第64話 かわいい、女のコ生活

「アイナママー、おはよ~」

「ぎょっ!?」


 その日の朝、ぼくが台所に行くと、そこには──


「うぅぅ……か、感動ですぅぅっ!! アイナさぁぁんっ」

「ええ、神はきっと我らを救って下さる……わたしはそう、信じておりました」


 なんて感じで……

 アイナママとアプリルさんが抱きあって、大泣きしちゃってたから!?


「ど、どうしたの!? アイナママ!」

「あぁクリス、喜んでくださいっ 実はわたしたちにゆうべ……」

「神から神託があったのです!」

「あ、そうなんだ?」


 ふう……よかった♪

 ミヤビさま、ちゃんと約束どおりアイナママに、神託してくれたみたい。

 それと、アプリルさんにもしてくれたんだ?


「ええ、しかも神はアプリルさんとクリスが魔族に襲われ……」

「その身体を入れ替えられてしまったことを、たいへんお嘆きでした」

「しかもっ 私の様な若輩者に、神託を授けてくださるなんて……あぁ」

「いえ、きっと神はエルフの姫巫女である貴女を想い、授けてくれたのでしょう」

「そ、そんなことっ 私……神託を授かるのは初めてで……」

「きっと【救国の英雄】である【聖女】、アイナさんだからこそですよ!」

「まぁ、アプリルさんったら♪」

「でも……神はわたしたちを、見守ってくだささっていたのですね」

「はいっ 私……巫女として生まれて、本当によかったです♪」

(おぉぉ……)


 そ、そっか……

 アイナママやアプリルさんにとっての神託って、ホントにすごいことなんだ。

 しかもこんなスポットな神託なんて、もしかしたら初めてだったりして?


「わ、わぁぁ♪ ホントに? ぼくうれしいー(棒)」

「ええ……安心していいのよ? クリス♡」

「そして神は、授けてくださったのです」

「クリスとアプリルさん……この二人を元に戻す神聖魔法を!」

「うわー、すごいやー(棒)」


 うぅ……ぼくにはもう判ってたことだし?

 しかもその神さまがミヤビさまだから──あ、そうだ。


「アイナママ? その信託を授けてくれたのって、どの神様なの?」

「ええ、それは【ミヤビ】さまよ♪」

「確か……クリス? あなたは主神として崇めていたわね?」

「もしかしたらその信心が、あなたを救ってくださったのかもしれないわ♪」

「う、うん……」


 うぅっ アイナママたちの信仰心がまぶしいっ

 ぼくにとってのミヤビさまって……

 露出と下ネタが大好きな、ちょっとMっぽいお姉さんのイメージが強くて~


(はっ!? でもまさか……ミヤビさまいつもの格好で?)

「み、ミヤビさまっ どんなお姿だったの~?」

「ええ、わたしにはそのお顔しか見えなかったけれど……」

「はいっ 私もです!」

「その慈愛に満ちたご尊顔は、神殿の肖像画以上にお美しいお方でしたよ♪」

「はいっ 私……あんなお美しい方、初めてですっ」

「あー」


 ミヤビさま? わざとお顔だけ見えるようにしてましたね?

