第17話

 まだ涼風ナギサのSNSは更新されない。

 毎回、これからライブ配信をはじめます、の通知が事前にあるのだが……。


 仕方ない。

 目を覚ましてくれると期待しよう。

 1人のファンにできるのは、最後まで見守ることだけ。


 アハハハハ、と急にタマキが笑い出した。

 どしたん? とヨミが小首をかしげている。


『ようやく、ナギサちゃんと電話できた。やっぱり、寝起きなんだけど。声がポワンポワンしている。幼稚園児みたい、あはは』


『あっはっは!』


『しゅみましぇ〜ん! ニコちゃんしぇんぱ〜い! てメチャ謝っている!』


『かわいいね。そんなに気にせんでええのに』


『ナギサちゃん、真面目なんだよな〜。初遅刻じゃないかな〜。とりあえず、配信はじめなよ。じゃないと、怒ったヨミ姫に食われちまうぜ』


『ちょっと、ニコちゃん! 私が後輩いびってるみたいな言い方、やめてよ!』


『あっはっは! ナギサちゃん、電話口ですごい怯えてる! えっ、えっ、えっ⁉︎ ヨミ姫先輩、キレてます⁉︎ だってさ〜!』


『キレてね〜よ! なんでだよ!』


『キレてるじゃん!』


『これはニコちゃんにキレてんだよ! この配信、7,000人くらいが観てんだぞ! まるで、ヨミが悪いやつみたいじゃないか!』


『あっはっは!』


『わ〜ら〜う〜な〜!』


『ヨミ姫も笑ってるじゃん!』


『くっくっく……私はいいんだよ』


 とりあえず、無事なようでひと安心。

 ナギサのSNSも更新されて、


『すみません、遅刻しました(汗)

 これから配信をスタートします!』


 ライブ配信ページのURLが飛んできた。


 よかった〜。

 優しい先輩たちで本当に助かった〜。


 全国のナギサファンたちも、タマキ&ヨミの素晴らしいフォローに感謝しているだろう。


『すみませ〜ん! お待たせしました〜!』


 ようやくナギサがIN。

 寝起きにつき、声の愛らしさが30%増しに。


『ロリ声だ!』

『かわいすぎるやろ〜』

『このボイス、発売してほしい!』


 たくさんのコメントが流れてくる。

 照れたナギサが、うふふ、と笑った。


『ナギサちゃん、いい夢を見ていたのかい?』


 さっそく水を向けたのはタマキ。


『あはははは……なんかですね〜、怖い夢を見ちゃいました』


『どんなん? どんなん?』


『配信中にですね、マイクがぶっ壊れて、予備のマイクに切り替えたら、そっちも壊れている、ていう夢です。いや〜、ホント夢の中でパニックになっちゃって……』


『うわっ、キツ〜! そりゃ、ホラーだな!』


『ニコちゃん先輩、起こしてくれて本当にありがとうございます。助かりました〜』


 ナギサがぺこぺこと頭を下げている。


『いいの、いいの。ヨミ姫がずっとカップ麺の話をしていたから。電気ケトルが小さくて、カップ焼きそばが食えないって』


『えっ⁉︎ えっ⁉︎ どういうことですか⁉︎』


『これは私の勝手な予想なんだけどさ、あいつ、旅行に持っていけるサイズの電気ケトルを、自宅用として利用してんじゃないかな〜。だって、450mlのケトルって、普通は売ってね〜べ』


『あはは、ヨミ姫先輩、かわいいですね』


『だろ〜。絶対、間違ってるよ』


 いったん離席していたヨミが戻ってくる。


『あ、ナギサちゃんだ。おはよう』


『おはようございます。本当にすみません』


『いえいえ、無事なようで何よりです。別に私は怒ってないんだけどさ、さっきニコちゃんが、ブツブツ文句をいっていて……』


『おい、こら、ヨミ、なに捏造ねつぞうしようとしてんだ?』


『寝坊したナギサちゃんには、罰ゲームが必要だよね〜、みたいな話を、ニコちゃんがしていたわけですよ〜』


『してないよ。生配信で後輩を困らせて遊ぶなよ』


『そこでね、ヨミが罰ゲームを考えました』


『………………はい』


 ニコニコ微笑んでいるヨミとは対照的に、表情をフリーズさせてしまうナギサ。


 大丈夫だろうか。

 寝起きのナギサの頭でちゃんと対処できるのか。


『ナギサちゃん、ヨミのこと好きだよね?』


『そうです。メチャクチャ好きです』


『ニコちゃんのことも好き?』


『はい、とっても好きです』


『じゃあさ、じゃあさ、ヨミとニコちゃんなら、どっちの方が好きなのかな?』


『えっ……』


 きた。

 究極の二択みたいなやつ。


 暴走しているヨミを、相方のタマキが止めるのかと思いきや、


『あ〜、それ、私も知りたいな〜。正直、ヨミ姫に負けてる気はしないんだけどな〜』


 がっつり便乗してきた。


 どうすんだ、ナギサちゃん。

 どちらの先輩を選んでも地雷っぽいぞ。

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