第82話 乙女じゃなきゃ、ダメなんじゃないのぉ!?

 とある日の夜のこと……

 ぼくのお部屋に、アイナママとルシアママ、そしてアプリルさんが来てる。

 え? これからアプリルさんもいっしょに【レッスン】するのかって?

 ちがうからね!?


「ではクリス、始めてくれ」

「うぅ、はい」


 ぼくはルシアママたち3人の前で、覚悟をキメて──


「【シュミンケ】!」


 ぱぁぁぁっ


「うっ!?」


 お部屋の中が光で溢れて、ぼくのカラダがハダカになって、虹色に光った。

 そのままぼくのカラダはくるくる回り、そしてパンツ──

 かなりキワどいヒモパンから、リボンのような布が吹き出す。

 そしてその布が、ぼくにカラダを包み込んで──


「セーラーコス☆美少女戦士! エルフィー・ノーム♡」

「土にかわってぇ……天罰、落としますっ♪」


 きゅぴーん☆


「あぁっ やっぱりぃぃぃ!?」


 ぼくのその姿は……布面積の少ない、キワどいビキニの上下。

 そしてセーラー服っぽい、リボン付きの襟と超ミニのスカート。

 さらには長手袋と長靴下という……

 いわゆる【えろえろ系コスプレイヤー】みたいな格好をしてるんだ!?


「うぅっ なんでぇ!? ぼく……男のコなのにぃ!?」

「おぉっ まさかまだ装備できるとは」

「ええ……アプリルさんの時は魂が女性でしたので、それでかと思いましたが」


 だから身も心も男のコに戻ったぼくなら、もう変身できないはず。

 そうアイナママたちとお話してたんだけど……

 ともかく実験してみようって、レイナちゃんにナイショで集まってたんだ。

 けど──


「やりましたね、クリスくんっ」

「これでまた【エルフィーチーム】続行です♪」

「そ、そうなのぉ!?」


 そう、その装備はエルフの森の【大宮司】──

 人族でいうところの【神殿】の【教皇】のおうちに伝わる【姫巫女の戦装束】、

 天の神、ミヤビさまの神託によって【英雄級】の精霊魔法が使えるんだ。


(もちろんこの【エルフィー・ノーム】のチカラは……)

(【6体の魔物】を封印するのにすっごく役立ったけど!?)


 そんなぼくがワナワナしてると……


「ふむ……クリス、魔法はどうだ?」

「うぅ あ、はいぃ」

「ええと……来たれ【黒砂】」


 ブワッ!!


 ぼくがそう命じると……大量の黒い砂が、お部屋の宙に現れた!?


「あぁっ 召喚できちゃったよぉ!?」

「クリス? お部屋を汚さないように、それを戻しましょうね?」

「あ、はいぃぃっ!?」


 フッ──


 きれい好きのアイナママが、ほっぺをぴくぴくさせてそういった。

 こんなのお部屋に落としたら、お掃除がたいへんだもんね?


「【姫巫女の従者】って、【乙女しょじょ】じゃなきゃダメなんじゃないのぉ!?」


 だから、アイナママやルシアママは除外されてたのに~


(っていうかぼくだって【純潔どうてい】じゃないのに!)

(もう基準がガバガバだよぉ!?)


 そんなふうにぼくがナミダしていると……


「これはわたしの推論なのですが……」

「ほう? どう思うのだ? アイナ」

「クリスは先日まで、アプリルさんの姿でした」

「そして元の身体に戻る為に、まずはアプリルさんになりきる必要がありました」

「ああ、そうだったな」

「その結果、クリスはアプリルさんの仕草や口調をほぼマスターし……」

「元の姿に戻った今も、その女性らしい仕草と思考が抜けないのでは?」

「がーんっ!?」


 そ、そんな……バカなぁ!?