 っていうか? なんだかリモート会議で、上半身しかスーツ着てない人みたい~


「ふあぁぁぁ、アイナ……レイナに急ぎ起こされたが、なにがあったのだ?」

「ああルシアっ 喜んでください、クリスとアプリルさんが元に戻れそうです」

「なんと……それは目が覚めたな」


 ◇◆◆◇


「──というのが、わたしとアプリルさんにもたらされた神託になります」

「ふむ……もとに戻る呪文を授かったはいいが、しばらくはお預け……か」


 ミヤビさま、ゆうべぼくにおはなししてくれたこと、伝えてくれたみたい♪

 そしてその内容も、ほぼ同じだったんだ~


「ええ……ですが、クリスたちの魂が抜け出るようになっては……」

「【抜けグセ】か……なら多少時間はかかっても、その方が遥かにマシだな」

「ええ……クリス? 今のママの説明で、きちんと理解できたかしら?」

「あ、うん……これからしばらくのあいだ、ぼくはアプリルさん」

「アプリルさんはぼくになりきって、生活するんだよね?」

「ええ、正確には互いに【今の身体に違和感を抱かない様になる努力】ですね」

「ええと……じゃあ【早くもとに戻りたい】とか思っちゃダメってこと?」

「そうですね……あと、あなたがいつも口癖にしている──」


 それを聞いたルシアママが、ニンマリ笑って──


「ああ『ぼくっ 男のコなんだからねっ!』というヤツだな?」

「ええ、それに『かわいいっていわないで!』も、そうですね」

「そうなの!?」

「それはそうだろう? クリスは今女子で、とびきり可愛い♡」

「も、もぉっ ルシアさまたらっ(ぽぉっ♡)」


 アプリルさんが、ぼくのカラダでほっぺを真っ赤にして、イヤイヤをしてる。

 それ、女のコっぽいからやめてほしいなぁ


「ええ……そうですね。クリス? そこに反論はありますか?」

「うぅ、ないですぅ」

「でしたら、することはもう判っていますね?」

「はい……アプリルさんみたいな、かわいい女のコとして生活しますぅ」

「よろしい、そしてどちらかというと……」

「クリス? あなたの方が難易度が高いのですよ?」

「そうなの?」

「あー、クリスはなぁ……元より女子っぽいのだ」

「がーんっ!?」

「もちろん、クリスが男らしくありたいと努力しているのは知っていますよ?」

「むしろその聡さ、行儀の良さ、生真面目さなどは……」

「あなたが誇るべき【美点】と言えるでしょう」

「だがなぁ……クリス?」

「世間一般でいう、クリスと同じ年頃の少年はな?」

「しょ、少年は?」

「もっとバカで無鉄砲な、ガサツなガキだぞ?」

「ヒドっ!?」


 そ、それはまぁ?

 ぼくは転生してるから?

 日本人で高校生の記憶とか、もってるからかもだけど?


「いえっ それはクリスくんをお育てになった、アイナさんとルシアさま」

「【子は親の鏡】といいますし、その賜物かとっ」

「ふふ、嬉しい事をいってくれるではないか、アプリル?」

「ええ……あぁ、アプリルさん? お茶のおかわりをどうぞ♪」

「はいっ ありがとうございます♪」

(おぉう)


 そんなアプリルさんのセリフに、すっごく嬉しそうなママたち。

 アプリルさん、エルフの森じゃアイドル扱いだってきいたけど……

 ホントこの性格なら、みんなに慕われてるんだろうなぁ


「こほん、おそらくアプリルさんがクリスを真似て生活するのは……」

「さほど難しいことではないでしょう」

「ああ、むしろ『かわいいっていわないでよぉ!?』というツッコミ……」

「ええ、それを言わず……逆にお礼を言いそうですね」

「というか、それくらいしか問題点が思いつきません」

「そうなの!?」


 そ、そこくらいしかぼくって、男のコらしい要素ないの!?


「そしてクリス? あなたはむしろそこが最大の懸念です」

「え?」

「あなたは日頃から【男らしくありたい】そう思っていますからね」

「そうだな……そこを一切忘れ、淑女になりきる……どうかな?」

「うぅ、自信ないかも~」

「ふう、やはりそうなりますね……」

「では……レイナ? ちょっとこっちへ来てちょうだい?」


 するとアイナママは、お掃除をしてたレイナちゃんに声をかけたんだ。


「なーに? ママ」

「あなたに、重大な使命を与えます」

「な、なによ、それぇ?」

「ゆうべ、アプリルさんとクリスが、入れ替わっていることを話しましたね?」

「うん……信じられないけど、そうなのよね」


 もちろんレイナちゃんも、最初はぜんぜん信じてくれなかったから……

 ぼくとレイナちゃんのふたりきりで、ふたりしか知らないことを当てまくった。

 そしたらなんとか信じてもらえたんだけど~


「今日の午前中のお仕事をすべて免除しますから──」

「ホント? やったぁ♪」

「その代わり、アプリルさんに村を案内してあげてください」

「あー、そんなのお安いご用よ♪ さ、いきましょ? アプリルさ──」

「ただし、2つ守ってほしいことがあります」

「ひとつは……村人には決して事情を話さず、あくまでクリスとして接すること」

「うん……それはゆうべも聞いたわ」


 レイナちゃんはぼくたちの家族だからお話したけど……

 それ以外のひとたちには、できるだけヒミツにしないとね?


「ふたつめは、アプリルさんにクリスらしく振る舞えるよう、指導してください」

「クリスらしく、しどう?」

「ええ、村人たちにクリスではないと、知られないように」

「あー、それもそうよね? わかったわ」

「頼みますよ? レイナ♪」

「ああ、レイナがいちばんクリスの事を知っているからな♪」

「も、もぉ♡ ルシアママったらぁ♡」

「じゃあ行くわよ? アプリルさ──じゃなかった、クリス」

「あ、はいっ よろしくおねがいしますっ」

「違うわっ そこは『うん、わかったよレイナちゃん』よ!」

「う……うん、わかったよレイナちゃん♪」

「うふふ、その調子その調子♪ じゃあママ、いってくるね~」


 レイナちゃんがアプリルさんの手を引いて、お外へ駆けてく。

 それを見て、ルシアママがクスクスわらった。


「ははっ なるほど、あれは上手い手だな」

「ああして一日二日、レイナと一緒に居させればアプリルも……」

「あっという間にクリスになりきれそうだ♪」

「ええ、彼女はそれで良いでしょう……ですが」

「ああ……クリスだな」


 そんなふうにぼくを見るママたちだけど……


「クリス? あなたはゆうべと今日……」

「アプリルさんの、話し方や振る舞いを見ていたわね?」

「それを真似られるかしら?」

「も、モノマネだけなら……なんとか?」

「だけど【女の子になりきる】ということはできるかしら?

