第6話
本家から戻ってくると、私はまた亮太郎の家へと入り浸ることが多くなった。矢野さんと美琴と4人で亮太郎の家で宅飲みすることも多かったし、色んな亮太郎の友達と仲良くなったからだ。
亮太郎の友達は総じて優しかった。私に手を出してくることは無かったし、私と美琴に分からないような話をすることもなかった。ちゃんと会話の輪の中に入れてくれて、つまんない時間が少しもなかった。
前より亮太郎との2人きりの時間は減ったけれど、私はそれが嫌じゃなかった。それだけ、亮太郎が私に気を許してくれていると感じていたし、私も嫌なことを考える暇もないくらい楽しい時間を過ごせているからだ。
今日も亮太郎の家で矢野さんと美琴の4人で遊ぶことになっている。夜ご飯を作らなきゃいけないから、私は自宅で樹と一緒にお昼ご飯を食べてから、亮太郎の家へと向かう途中でスーパーに立ち寄った。
外が暑かったからスーパーの中が涼しくて気持ちいい。たこパをしようという話になっていたため、私は普通のたこ焼きの材料と変わり種の材料を買った。デザート系として、ホットケーキミックスとチョコチップも買った。
荷物を抱えて亮太郎のアパートへと向かって、亮太郎に作ってもらった合鍵で鍵を開ける。その時だった。
「あれ?穂高?」
夏休みには聞き慣れない声が、私の苗字を呼んだ。まさかと思って振り向くと、そこには白いTシャツにジーンズという出で立ちをした西野っちが立っていた。
「え?西野っち?なんで?」
「いや。俺、このアパートに住んでるんだけど。」
苦笑いをする西野っちに、私はさらに目を丸くする。今までずっと入り浸っていた亮太郎の家だったけれど、一度も西野っちと遭遇しなかったことに驚きを隠せない。
「穂高は?なんでここに?」
「ここ彼氏の家なんだよね。」
「え……。」
私がそう答えると、西野っちも驚いた顔をしていた。なぜ驚いたのかは分からないけれど、ひょっとしたら亮太郎のことを見かけたことがあるからかもしれない。
「西野っちは?1階?」
「その部屋の隣だよ。」
「ええ?!?!」
西野っちの家が亮太郎の隣だと知り、私はさらに驚く。よくもまあ今まで出くわさなかったものだと思う。
「……このアパート、結構壁薄いから声とか気をつけろよ。」
「なにそれ。やらしーじゃん。」
「普通に注意喚起だわ。」
本当に亮太郎の家の隣だったらしく、西野っちはジーンズのポケットから鍵を取り出すと、亮太郎の隣の部屋のドアノブに差し込み、鍵を開けた。
「あ、そうだ。」
「なに?」
「電話番号の交換をしよ。」
「えっ。」
「なんかあったらかけてきなさい。」
「なんかあったらって?」
「んー。彼氏の浮気調査とか?」
「えーっ。なにそれー。」
私は笑いながら、西野っちと携帯の番号交換をした。亮太郎が浮気することはないとは思うけれど、隣の家に住む西野っちと番号交換をするのは、何かと便利かもしれないと思ったからだ。
「じゃ、またね。」
「ああ。」
その後、亮太郎が帰ってくるまでに私は下ごしらえをした。キャベツを切ったりたこを茹でたりするだけだけど、料理の苦手な私は人の倍は時間がかかる。料理を作るのは未だ苦手だけれど、切る・茹でる程度ならできるようになってきた。
亮太郎が帰って来て1時間もしないうちに、矢野さんと美琴もやってきた。2人は大量の飲み物と美味しいと評判のケーキ屋さんのケーキを買ってきてくれた。「ありがとうございます」とお礼を言うと、「いつも美琴が世話になってるから」とお礼を言われた。こういうところが大人だなあと思う。
たこパはすぐに始まった。わーきゃー言いながらたこ焼きを焼くのは本当に楽しい。夏だからたこパだと暑いかと思ったけれど、あつあつのたこ焼きは美味しかった。