「ああ、それはありえるな」

「ええ……クリスくん、最近すっごく仕草がかわいくて♡」

「そうなの!?」

「元々クリスは仕草が上品でしたからね」

「アプリルさんのそれを習得して、さらに磨きがかかったのでしょう♪」

「ちょ!? アイナママっ なんで嬉しそうなのぉ!?」

「だってママ……粗暴なクリスなんて見たくないですし?」

「ああ、激しく同意だな」

「クリスくんは……かわいい方がいいですっ♡」

「ちょっとぉ!?」


 そんなわけでぼくは、引き続き【エルフィー・ノーム】をすることになり……

 普段からこの【変身ヒモパン】をはき続けることを、約束させられたのでした。


「ぼく、男のコなのにぃ!?」


 ◇◆◆◇


「ふーむ……飛行魔法の相乗効果か……」

「いやいや、考えたこともなかったな」

「えへへ♪」


 ぼくは今、アイナママとルシアママの3人で、一緒にお空を飛んでいます。

 そしてアプリルさんと実験した【ふたりで一緒に風魔法を使う】という方法を、

 ルシアママに報告してたんだ♪


「ふたりいっしょに風精霊魔法を使ったら、速さもすごくなったし?」

「ぼくらだと、ひとりじゃムリだったアイナママも運べたんだよぉ♪」

「こほん! ともあれ、3人で何度か空を飛んだのは事実ですよ? ルシア」

「ふむ……ではクリス、私との相乗効果も試してみようではないか♪」

「あ、いいよ? じゃあ……」


 ぼくらの周囲にはすでにたくさんの【風の精霊】さんたちがいるけど……


『∩(´∀`∩) ワショ──イ!!』


 そんな精霊さんたちの声が、ぼくにも聞こえてきたんだ。


「おぉ……これはすごいな」

「そうなの?」

「ああ、精霊たちが大喜びしているぞ? ふむ、例えるなら──

「熟練の大物吟遊詩人と、新人の売れっ子が同じ舞台に立ち……」

「その両方を応援していた愛好家が、それを見て狂喜乱舞している様だ」

「そ、そうなんだ?」


 なんだか……アイドルのコラボユニットの追っかけみたいな?


「うむ、なにやら……」

『キタ━━━━(゚∀゚)━━━━━!!』

「……などと言っているな」

「うわぁ」


 いま精霊さんたちのなかで『祭り』が起きちゃってるっぽい?


「ともかく……これ以上の速度は不要ですよ?」

「すでにお茶を飲むほどの時間も、かかっていないのですから」

「ああ、そうだなw」


 ルシアママがビキニを装備することで、ぼくら2人を一緒に運んでも?

 そのスピードは時速100キロを簡単に超えちゃう。

 そしてアイナママがお空を飛ぶのに慣れてきたから、

 最近はおうちから街まで10分かかってないんだ。


「むしろテーブルと椅子を一緒に飛ばして、本当に茶が飲めそうだなw」

「ええ……クリスの【収納魔法】がありますからね」

「あなた達がそれをしても、わたしは驚きませんよ」

「ははっ 違いないw」


 そんなことを話している間に、もうケストレルの街が見えてきた。

 ホント……街が近くなっちゃったなぁ♪


 ◇◆◆◇


「こ、これを……わたしが装備するのですか?」

「ええ、アイナさん」


 そんなアイナママとお話してるのは、アルタムさん。

 ぼくらはアプリルさんのお店にやってきています♪

 そして……なにをしにきたかというと~


「で、ですがこれはあまりにも……」

「お言葉ですが……アイナさんは先日のレベルアップで、【レベル57】です」

「それで今までのビキニが【強制排除】されたということは……」

「もはやコレくらいの布面積でないと、装備できないかと」


 うん……アプリルさんがアイナママに差し出したそのビキニは──

 デザインこそ同じだけど、布面積が3/4くらいに減ってたんだ。


(あれ、お尻なんてもうヒモしかないよね?)

(おっぱいも、南半球が丸出しみたいだし♡)


 そして、それは同じくレベルアップしたルシアママも一緒で~


「い、いや……これはさすがに……」

(うわぁ♡)


 もともと【超エアロモデル】っていわれてたルシアママのビキニは、

 もうブラは1/2、ショーツに至っては1/3くらいしか覆っていなかった……


「ルシア様、お似合いですよ♡」

「そ、そうか? しかし……これでは、はみ出してしまうのでは……?」

(な、なにがはみ出しちゃうのぉ!?)


 だけど、アルタムさんは落ち着いてて?


「あ、いえ……なぜかビキニアーマーは、はみ出さないんですよ」

「……そうなのか?」

「ええ、そりゃぁ破れたりすれば別ですが……」

「おそらくそれも【神託】の一部らしくて、絶対にはみ出しません」


 それって……絶対にミヤビさまの【シュミ】だよね?


『全てを見せると、むしろ飽きられやすい……ゆえに、ふぇちずむ大事……と♡』


 な~んてコトいってたし?


