第9話 香りと匂い
この本たちの地図を、最終的には片付けなければならないことは理解できたが、どうやって整理してよいのかもわからない。中には雑誌を「読みかけで裏返している」ようなものもあり、勝手にやってはいけないような気がした。
以前テレビで聞いたことがある。ある学者の奥様が良かれと思って、ご主人の書斎を整理したら、旦那様の方は感謝以上に「資料が何処に行ったか分からない」状態になり困ったという。この本の数、種類の多さは私が勝手にどうのこうのできるものではない。
「あれ、何だかいい香りがする、ジャスミン? でも食べ物の匂いもするような」
丁度宮殿の真ん中あたりから、先の方に大きな木の扉が見えた。石の宮殿にふさわしいような、細かく模様が彫られている立派なものの様だった。
「扉の奥からするみたい、そうか彼女達って言っていたわよね、きっと何人かが住んでいるんでしょう、ハーレムみたいに」
私はとにかく、カエルのようにジャンプしながらこの本の大陸をゆっくり進んだが、
「あ! 掃除道具も持って行かなきゃいけない! 」
結局元の扉の方向へと戻ったが、私の入った扉はキレイな造りをしているけれど、簡素なものだった。ちょっと不満らしきものも感じながらも、掃除用具の所にたどり着くと、私はハッと思い出した。
「そう、これは本当に本当におこっている不思議な事なんだわ、だったら夫も生き返らせてくれるのかもしれない、この本の山も、その下にあるたくさんの埃も掃除するくらいで、その望みをかなえてくれるのなら・・・こんなに簡単なことはないわ! 」
ガチャガチャという音を立てながら、私はもう一度子供の頃の遊びのようにジャンプしながら進んだ。
「わあ・・・綺麗な木の扉・・・・・」
深く掘られた唐草模様はとても美しかったが、その深みにはしっかりと埃がたまっている。そしてこの扉の向こうに誰かがいて、きっとココアを飲んでいるのであろうとまでわかった。
「とにかくノックしたらいいかな、あ!これノック用の金具だ」
外国の扉に中央部ある、ライオンが輪を咥えたような確かドアノッカーと言ったと思う。だがこれは鳥がくわえているものだった。しかもその鳥がリアリティーのあるものではなくて、ちょっと可愛いくらいにデフォルメされたものだった。
後で知ったが、それはエジプトの神「ホルス」だったらしい。
私はとにかく掃除用具は扉の横に置き、初めてドアノッカーというものをゆっくり、コンコンと鳴らしてみた。
「どう ぞ」
扉の向こうから、女性の声がしたので、私はまたゆっくりと、わくわくした気持ちで扉を開けた。
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