れなかったのかもしれない。僕はもう一度、クエスト嬢に引っ越しの挨拶をした。
「りょ」
「えっ?」
うわぁ~、ゲームと一緒だよ。分かったから、話しかけるなオーラが凄いよ。
僕がおそろしく嫌われているのならば、この対応も甘んじて受け入れるけど、まだ何もやっていない。
これは由々しき事態だ。
それに僕は冒険者として仕事をするのだから、少しはこのクエスト嬢と、コミニュケーションが出来るようにならないといけない。
無視している女性に、しつこくナンパしている男みたいで嫌だけど、仕方ない。
「あのぉ~、僕、冒険者なんですけど、クエストとかありますか?」
「ちょっと待ってて……」
「喋った⁉︎」
アルプスの少女ハイジの名シーン、「クララが立った⁉︎」みたいな感動が走った。
クエスト嬢がクララのように、事故で車椅子生活を送っていた訳ではないが、全然喋らない人が喋ると、普通に驚いてしまう。
「お待たせ。クエストはあるけど、トオルのレベルが分からないと紹介は出来ない。レベルを教えて」
「今はレベル10ですけど、本気を出せば、レベル30まで余裕でいけますけどね」
「じゃあ、これがオススメかも」
「どれどれ……」
機械が喋っているような、感情のこもっていないタメ
日常生活は分からないけど、そういう設定にすれば、寛大な気持ちで対応できるはずだ。
出来れば、僕はお客様のような立場なんだから、敬語を使って欲しいけど、それはまた今度注意すればいい。
ああっ、でも、僕が仕事を紹介してもらっている立場ならば、僕が面接を受けているようなものだ。
ここは自己アピール強めに、自分の長所を話した方がいいかもしれない。
【目的=蜂型魔物『
場所=ノイジーの森。報酬=240エル。推奨レベル=10以上】
【目的=カエル型魔物『森カエルン』十匹の討伐。
場所=ノイジーの森。報酬=480エル。推奨レベル=10以上】
【目的=猪型魔物『ワイルドボア』十匹の討伐。
場所=ノイジーの森。報酬=310エル。推奨レベル=10以上】
【目的=植物型魔物『プチトレント』十匹の討伐。
場所=ノイジーの森。報酬=260エル。推奨レベル=10以上】
【目的=鳥型魔物『ワイルドホーク』十匹の討伐。
場所=ノイジーの森。報酬=310エル。推奨レベル=10以上】
手渡されたクエスト用紙、五枚全てが同じ場所だった。
報酬は大した事ないけど、まずはこれで僕の実力を調べるつもりのようだ。
謙虚さをアピールしたいなら、報酬が一番低い蜂型魔物を倒しに行けばいい。
実力をアピールしたいなら、報酬が一番高いカエル型魔物を倒しに行けばいい。
でも、この俺様は、そんな小者達がやるような事はしない。
「なるほど。じゃあ、五枚全部受けます」
「んっ? 危ないと思うよ」
「それは人によって違うと思いますよ。僕の辞書には『危ない』と『不可能』の文字は載っていません。二日もあれば、全部片付けられます」
推奨レベル10なら、楽勝過ぎる。
とりあえず、魔物の友達を四匹ゲットして、二匹組と二匹一人組で分かれれば、効率は二倍になる。
しかも、僕の友達の魔物はレベルアップもする。
最終的には、レベル30の四匹一人組パーティーになって、推奨レベル10の魔物達を、圧倒的な力でねじ伏せる事が出来る。
「そこまで言うなら、じゃあ、頑張って」
「はい、このぐらい余裕ですよ。それじゃあ、これからもよろしくお願いします」
「んっ? それはトオルが生きて帰って来てから考える。私の名前はマニア。とりあえずよろしく」
「はい、よろしくお願いします」
スタスタと仕事を終えると、クエスト嬢のマニアはテーブルに戻って行った。
社交的なキャラクターじゃないのは知っているので、軽い挨拶を済ませただけでも十分だ。
何だか上手く行き過ぎて怖いけど、引っ越しの挨拶は今のところは順調だ。
残り二人だし、このまま上手く行けばいいんだけど……。
でも、嫌な予感しかしない。
今まで散々酷い目に遭って来た僕だからこそ分かる。
このまま上手く行くはずがない。
何か罠があるはずだ。絶対にある。いや、むしろ無い方がおかしい。
「すみません。今日、町に引っ越して来た者でトオルと言います。これから、よろしくお願いします」
「んっ? ああっ、そうか……少し待っていてくれ。今、手が離せない状態なんだ」
僕はカウンター越しに、眼鏡に白衣を着た金髪の女性に挨拶をした。
後ろ髪は顎のラインで、前髪は眉毛の上で、水平に綺麗にパッツンヘアーされている。
何だか、グツグツ煮えた鍋を忙しそうに、鉄のお玉で掻き混ぜ続けている。
「大丈夫です。待っています……」
アイテム屋の室内は実験室のような大きな机が一つ置かれていて、その上に赤や緑の液体が入った透明な試験管や、ビーカーがいくつも置かれていて、アイテム屋と言うよりも、実験室と言った方がよさそうな感じだ。
「悪いね、待たせてしまって、一人で色々やっていると、どうしても手が足りないんだよ」
「あっ、大丈夫です。そのまま僕の事は気にせずに、仕事を続けてください。何を作っているんですか?」
「ああっ、これは回復薬を作っているところだよ。数種類の薬草を鍋で煮て、今は
「へぇー、大変そうですね」
もう帰ってもいい雰囲気だけど、流石にもう少しぐらい話さないと、人付き合いが悪そうな印象を与えてしまいそうだ。
でも、話すと言っても、話すような話題もないし……。
「待たせて、すまない。私はリーベラ。確かトオルだったね。ようこそ、コルヌコピアイの町へ」
話す話題を考えていると、作業が一段落ついたようだ。白衣のリーベラがやって来た。
両手に、はめていた青色のゴム手袋を取ると、爽やかな政治家のようなハキハキした口調で握手を求めてきた。
『えっ、触っていいの?』と思いながら、一応、服で右手をゴシゴシ拭いて、軽く握手を交わした。
「どうも、ご丁寧にありがとうございます」
「そうそう、ここはアイテム屋だけど、雑貨屋でもあるんだよ。石鹸やシャンプー、トイレットペーパーも売っているよ。あと修理は出来ないけど、衣服の洗濯もここでやっているから、必要な物があったら、是非是非、この店を利用ほしい」
白衣を着ているけど、どちらかと言うと商売人だな。
握手した手を離さずに、僕に買い物をしていくように遠回しに伝えてくる。
でも、お風呂に入る予定だから、ちょうどいいや。
「助かります。じゃあ、早速、石鹸とシャンプーとトイレットペーパーをお願いします」
「毎度あり。ああっ、タオルはいいの? お風呂に入るなら、タオルは必要だと思うよ」
「じゃあ、タオルも二枚お願いします」
「あっははは、二枚じゃ足りないから、四枚入れておくね」
あのぉ~、これだけ買ったから僕の手は離してくれてもいいんじゃないですか?
えっ、歯ブラシと歯磨き粉もですか……お願いします。
「はい、毎度ありぃ~♪ いっぱい買ってくれたのと、引っ越し祝いのサービスで安くしておくよ。ついでにゴミ箱もオマケしておくからね」
「すみません、本当に助かります」
「いいって、いいって♪ 困った時はお互い様でしょう。新生活頑張ってね」
「ありがとうございます」
ようやく握手から解放されたけど、神フォンの残高は0エルになっていた。
親切そうな面して、全財産の205エルを根こそぎ持っていかれてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます