後輩は王子様
■■■
_文化祭の準備も少しづつ進んで、ついに体育館で通しの練習をすることになった。
私が体育館に行くと、既に大道具係の子達がステージの上にセットを用意してくれていた。
「うわー!すごーい!」
セットは背景が描かれた布を上から吊り下げる形で作られていて、それがカーテンのように開くことでまた後ろの背景の布が現れて_という造りになっているようだ。
「じゃあ、練習始めようか!」
関さんの一声で、全員それぞれの持ち場につく。
_通しの練習が始まり、例のラストシーンが近づいた。
あたしの目の前に跪いたユキが、あたしの手をそっととる。
「シンデレラ_」
「上っっ!!危ないっっ!!」
え!?
バッと視線を上にやると、あたし達目掛けて背景の布が落下してきていて_
_あたしは咄嗟にしゃがんで目を瞑り、両腕で頭を覆った。
…?あれ…?何も感じないぞ?
「も、もっちー!?」
「…大丈夫ですか、先輩」
ユキが、あたしを庇って布を受け止めてくれていた。
っていうか、ちち近い!!!
「もっちーの方が大丈夫!?重くない!?」
「軽くはないですけど…布なのでまだ耐えられます」
先輩が、無事でよかった。
そう言って安心したように笑ったユキに、心がきゅっと締め付けられた。
「二人とも本当にごめん!!大丈夫!?」
駆け寄ってきた大道具係の子達がユキに覆い被さった布をどかしてくれて、あたし達はようやく布から開放された。
「あ、うん!もっちーが庇ってくれたから…」
「マジでごめんね望岡さん!保健室行く!?」
「いや、大丈夫」
焦った様子の大道具係の子が、心配の言葉をかけながらユキの腕に触れた。
その様子に、私の胸に得体の知れないモヤモヤが広がる。
「この布、ちょっと直してくるね!背景無しで練習再開してくれちゃっていいから!」
「うん、了解」
「はーい」
本当にごめんね!というセリフを残して、大道具係の子達は布を持ってパタパタと走っていった。舞台にポツンと残された、ユキとあたし。
「あ、あの、もっちー…」
「はい?」
さっきのお礼を、ちゃんと言わなくちゃ。
あたしは小さく深呼吸をして、ユキのことを真っ直ぐ見つめた。
「ありがとう」
改めてお礼をいうのは、何だか照れくさい。
思わず視線を逸らすと、ユキがふふっと笑った。
「な、なんで笑うのー!」
「すみません、しおらしい先輩が珍しくて」
「もう!」
肩を小さく震わせながら笑っていたユキが、あたしの方に改めて向き直った。
真剣な表情に、ドキッと胸が跳ねる。
「先輩のためなら、これ位どうってことないです」
「だから気にしないでください」
「へ…」
驚いてその場に立ち尽くすあたしの横を通り抜け、ユキが舞台下にいる関さん達の方に小走りで向かっていく。
「関さん、こっちは練習再開して問題ないよ」
「あ、本当に?そしたら始めようか。桜野さーん!準備出来てるー!?」
舞台の下から聞こえた関さんの声に、ハッと意識が引き戻された。
「う、うん!」
…どうしよう。
この赤くなった頬をすぐに冷まさないと、練習に支障が出てしまう…。
■■■
文化祭準備も佳境に入り、衣装が完成したと係の子から連絡が入った。
昼休みに衣装合わせをすることになり、あたしは係の子から衣装を手渡された。
「これ、あたえちゃんの衣装!更衣室で着替えてね。終わったら教室に戻ってきて」
「わかった。ありがとう」
下の階の更衣室で衣装に着替え、壁に掛かった鏡の前でくるりと一回りしてみる。
ドレスは小さい頃に絵本で読んだ「シンデレラ」そのもので、よく出来ているなと感心してしまう。あたしは不器用だから、裁縫とか絶対無理だな…。
教室に戻り、扉をガラッと開ける。
「着れたよー…、」
「わー!!!キレー!!!」
!?
教室に居たクラスの皆と係の子が、キャーキャーとあたしの周りに集まってくる。
「めっちゃ似合ってるよー!」
「あ、ありがとう…」
キラキラした笑顔で褒めてくれる皆に照れ臭さを感じつつも、やっぱり嬉しい。
というか、安心した。これで全然似合ってなかったら、教室の空気は凍っていただろう。
「ねぇ、望岡さん!王子から見てどう?」
「へ!?」
えぇ、ユキに聞くの!?
少し離れたところにいたユキに、衣装係の子が話しかける。
ユキは昔からあまり服とか興味なさそうだったし、意見聞かれても困るんじゃ…。
「…いいんじゃないですか」
ユキはフイッと顔を逸らし、それだけ一つ呟いた。
「だよねー!あとは細かいとこだけチェックすれば良さそうかな」
あれ?ユキ、なんか機嫌悪い?
いつもと様子の違うユキが気になりつつも、係の子が衣装を点検し始めたから、あたしはその場から動けなくなってしまった。
「んー…と、ここだけちょっと直せば大丈夫っぽい」
真剣な瞳で衣装に向き合う、係の子。
「うん、オッケー!いやー、あたえちゃん本当に似合ってるよ!」
「ありがと」
「頑張って作ってよかったなぁ。劇、楽しみにしてるね!」
「…うん」
係の子の満面の笑顔に、背筋が伸びるような思いがした。
あたしも、もっと頑張らなきゃ。皆の努力に見合うようなものを作らなくちゃいけない。
気合をもう一度入れ直すため、あたしは自分の頬を両手で挟むようにパンと弾いた。
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