第20話
戦士の一人が、神フォンⅩⅢと武器を地面から拾うと、サリオスに神フォンⅩⅢだけを手渡した。
「なるほどな。私が持っていた時にはなかった新機能がある。確かに最新機種のようだ」
懐かしそうに神フォンを何度かひっくり返した後に、サリオスは神フォンの画面を操作し始めた。
僅かだけど、サリオスの口角が少し上がったように見えた。
僕以外でも神フォンが操作できるならば、僕を生かしておく利用価値はない。
つまりはここで終わりかもしれない。
「それが欲しいなら、上げるよ。だから」
「——待て待て。そう結論を急いで出そうとするな。殺すつもりはないと言ったはずだ。それに私が欲しいのは、これではない」
「……じゃあ、僕を生かしておく理由はなんだ。僕になんの価値がある」
「その価値というものは他人が評価するものだ。君も、子供の落書きのような絵を手に入れるのに、数億円の大金を出す人間を愚かだと思うだろう? それと同じだよ。私にとっては君は数億円の価値があるんだよ」
「僕に数億円の価値だって……ハッ! ま、まさか⁉︎」
僕はある事に気がついてしまった。
サリオスのアイアンメルムの隙間から見える目は、僕の身体をペロペロと舐め回すように見ている気がする。
僕に男同士で抱き合う趣味はないけど、この美しすぎる僕を見て、欲情するのは女性だけとは限らない。
きっと、『綺麗な良い身体しているじゃないか。今夜が楽しみだぜ♡』とか頭の中で、イヤらしい事を考えているんだ。
「まずはそのコートを脱いでもらおうか。おかしな動きをしても無駄だぞ。神フォンのマップで、君がどこに逃げても分かるんだからな」
やっぱり予想通りだった! 服を脱いで、全裸になれと言ってきた。
「くっ! この変態め!」
「何を言っている? さっさと脱げ」
「くぅっっ……」
きっと、村人達の目の前で僕にあんな事やこんな事をさせるんだ。
ううっっ、全ては僕が美しすぎるのが原因なのは分かっている。
今度はもう少し不細工に生まれ変わるしかない。
風鳥のコートを脱ぐと、次は白シャツを脱ごうとした。けれども——
「そこまでだ。コートだけでいい。男の裸を見る趣味をない」
「へぇっ?」
白シャツを脱ぐのを何故だか止められてしまった。
これ以上は刺激が強過ぎて、村人達の理性が爆発するからだろうか?
確かにその通りだ。肉欲野獣に変貌した、キノコの村の村人の制御は難しいと思う。
「次は魔物の仲間を外に出せ。暴れないようにしっかりと命令するんだぞ」
「あっ、はい……サーディン、アクア、外に出るんだ」
なるほど。どうやら、村人達の前で恥ずかしい事を強要するつもりじゃなかったようだ。
防具を取って、ついでに友達の魔物を僕から引き離すつもりなんだろう。
ほとんど戦力的には丸裸にされたようなものだけど、戦力差は歴然だ。
抵抗するだけ無駄なのは分かっている。大人しく従うしかない。
『ギョギョ?』
『キュキュン?』
サーディンは錆びた剣を構えたまま、どうしようか悩んでいる感じだ。
アクアはビックリした後に、襲って来ない村人達を見て不思議がっている感じがする。
やっぱり、この包囲された状況で呼び出された理由は分からないだろう。
「クレイグ、この二匹の魔物は珍しい魔物なのか?」
「いえ、どちらもレアンドロス海岸にいる魔物です。珍しい魔物ではありません」
「そうか……ならば殺してもいいな。
「ちょっ⁉︎」
「——何か問題でもあるのか?」
「あ、ありません……二人共、絶対に抵抗するな」
止める事は出来なかった。サリオスにひと睨みされただけで僕は二人の命を見捨てた。
戦う力も反抗の意思も不満も何も持ってはいけない。
抵抗すればする程に、それ以上の暴力が返ってくるのは、いじめられた経験から分かっている。
