第6話 打ちあがるは真実と嘘の花~夏祭り~③

「あ! まこ兄! それに真実さんもー」

 

 食事が終わり、そろそろ別のところに行こうとしたタイミングで、美玖がこちらに駆け寄ってきて、霜雪に抱きつく。


「えへー、真実さんに抱きつくと落ち着くなー」

「こんにちは、美玖さん」

 

 霜雪は美玖の頭を撫でる。写真の顔よりもよっぽど嬉しくて楽しそうだ。

 

 美玖は少しして満足したのか霜雪から離れ、こちらを見てくる。


「ふむふむ、まこ兄はフォークダンスといい、今日といい隅に置けないなー。こんな美人さんを連れまわしてるなんて」

「美玖、言い方が悪いぞ。それに霜雪と俺は何もねえよ」

「真実さん、いざとなったらまこ兄をよろしくね」

 

 だからいったいどこからそんな猫なで声が出ているのか。


「けど、楽しんでるようでよかったー! 写真忘れないでね! 真実さん、またねー!」

「ええ、また会いましょう」

 

 霜雪が手を振って見送り、美玖は一緒にいた友達の方へ戻っていく。


「やっぱりどうしてあんなに可愛い美玖さんがあなたの妹なのかしら」

「どうしたもこうしたもねえだろ。兄妹なんだから」

 

 俺と霜雪は取り敢えず秋城たちがいる場所に戻ることにし、移動を始めた。




「冬風先輩!」

 

 後ろから俺を呼ぶ声が聞こえたので振り向く。


「おう、双田……夢だよな?」

 

 声の主は双田だったが、俺には双子のどちらの双田かは分からない。ただこの祭りが四季高校の近くで開かれていることを考えれば、可能性として高いのは、季節高校に通っている双田望より、同じ学校の双田夢だろう。


「もう、この前フォークダンス踊ったばかりじゃないですか」

 

 どうやら正解だったようだ。


「で、なんか用か?」

「用がないと冬風先輩には話しかけちゃダメなんですか? お世話になったから挨拶くらいしますよ」

「そうか」


「おーい、望ちゃん! どこに行ったかと心配したよ。あ、冬風先輩こんにちは」

 

 双田夢の後ろから的場快が走ってやって来た。


「的場、間違えてるぞ。こいつは双田夢だ」

「ん? 違いますよ。この子は僕が付き合ってる望ちゃんです。夢ちゃんはちょっと下の方に矢作と一緒にいますよ。僕はどちらか見分けられますし、今日は二人は違う柄の浴衣を着てるから間違えようがないんです」

 

 俺が双田を見つめると、こらえきれなくなったのか双田は笑い始める。


「冬風先輩、困惑しすぎですよー。快君も矢作君ももうだませなくなってきたから新鮮でした」

「やってくれたな。ご丁寧にフォークダンスのことまで姉妹で共有しやがって」


「ごめんなさい。冬風先輩ってこういう時どんな反応するのか気になって。だって私たちのことで色々やってくださった時は、なんでもできる凄い人って感じだったから」

「ふん、そんなことはないことが分かって良かったな。もう俺に入れ替わりを試すなよ」

「はーい」

 

 双田望のこの表情からしてまたいつかはやってくるだろう。


「じゃあな、一応矢作と双田夢にもよろしく」

「はい! また近いうちにお世話になると思います!」

 

 双田望がそう言いながら手を振る。学校が違うのだから、そうそうお世話する用事はないはずだが、何かあるのか。俺は特に思い当たることがなかったので気にせず、霜雪と階段を上った。




「彼女が前の相談に出てきた双子の子?」

「そうだ。全然関わってないから俺には全く見分けなんてつかないが、付き合ってる奴らはすぐに分かるらしいな」

「へえ、そうなの。あ、ちょっと待ってもらえるかしら」

 

 霜雪が道を横にそれ、りんご飴を二つ手に持って帰ってくる。


「二つも食えるんならさっきも両方一人で食べられただろ」

「二つも自分で食べないわ。……はい、さっきはごちそうになったからそのお返し。もしかして嫌いかしら?」

 

 霜雪が下を向きながらりんご飴を差し出してくる。


「いや、食べたことないからどんな味か知らない。けど、貰っとく。ありがとう」

 

 俺はりんご飴を受け取る。


「私も一度も食べたことがないの。これが初めて」

 

 霜雪はまるで小学生のように目を輝かせながらりんご飴の袋を剥ぐ。俺も包装を外し、霜雪と同じタイミングで一口かじってみる。



「「甘い」」

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