「じゃあ今からお楽しみタイムです~。」
たこ焼きを十分に楽しんだ後で、私は変わり種の材料を準備した。納豆やキムチ、刺身、生クリーム、プリンだ。生クリームとプリンは「絶対美味しくないじゃん!」って美琴には文句を言われたけど、やってみるとやっぱり楽しくて美味しかった。
そもそも、小麦粉を使って作っている生地だから、生クリームやプリンも合うはずなのだ。だから、ホットケーキミックスで作ると、より美味しかった。
ケーキを食べる事には、だいぶお腹もふくれていたし酔いも回って来ていた。私はお酒に強いからほろ酔い程度だったけれど、美琴はもうへべれけになっていた。綺麗な顔の人が酔っぱらうとそれも可愛いと思う。
酔っぱらった美琴のデニムミニスカートから伸びる足を亮太郎が鼻の下を伸ばして見ていたため、矢野さんと美琴から見えないところで亮太郎の手の甲をつねっておいた。亮太郎からは抗議の視線を受けたけれど、私は笑って知らないふりをした。
その後はいつの間に寝たのか覚えていないけれど、はっと目を覚ますと私は床で寝ていた。辺りは暗く、まだ夜であることを認識する。でも、何時なのかが分からない。自分の携帯を探そうと身体を起こそうとしていると、クスクス笑い合うような男女の声がベッドの方から聞こえた。
「ねえ、ダメだって。起きちゃうよ。」
それはすぐに美琴の声だと分かった。いつもより甘ったるい声だ。
「いいじゃん。いつもやってんだからさ。」
美琴と喋っているらしい男の声は、矢野さんの声だった。2人のやりとりだけで、おっぱじめようとしていることはすぐに分かった。どうしよう。気まずい。
そして、いつもやってるんかいと、心の中でつっこみを入れざるを得なかった。亮太郎はどうしているのだろうかと2人にバレないように部屋の中を伺うと、私と同じように床に寝ている人影がある。私から1メートル離れた先だ。
このままやられたら嫌だと感じた私は、何も知らないふりをして勢いよく身体を起こした。そして、「トイレ~。」と言いながら、トイレへと行った。トイレから戻ってくると、ベッドにあった2人の影は、床へと移動していた。
よかった。そう思いながらベッドに寝そべったのも束の間だった。私が寝たと思ったのか、床の方から嬌声が漏れ聞こえてくる。結局やるんかい。もう気にせずに寝るしかないかと思って目を閉じると、唇に柔らかいものが触れた。
いつもの唇の感触に、私は黙ってそれを受け入れる。床の方からは相変わらず、美琴の甘い声が聞こえてくる。
友達の声を聞きながら接吻を交わすなんて狂っていると思う。だけどこの言いようのない興奮に私は抗えない。亮太郎の舌から伝わってくるテキーラの味が、私を酔わせているとでも言うのだろうか。
「俺たちもしよ。」
亮太郎はそう言いながら私の手を握り、それを張り詰めたデニムズボンの頂点へと導いた。いつもより苦しそうなそれは、デニム越しでも分かる。
私は承諾の合図の代わりに、自分から亮太郎の唇へと舌を寄せた。
その後はもう、部屋中に私たちの吐息が充満した。お互いの漏れ聞こえる音という音に胸が昂り、さらに鼓動を早くさせた。
買い置きのコンドームはいつの間にかなくなり、最後の方はセーフティーセックスじゃなくなっていた。
でも、それでいいと思っていた。だって亮太郎のことは大好きだし、亮太郎は社会人で私も結婚できる年齢だから、なにかあれば責任をとれると思った。
だから、セーフティーセックスなんかに拘るよりも、もっともっと亮太郎を感じたいと思ったのだ。
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