第33話 幸せを掴む準備 その1

 稀子と過ごした生活が終わってからの翌日……

 俺は帰りたくなかった実家に行って、今までの顛末を親に話した。もちろん、稀子絡みの話はしていない。

 親には、俺が学童保育のパートをしていた事は、報告していなかったので親は凄く驚いた。

 今後の自分の進路について、保育士の養成学校に行きたいと相談した所、親は予想していた通りだが難色を示した。


 親の言い分としては、男性が長続き出来る職場では無い。

 給料や休暇も少なく現実的では無い。

 更には、男性保育士や学童保育指導員で、結婚は出来るかも知れないが生活は出来る のか!?

 と散々言われた。


 俺としても、色々な人の知り合いが出来たから、その人達の助けを借りれば何とか成ると説明はしたが、物別れで終わってしまった。


 当たり前と言えば当たり前だが、4月入学の保育専門学校は、全て願書受付が終了しており、4月入学は出来ず稀子が見せてくれた、保育士養成学校も春(4月)入学は出来ないが秋(10月)入学は出来るらしい……

 今、最短のコースで行って今年10月に、保育士養成学校 夜間コースに入学出来たとしても3年半以上の時間が掛かるし、その学校に通学しようとすると、現実的に稀子達に頼らなければどうしようも無い状態だった。


 親に金銭面の援助を求めてみたが快い返事は来なくて、実家に戻るなら、その引っ越し費用位なら出してやると言われた始末だ。

 俺の貯金も、稀子の住んでいる町に引っ越しは出来る位の貯蓄は有るが、それを行ってしまうと1月分位の生活費しか残らない。

 親の支援を受けられないと知ったには、もう……稀子達に力を借りるしか無かった。


 その日の夕方。

 アパートに戻った俺は、稀子に電話を掛ける。

 しばらくのコールの後、稀子が電話に出る。


「はい!」


 電話向こうでも、元気な稀子の姿が思い浮かぶ。別れてから1日しか経ってないが……


「もしもし、青柳比叡ですが…」


「あっ、比叡君!」

「元気~~」


「うっ、うん、元気…」


「私に電話を掛けて来たと言うことは、決めたんだね♪」


「そうなんだけど、実は…」


「んっ……。困ったことが起きたんだね」

「どんな事か教えて!」


 察しが良いのか稀子はそう言ってくる。

 言葉の感じからして、お姉さんが小さい子に声を掛ける感じだった。

 稀子は意外に、優しいお姉さんタイプなのかも知れない?

 俺は保育士の道に進むのは決めたが、親の支援は受けられない事を稀子に話した。


「比叡君の両親……そんな事言うんだ!」

「非道いね…」


「俺もあの時……、人生をきちんと考えなかった非が有るから…」


「引っ越し先とか、お仕事に関しては、山本さんが中心になるから、さっきの事話しても良い?」


「それは、もちろん…」


「んっ、分かった…。お仕事に関して、何か得意な事有る?」

「その方が山本さんも探しやすいし!」


「得意な事…」


 学童保育の指導員に就く前の仕事は、食品工場で働いていたが残業も多くて、品質管理に厳しい割りには、給料が安いという職場だった……

 前職を生かす仕事なら食品工場も有りだが、出来ればやりたくない。


「……特にないんだ」


「そっか…。でも、それなら何でも良いって訳だね♪」


「えっ!?」

「そう言った意味では!?」


 そうすると稀子は、急に厳しい口調で言ってくる。


「比叡君……私達を頼るのだから、有る程度は覚悟して貰わないと!」

「お仕事も、比叡君の生活費と学費をまかなえる場所のお仕事に、絶対成るはずだから楽な場所では無いと思うよ!」

「山本さんが紹介するお仕事だから、山本さんに関わりが有る場所に成るし!」


「まぁ、そうだね……」


「あ~~、また弱気に成っている!」

「一度、覚悟決めたんだから『ドーン』と来てよ!!」

「そんなのじゃ、私、比叡君のこと嫌いなるよ……」


「あっ、ごめん!!」

「ちょっと、話を聞いていたら怖じ気おじけづいてしまった」


「……どうする比叡君?」

「比叡君の方で何とかする?」

「決めたら、もう戻れないよ。私は直ぐに山本さんに話すから!」


 何とか出来るのなら稀子に電話はしていない。

 やはり……この場に成っても、楽な道に逃げ出そうとしている。

 一度決めた覚悟だ。この機会を逃したら童〇喪失と結婚と、将来を失う事は目に見えている。


(覚悟するんだ! 俺!!)


 俺は自分自身を鼓舞させた。

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