第238話 鈴音さんと共に暮らす生活 その5

「そうだ!」

「いっそ、シートで買い物袋を全て包んで、その上から縄を掛けるか…!」


(そうすれば、シートでガードされるから荷物は転がらないし、更に縄で縛ればシートがまくれる事も無い)

(流石、俺だ!!)


 ベストなアイディアだと自分で思い、自分を褒める!!

 俺はそう考えを纏めて、側に居る稀子に声を掛ける。


「稀子…。シートは何処に有る?」


 俺が稀子に聞くと、稀子は驚きながら言う!


「シート??」

「そんなの、雨じゃ無いから積んでないよ!!」

「シートなんか…、使わなければ邪魔だし……」


本気マジか!?」

「しまったな~~。シートを積み込んでくれば良かった~~」


 シートが無ければ、さっき買った品を包む事が出来ない。

 無理して、座席下に荷物を積む事も考えたが量が多すぎる……


「これは、不味いな……」


「ねぇ。さっきから、何をブツブツ言っているの。比叡君…?」

「変だよね。りんちゃん……」


「えぇ…。比叡さんは、さっき買った商品の心配をしている様です」

「トラックの荷台ですから、品物の破損や紛失を心配しているのでしょう…」


 鈴音さんは俺がしたい事に気付いていた様だが、それに対する案が出なかったため、見守っていたのだろう……


「あ~~、それね…」

「鈴ちゃんと比叡君。沢山、買っちゃったもんね!」


「鈴音さん、稀子。見ての通り…、このままでは荷物が転がるんだよ」

「平地なら問題ないけど、家までは上り坂だらけだろ」


「……」


「そうだね!」


 鈴音さんは無言だが、稀子は陽気に返事をする?


「稀子…。やけに悠長だな。このままでは帰れないだろ…」


「んっ。比叡君!」

「せっかくひもが有るんだから、紐で縛れば良いじゃん!!」


 やけに簡単に言う稀子。

 それが出来れば苦労はしない。


「それが出来ないのだから、困っているのだよ…」

「買い物袋を纏めて、縛るだけでは意味が無いだろ」


「出来ない…?」

「そんなのレジ袋頭を縛って、その間に紐を通して、その紐を運転席後部の荷台ガードに張って縛れば大丈夫だよ……」


 稀子は、当たり前のように言う。


「それも悪くは無いが、稀子…」

「それだと、カーブ時に買い物袋が浮いてしまうだろ?」

「瓶類や生卵も買ったのだし……」


「そんなの、ゆっくり曲がれば、大丈夫だよ!」

「比叡君は、何処かのでは無いでしょ!!」


「確かに私の地区への道は、走りがいの有る道だけど、比叡君は地区のヌシに成る気!?」

「けど、私の地区で、最速目指されても困るんだよね…。爆音は近所迷惑だし……」


「あっ……豆腐屋なら、コップの水すら急カーブでも一滴も零さないから、レジ袋を紐で縛る必要も無いか!!」


 稀子は呆れ返りながら言うが、途中から訳分からない事を言い始める!?

 豆腐屋とは何だ!? 豆腐屋が山道を攻めるのか!?


 鈴音さんも、稀子の言っている事が理解出来ていない表情をしていた。

 今の事は聞き流そう!! 


(稀子の言う通り、レジ袋の頭を縛って紐を通せば、飛んでいく事は無いか)

(それしか方法は無いな…)


 卵やトマト。割れ物は別の袋に分けて、分けた袋は鈴音さんと稀子に、座席で抱えて貰う。

 それ以外の物はレジ袋の頭を縛って、手提げ部分に荒縄を通して、その荒縄を荷台のガードに張りながら縛る。

 こうすれば、余程の遠心力を掛けない限り、荷物が飛んでいく事は無いだろう。


(乗用車だと、普通に積み込んで終わりだが、トラックだとこの様な問題が起きる訳か)

(けど、2トントラックでスーパーに買物に来る客もそう居ないわな……)


 荷物の固定(?)もして、俺達は家に戻る。

 平坦の間は普通にトラックを走らせるが、山道に入ってからは、慎重に山道を上っていく。

 勢いよくカーブに突っ込むと、買い物袋が遠心力で擦れるし、それで破けたら最悪だからだ。


 このトラックの荷台は、ゴムシート等の滑り止めは敷いてない鉄板状態なので直ぐに滑る。

 また、平面では無く、凹凸状なので、これも厄介で有った。


 分断道路の御陰でゆっくり走っていても、後続車が来る事も無いし、その割には待避所も多いので、荷物を傷めない様にゆっくりと走って家に戻る……


 帰りは時間が掛かった気がするが、荷物を殆ど傷める事無く、俺と鈴音さんの家に到着をする。

 買った商品の収納は鈴音さんにお願いして、俺は稀子の家にトラックを返しに行く。


「ありがとう。稀子。助かったよ!」


 俺はそう言いながら、トラックの鍵を稀子に返す。


「事故も起こさず、無事に終れて良かったよ♪」


 稀子は和やかな表情で鍵を受け取る。


「でも……今度から、買物等で使う時は、軽トラの方が良いな」


「そうだね~~。家具とかを買うならトラックだけど、普段の買物なら軽トラの方が良いね!」

「でも、近いうちに比叡君もマイカー買うのでしょ!!」


「うん。今月末までには、どうにかしたいと思っている」


「明日の夕方には、軽トラは車検から戻って来る予定だから、暫くはトラックには乗る事は無いと思うよ!」


「そうだと嬉しいよ。稀子」

「スーパーの買物で2トントラックは、オーバースペックだ!」


 ……


 引っ越しの片付けも粗方済んで、買い出しも終わった……

 この後は……本当の鈴音さんとの、初めての夜を迎えようとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る