「な、ならいいのだが……さすがの私もこれは……」

「ええ……わたしも──」

「いえ! アイナ様やルシア様は……女性冒険者の希望なんです!」

「「は?」」

「実際……年齢を気にしてビキニアーマーの装備を止めたり……」

「中にはそれを気に病んで、冒険者を引退してしまった女性も多かったんです」

「しかし! アイナ様とルシア様のそのお姿を見て……」

「勇気づけられた女性冒険者たちがどんなに多いことか!」

「そ、そう……なのですか?」


 あー、この世界のビキニアーマーって……

 高レベル冒険者ほど、ビキニの面積が小さくなるっていう制限があるし?

 さらには、ビキニアーマーを装備するのは20代前半までの【若い女性】っていう

 いわゆる【暗黙の了解】があるんだよねぇ。


「ですから今、アイナ様とルシア様に憧れて……」

「またビキニアーマーを装備しは始めた中堅女性冒険者が、すごく増えたんです!」

「なんと……そんな事が」

「ええ、先日アマーリエさんとも話したんですが……」

「その死亡者数や重症者数もぐっと減ったそうです」

「ですから今っ アイナ様たちがビキニアーマーの装備を止めたりしたら──」


 そ、それって……まずくない?

 なんて感じでぼくがアイナママたちを見たら──


「わ、判りました……試着、してきます……」

「あ、ああ……そうだな」

「アルタム、私は【カニンヒェン】のぶんの装備も頼む」

「承知しました♪」


 な~んて……すっごく嬉しそうなアルタムさん。

 って、【カニンヒェン】の装備、やっぱりアルタムさんの用意だったんですね?


(しかももう、ルシアママも隠す気ないしなぁ──あれ?)


 カララン……


 そのとき、ドアを開けてお店に入ってきたのは……


「あっ クラウさん♪」

「やぁ、君はクリス君じゃないか、久しぶりだね」


 それは冒険者のクラウさんだったんだ。

 クラウさんはパーティーを組まない【ソロ冒険者】で……

 そのレベルの高さは、アイナママたちに次ぐ高レベル冒険者なんだ♪


「クラウさんはいままでおでかけだったんですか?」

「ああ……受けた討伐依頼、が思いのほか手間取ってしまってね」

「予定以上に街を離れるハメになってしまったよ」

「あ、ということは……」

「ああ、無事に達成して、今はギルドに寄った帰りさ」

「それはお疲れさまでした♪」

「ああ、ありがとう……」

「ふふ、いやぁ……思いのほか、いいものだね」

「え、なにがですか?」

「いや……こうして依頼を達成し、ねぎらいの言葉を受ける……」

「ギルドの受付嬢以外には、なかなか言ってもらえないセリフでね」

「あー」


 冒険者は、なかばチンピラっぽいひとも多いから?

 街のひとたちからは【腫れ物扱い】されちゃうことも多いんだ。

 もちろん魔物を討伐してるから、感謝してるひとも多いんだけど……


「だったら、ぼくでよかったらいつでもいってあげますよぉ?」

「だってぼく、クラウさんのファンですから♪」

「ふふ、それは光栄だね」

「えへへ♪」


 なーんて、ぼくとクラウさんがお話してると……


「く、クリス!」

「い、今の【ファン】というのは……どういう意味なのだ!?」

「あ、アイナママ、ルシアママ」

「ああ、お二方のお噂はかねがね……」

「私はソロ冒険者のクラウと申す者……以後お見知りおきを」

「そ、そうなのか? クリス」

「あ、うん♪ クラウさんってスゴいんだよ?」

「だからぼく、クラウさんに憧れてて~♪」

「なっ!?」

「ええっ!?」

「ん? どうしたの? アイナママにルシアママまで」


 ぼくがそういったら、なんだかふたりとも固まっちゃって~


「ふふ、では私はこれで……」

「あ……」

「ではクリスくん、またどこかで」

「あ、はい♪ クラウさんも」


 そういって、クラウさんはお店の奥の方へ行ったんだけど……


「く、クリス! なんなのだ、今の女は!」

「え、ええ……いくらなんでもあの歳では──」

「え? なにいってるの?」

「だがな、アレはさすがに歳が行き過ぎだろう!」

「ええ……見た所、わたしとさほど違わなそうですし……」

「え?」


 ええと……ママたち?

 まさかぼくが、クラウさんを【女性】として憧れちゃってると思ってる?


「もー ぼくはお話ししてただけなのにぃ」

「ママたち、おとなげない(ぼそ」

「「がーん!?」」


 なんてぼくのひとことで……

 ママたちはショックを受けちゃったみたい?


「もぉ……なんだかなぁ」

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