偶然の出会いと先輩の過去
■■■
_先輩の家でご飯を食べた、翌日。今日から夏休みだ。
先輩と夏祭りに行くことになったはいいものの、自分がろくな私服を持っていないことに気づいた私は、近所のショッピングモールに来ていた。
先輩は当日は何を着てくるんだろう。やっぱり浴衣かな。それとも、女子同士のお祭りでそんなに気合いは入れてこないだろうか。
えーと、私の年代のブランドが入ってる階は…
入り口すぐの案内板の前で私がパンフレットを見ていると、横から声を掛けられた。
「ねぇ、ユキだよね?」
「…え」
声の主の方を見ると、同い年くらいの女子が立っていた。
「あたしあたし!ちょっ、もしかして忘れた!?」
「っ…あぁ、田中先輩」
パッと見誰かわからなかったが、思い出した。中学の吹奏楽部の先輩だ。あたえ先輩と同じ学年だったはず。
「まぁ、しょーがないか。メイクしてカラコンして髪染めて、しかも私服だしね」
「…すみません」
「ちょ、そんなにガチで謝らなくていいって!」
メイクしてカラコンして髪染めて_同じ様なセリフをこの前あたえ先輩から聞いたことを思い出して、私の表情は暗くなっていたらしい。
「ってかさ、ユキって森女?」
「あぁ、そうです」
森女、というのはうちの高校の略称だ。正しくは、森ノ宮女子高校。
私が返事をすると、先輩は口横に手を当て、内緒話をするかの様な姿勢になった。
「ねぇ…あたえが森女に編入したってホント?」
「え…あ、まぁ……はい」
一瞬躊躇ったが、あたえ先輩が留年生であることを隠していないことを思い出し、一応肯定した。
「そっか…いや、あたえには女子校が合ってると思ってたんだよね〜」
「そうなんですか?」
うんうん、と自分の言葉に頷く田中先輩。
「あの子、中3のクラスの男子に色々言われてたみたいでさ…。派手な男子が中心になってたから、女子もそれに同調しちゃってたっぽくて」
「そう…だったんですか…」
「あたしは違うクラスだったから、何となく知ってるだけなんだけどね。部活だとあたえ何も言わないから、あたし達も深く聞かなかったし」
全然知らなかった。あたえ先輩が普段クラスでどんな様子だったかなんて、本当に何も知らない。
「だから高校もさ、同じようなことがあったのかなって。女子校で新しいスタート切れたなら、よかったなぁと思ったんだよ」
「…はい…」
「急に声かけてごめん!またね」
「はい…」
走り去っていった田中先輩の背中を見ながら、私は放心状態だった。
初めて知った、先輩の過去。私の知らない、先輩の傷。
ただこれを聞いただけだったら、「所詮過去のことだ。今の先輩とは関係ない」と私も思えただろう。
でも、もしも…まだ、その傷が先輩の中で癒えていないとしたら?
一緒に映画を見に行ったあの日を思い出す。自分の容姿を卑下していた先輩の姿が、脳裏に焼き付いて離れない。
私と会う時には、いつも笑顔だった先輩は_
_一体、どれほどの傷を抱えていたんだろうか。
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