第21話 2日目のおもてなし
その日の夕食も稀子が作ってくれる。
昨夜の常夜風鍋の残りスープに、和風顆粒出汁の素と醤油で味を調えてから、うどんを入れてうどんが温まってきたら、溶き玉子を入れてかき玉風にして刻みネギをかけたうどんと、食費も山本さんから
うどんだけでは少し物足りないで白米(ご飯)も有る。
2人で『いただきます』して、晩ご飯が始まる。
稀子は未成年だし、俺も酒は一応飲めるが、稀子が居る手前飲まないでおく。
俺は早速、刺身の盛り合わせに入っている、マグロの切り身を箸で掴んで、わさび醤油で食べる。
「うん。やっぱり、刺身は美味しいね!」
「冬でも、暖かい部屋で食べる刺身は最高だ!」
「そうなの?」
「じゃあ、私も食べよ~」
稀子はブリの切り身を箸で掴んで、わさびは付けずに醤油だけで食べる。舌の方もまだ、お子様かも知れない……
「うん!」
「このブリ脂が乗っているね~~」
「これはご飯と合いそうだね♪」
稀子はそう言いながら、刺身とご飯で食べている。
人によっては、刺身と白米では食が進まないと言う人も居るが、本当にそんな人が居るのだろうか?
俺も刺身とご飯で普通に食べられる。
刺身の次は、昨夜の鍋のスープで作ったうどんで有る。溶き玉子が入っているので、玉子の黄色のアクセントが良い!
スープを一口飲んでから、うどんをすする。
「このうどん……。適度に豚からの脂が出ていて、野菜の甘みも加わって美味しいね!」
「でしょう♪」
「翌日だから、お鍋の
晩ご飯の時間も、稀子と楽しい食事で時間が過ぎてゆく。
……
夕食の後は2人で後片付けをして、お風呂は当然1人ずつ入って、1Rの部屋なのでリビングで2人夜の時間を過ごす。
この時間ではテレビを鑑賞しながら夜を過ごしているが、2人の今後の予定の話もしていた。
「稀子ちゃん…」
「明日と明後日はフルに時間が有るし、どう過ごそっか?」
「そうだね~~」
「知らない町に来た事だし、比叡君に観光案内でも頼もうかな?」
「何が有る~~?」
稀子はそう言ってくるが、この町には見所が本当に全く無い……
地元の大きな神社が1つ有る位だが、近隣にそれを上回る神社が多数有るため、地元の神社はマイナー扱いされている。
それ以外は本当に何も無く一応、市民公園が有るが、スポーツイベントをメインとした公園のため、観光向けの施設では無い。
ショッピングモール等も近くには無く、本当に普段の生活をするだけの町で有る。
「ごめん……この町は、観光案内する場所が無いんだ…」
「うそ~~。幾ら何でも1個ぐらいは有るでしょ~~」
「一応有るけど、神社しか無い…」
「うぁ!」
「神社か~~」
「初詣は、私の町の神社で済ませたばかりだしな~~」
「この町は楽しむより、生活をする町だからね…」
「詰まんない町ね……。海も山も近くに無さそうだし」
稀子はそう言う。
稀子の町は、山は有ると聞いているが、海も近くに有るのだろうか?
「比叡君!」
「神社以外に、本当に観光する場所無いの!?」
「バスを使えば、駅から河川公園に向かう路線バスは一応出ているけど…」
「河川公園?」
「それは、どんな公園」
「一応、展望タワーが有って、広場と子ども向けの遊具も有って、後は、季節の花が花壇に咲いているかな?」
「この時期はたしか、何も咲いていないはずだけど?」
「暖かい時期なら良いけど、冬の時期だと1日遊ぶのは無理そうだね…」
稀子は残念そうに言う。
「俺が車を持っていれば、車で出掛ける事は出来るけど……」
「比叡君。レンタカーを借りたら?」
「山本さんから、お金は沢山貰えたもんね!」
「そうしたいのは山々だけど、ペーパードライバーだから…」
「もし、自動車事故を起こした日には、俺は社会的と山本さん達に抹殺されるよ」
「あ~~」
「山本さん……。本当に怒らすと怖い人らしいからね。私もまだ見た事無いけど…」
その後、色々、俺の町周辺に有る観光施設を稀子と相談してみたが、やはり冬の時期だから屋外の施設は厳しい。
行動範囲を広げれば良いのだが、俺と稀子の関係は親友関係と言うよりかは、山本さん達から俺に一時保護を任されている立場だ。
事故が起きた時のリスクとかを考えると、ついつい守りに入ってしまう自分がいた。
その夜は結局、稀子と観光をする場所は決まらず、夜も更けて来たため就寝する事に成った。
今日もベッドに2人で寝る。もちろん、そのまま素直に寝る。
昨夜の稀子はやはりと言うか、山本さんを早く忘れたかったのだろう……。行きずりの機会が有ったが、今の稀子は山本さんと鈴音さんと関係が修復出来たので、体を重ねられる雰囲気が全く出てこなかった。
今日1日は凄く疲れたはずなのに、俺は中々寝付けず稀子の様子を伺うが、稀子は静かに寝息を立てていた。
俺の今の感情は、稀子を彼女にしたい気持ちは今でも変わらないが、それを本当に実行したいとは思わない。
それは自分が無職で有るし、次の道も決まっていない……。そんな状態で稀子を彼女にしても、直ぐに破局を迎えるのは目に見えているからだ!
自分の将来と稀子の事を考えながら、眠りに就けない夜を過ごした。
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