第3話 二つ目の相談
第3話 彼らどちらが嘘つきなのか~二つ目の相談~①
三上と下野の件を解決してから、その二人と夏野が教室でもよく俺に話しかけてくるようになった。共通の話題はあまりないので話が続くことはないが、聞くところによると、下野はゲームを購入して日々練習に励んでいるらしい。ここまでの負けず嫌いをよく今まで抑えていたなと称賛したくなる。
何はともあれ、上手く関係が続いてくれている分にはこちらもありがたい。喧嘩のたびに相談に来られて、その度に目の前でイチャイチャされても困るだけだ。
教室でそいつらに話しかけられるようになっても俺は昼休憩には生徒会室で弁当を食べる。三上が一緒に食べようと誘ってくれることもあったが、それでも俺は他の奴らと上手く関われる気がしない。
今日も今日とて、生徒会室まで来て、鍵を開けようとするが、またしても、既に鍵が開いていた。さすがに生徒会のメンバーとはそれなりに話すことができるようになったので、教室に戻るより、取り敢えず生徒会室に入った。
先客は月見だったようだ。
「ま、誠先輩。お疲れ様です」
「おう、お疲れ。俺もここで弁当食べていいか。もし一人が良いなら別のところ行くけど」
「いえいえ! どうぞ」
誠はソファのところのテーブルに広げていた弁当の包みを端に寄せて、俺が弁当を置くスペースを作ってくれた。生徒会には月見大地と春雨咲良の二人の一年生がいるが、二人とも先輩の数の方が多い生徒会によくなじんでおり、素直で良い奴ら、と今のところ俺は思っている。
「ありがとう、月見。で、なんでお前が生徒会室で一人で弁当食べてたんだ。俺と違って、お前はクラスに友達がいっぱいいるような奴だろ」
先週、夏野と同じようなやり取りをしたなと思いつつ、取り敢えず月見に話しかける。夏野といい、月見といい、いつも明るい奴の気が沈んでいるのを見るのはこっちも気が沈みそうになるのでできるだけ避けたい。
「クラスで仲のいい男友達が二人いるんですけど、そいつらがどうやら他のクラスの同じ女子を好きになったみたいで。それだけならまだいいんですけど、そいつらがその女子の好きなところとかを言い合ってると、全くその話が合わなかったらしくて、俺の方がそいつのことを好きだってお互い譲らなくなって、空気が悪くなって、面倒くさいんで逃げてきました」
また恋愛関係のもつれかよ。高校生って恋愛のことしか悩みがないのかと思ったが、取り敢えず月見の前では黙っておく。
「その子のどこが好きかなんて個人差があるだろ。何もそんなに喧嘩しなくてもいいじゃないか」
「いや、それが、好きなところが違うというよりは、二人は全く逆のことを言っているんです。まるでどっちかが嘘をついているんじゃないかと思うくらいに。まあ、二人ともそんなことをするような奴じゃないんですが、どうにも解決しそうにないですね。
そうだ! 誠先輩、この前奏先輩の友達の仲直りに協力して解決してましたよね! これに仕事として協力してくれませんか? どっちかが嘘つきだったとしても、真実が分からないよりはずっとましだと思うんです!」
月見がまっすぐ俺を見つめて頼んでくる。夏野の時とここまで同じ流れになるかと俺は思いながら、月見を見る。まいったな、これは完全に頼りにされている目だ。
ただ、月見が言った通り、たとえどちらかが嘘つきだと分かってしまうにしても、このまま何も進展しないより、真実を明らかにした方が、そいつらにしても月見にしてもいいだろう。
目安箱委員長なのに目安箱に全然要望などが入っていなくて、面倒くさい書類仕事にも飽きてきたころだ。この相談を聞く方が、紙と放課後ずっと見つめ合っているよりかは刺激的だろう。
「分かった。ただ当事者に頼まれないと、勝手に俺が首を突っ込むわけにはいかない。生徒会室にそいつらを連れてきてくれ。そこでまた詳しく話を聞こう。あとあまり期待しないでくれよ。俺は人と人との関係に疎いから、力になれるかなんて分からない」
「ありがとうございます! 分かりました! 今日の放課後にもそいつらを連れてきます! じゃあ、失礼します! また放課後にここで!」
月見は弁当を素早く片付け、そう言い残してせわしなく生徒会室から出ていった。夏野が犬なら、月見は猪だなと思いながら、静かになった生徒会室で一人、弁当を楽しむ。
二人のどちらかが全く違う嘘を言っているのなら、比較的簡単にこの相談は解決できそうだなと考えながら俺は今日の自信作の卵焼きを味わった。
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