「ええと……」

「あなたは人から可愛いと言われたり、女の子みたいだと言われると……」

「いつも、とても嫌がっていたでしょう?」

「うぅ……はい」」

「だからそこを……ママたちで荒療治します」

「あらりょうじ?」


 するとアイナママは、こほんとせきをして……


「実はルシア……アプリルさんには話していない問題が」

「ほう?」

「問題は3つあります」」

「意外と多いな……では、気こうか?」

「ひとつは……クリスとわたしたちの【レッスン】の件です」

「むぅ……それか」

「とはいえ、ここは中断するしか無いだろう」

「まさかクリスの姿のアプリルと、ソレをするわけにもいくまい」


 そう……なんだよねぇ

 きのうはなんだかドタバタしてたから?

 ぼくもひとりでおやすみしちゃったけど……

 このところ、ずっとどちらかのママと【レッスン】してたから?

 すっごく残念というか~


「ええ、それは同感です」

「そしてふたつめが……神託には、わたしにだけ伝えられたことがあるのです」

「ほほう?」

「それは……今回の件、クリスは女性として、アプリルさんは男性として……」

「いわゆる【性的に達する】ことが、性別の相違による違和感を無くしやすいと」

「んなっ!?」

「ほう……なるほどな」

「クリスに、いわゆる【女の悦び】を覚えさせるということか」

「ええ、それはアプリルさんも……ですが」


 な、なな……ミヤビさまっ いったいなにを──


「ふむ……そう言われれば、例の娼婦の身体になった元高官だが」

「その者の【魂】が、抜け出ることがなかったのは……」

「案外そのあたりを受け入れ、むしろ楽しんでいたのかもしれぬな」

「そう……でしょうか」

「逆に、捨て鉢になっていたのやもしれぬがなw」


 ちらりと、横目でぼくを見るルシアママ。

 ぼ、ぼくはアプリルさんのカラダ、まださわってすらいないんだけど!?


「みっつめは……ふたつめに伴うことです」

「その、クリスとアプリルさんの【異性の身体でのレッスン】ですが……」

「ルシアはどう、考えますか?」

「そうだな……期間限定と割り切れば、それもまた良き体験となるやもしれぬな」

「ええ……むしろ異性の身体を自ら体験することで、理解が深まるのでは?」

「ふむ、そういえばそうだな」

「ちょっ!?」


 な……なんだかとんでもないお話が、かってに進んじゃってない!?


「だ、ダメだよっ」

「このカラダはアプリルさんのモノだしっ」

「それにぼくだって……いくらぼくのカラダだからって、そのぉ」

「ほう? 他の者に【レッスン】をされるのは、イヤというワケだ♡」

「まぁ♡ まぁまぁ♡」

「うぅ……そ、そうかも?」


 そんなぼくを、なまあたたかい目で見てるママたち……


「ふむ、ならアプリルには【入れさせず】に【手】で出させるに止め…」

「クリスには【膜】を残すことを条件に、【女の悦び】を体験させるか」

「【膜】ぅ!?」

「そうですね……そのあたりが落とし所でしょうか」

「だ、ダメだよっ そんなの!?」

「クリス? これは神託ですよ?」

「そ、そうだけど!?」

「なに、我らも辛いのだ……だがコレも魂を落ち着かせる為のこと」

「じゃあなんでっ ニッコニコしてるのぉ!?」

「おっと……いかんいかん♡」


 わざとらしくお顔をマッサージするルシアママ!?


「それにアプリルも世継よつぎとして、そろそろ婿を迎える勉強をする時期だ」

「なに、それが少々早まるだけだ♡」

「で、でもぉ!?」

「ではアイナ、今度の順番はどうする?」

「ええ、やはり貴女がアプリルさんの最初であるべきでは?」

「そうだな……ではそういうことで」

「ええ……じゃあクリス? 今夜はわたしのお部屋にいらっしゃい♡」

「え、ちょ──もうそれで決まりなのぉ!?」


 そんなわけでぼくとアプリルさんは……

 期間限定の【レッスン】を受けることになりました


 ◇◆◆◇


「お、女の子って……しゅごいぃぃ♡」びくんびくん♡

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