村人戦士三人が無抵抗のサーディンとアクアに剣を振り上げる。
そして、容赦なく剣を二匹の身体に振り下ろしていく。
『ギョギョーーー⁉︎』
『キュキューーーン⁉︎』
「くぅっっ‼︎」
ザァン‼︎ ドォス、ドォス‼︎
二匹の悲鳴が聞こえてくる。剣で斬られて、突き刺される、二匹の悲鳴が……。
言葉は分からないはずなのに、『どうして?』『助けて』『痛いよ、痛いよ』と頭の中で、二匹の悲鳴が人語に変換されていく。
我慢だ。我慢しなければならない。
珍しい魔物じゃない。いつでも友達になれる魔物達だ。
「ふん! てこずらせやがって!」
『ギョ……ギョ⁉︎』
『キュ……ン⁉︎』
サーディンは剣で何度も突き刺されて殺された。
アクアは頭の上の青色の花がグシャグシャになるまで、剣で叩き潰された。
死んだ二人の戦士にトドメを刺したのはアクアだ。
サーディンよりも強い怒りが向けられるのは仕方ない。
けれども、わざわざ殺す必要はないはずだ。村のどこかに監禁していればいい。
こんなのは僕に対する見せしめの意味しかない。逆らったら容赦なく殺すという見せしめの意味しか……。
「よく我慢した。君が感情的に動く、愚かで危険なダークエルフではない事は証明されたよ」
「くっ! その為だけに無抵抗の二人を殺したのか?」
「ほぉー、二匹ではなく、二人殺したか……だとしたら、より深い意味がある行為になった。こちらは二人死んだ。君の方も二人死んだ。私達と君は、これでやっと対等な立場になれたんだ。さあ、話し合いを始めようか」
「くっ……」
明らかな詭弁だ。人間二人の命と魔物二匹の命が同じ訳がない。
この程度で村人達の怒りを抑えられるとは到底思えない。
世界中に嫌われるダークエルフを殺せば、それこそ名誉と栄光は思うままのはずだ。
僕を殺した方が明らかにハッピーエンドになる。
勇敢に戦って死んでいった村人戦士二人の魂も浮かばれるというものだ。
「大人しくしろよ。抵抗すれば痛い思いをするだけだぞ」
「ぐぅっ、うぐっ……」
村人戦士二人掛かりで、僕の両手を背中に回して、ロープでキツく縛っていく。
骨を折るようにロープで強く縛るのは痛い思いには入らないようだ。
「さあ、立て! お前の家に連れて行ってやる」
村人達の前では話せない話し合いか。
考えてみたら、このサリオスは村人に犠牲者が出る作戦を好んで使っていた。
もしかすると、人間の命も魔物の命も同じ程度のものだとしか、思っていないんじゃないだろうか。
だとしたら、ますます僕の命を助ける意味が分からなくなる。
同じ転生者同士でやっぱり話したい事でもあるんじゃないのか。
「おい、余所見せずにしっかりと歩け!」
「ぐっ!」
村人の敵意の視線を浴びながら、僕はサリオス達がいた建物に向かって歩いていく。
右隣に立って一緒に歩いていた戦士が、ドフッと脇腹を強い力でいきなり殴ってきた。
思わず、痛みを堪えながら、ギロリと睨んでしまった。
「何だ? 反抗的な目だな。片方の指を全部へし折ってもいいんだぞ!」
「す、すみません。許してください」
「はぁっ? プゥハッ。フッハハハハハ。おい、聞いたか? あのダークエルフ様が『許してください』だってよ! 何だよ、クソ雑魚じゃないか!」
「「「アッハハハハハハハハッ‼︎」」」
すぐに男から目を逸らして、僕は頭を下げて謝った。
その瞬間、村中が笑い声に包まれた。
僕を肉体的に痛めつけれないなら、精神的に痛めつけるのかもしれない。
そして、どんなに理不尽な目に遭ったとしても、抵抗したらいけない。
これはいじめとはレベルが違う。
僕は敗残兵と同じだ。生かすも殺すも村人達の気分次第だ。
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