第18話

 二子神タマキを選ぶのか?

 それとも、鬼竜ヨミを選ぶのか?


 許されるならスルーしたい。

 そんな禁断の質問を前にして、


『え〜と……あの〜……その〜……待ってくださいよ〜』


 ナギサの口から苦しそうな本音がもれまくり。


 辛いよな。

 リスナーのタツキですら辛い。

 ふたたび胃の辺りがキリキリしてきた。


『ナギサちゃんは私の方が好きじゃないかな〜。だって、コラボした回数も多いはずなんだよな〜』


 先制パンチしたのはタマキ。


『いやいや、ヨミの方が好きだよね〜。ナギサちゃんの誕生日配信、ゲストとして真っ先に駆けつけたの、ヨミだもんね〜』


 ヨミもすかさずアピールし返す。


『ナギサちゃん、ニコちゃん先輩って答えなさい。あとでファミレスのホットケーキを食べさせてあげるから』


『あっはっは! この女、食べ物をチラつかせやがった! しかも、やっす! 神様のくせにケチだな〜! もしヨミ姫先輩って答えたら、おいしいマカロン買ってあげるから!』


『おい! マカロンとか丸の内のOLかよ! あんなの、ただの卵白じゃねえかよ!』


『卵白いうな! ホットケーキもただの粉じゃねえか!』


『粉じゃないだろう。バターとか入ってるじゃん』


『マカロンだってな、クリーム入ってんだよ』


『あっはっは! 知らなかった!』


『むしろクリームが本体なんだよ! 高いのには、ちゃんと理由があるんだよ!』


 あわわわわっ⁉︎

 口論する2人に挟まれたナギサは、メトロノームみたいに体を揺らしまくり。


 あれに似ている。

 パパが好きなの? ママが好きなの?

 そういう両親に挟まれてオロオロする小学生みたい。


『ナギサちゃん、ナギサちゃん……』


 ふいに4人目の声がした。


『ここは私の名前を出すといいよ』


『あ、先輩、いらしたんですね』


『うん、実はいました』


 ナギサをフォローしたのは天使あまつかネムリ。

 愛称はネムちゃん、ネムネム、ネムリン。


 配信中に寝落ちしてしまうネタで一躍ブレイクした、同じ事務所の先輩VTuberである。


 この配信が始まってから30分、ネムリは1回も発言していない気がするが……。

 ちゃんと起きていて、会話を聞いていたらしい。


『ねえねえ、ニコちゃん、ヨミちゃん、聞いた聞いた? ナギサちゃんはネムリのことが一番好きだってさ』


『うわっ⁉︎ ネムネム⁉︎』


『起きとったんかい、ワレェ⁉︎』


『うん、ナギサちゃんがINした直後くらいに起きました』


 ネムリの復活により、タマキ&ヨミの口喧嘩もストップ。

 和気あいあいとしたムードに早変わりした。


『そっか、そっか。ネムネムが好きなのか』


『だったら、仕方ないな〜。困らせてごめんね、ナギサちゃん』


『いえいえ……』


 なんとか丸く収まった。

 さすが愛と平和のエンジェル、天使ネムリ。

 個性的なメンバーをまとめるのが上手である。


『じゃあ、メンバーもそろったし、ゲームしましょっか?』


 ネムリの提案に対して、3人の『は〜い』がシンクロした。


 今日のゲームは2対2で対戦するやつ。

 肝心のチーム分けはというと、

『ナギサ&ネムリ vs タマキ&ヨミ』

 に決まった。


『ナギサちゃん、このゲームは得意?』


 ネムリが後輩を気づかっている。


『いや〜、実はそんなに自信ないですが……ネムリン先輩の足を引っ張らないようがんばります!』


『うん、でも大丈夫、私がナギサちゃんを守るからさ。私の背中に隠れていなよ』


『うわぁ〜、先輩、メッチャ男前じゃないですか〜』


『配信中に寝るのには、訳があるのだよ。すべては集中力を高めて、ゲームに勝利するためさ。私が起きたからには、ナギサちゃんは死なせないよ』


 頼りになる先輩のセリフを耳にして、ナギサは嬉しそうに体をクネクネさせていた。

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