第60話 2回めの、『はじめまして』

「んちゅぅぅぅっ!?」

「んむっ!?」


 突然現れたメイドさんは……なんと【ぼく】にキスをして──

 あ、いやぼくはこっちだから、【ぼく】の姿をしたアプリルさんというか?

 ともかく、そのメイドさんはあっちの【ぼく】のカラダにしがみついて……

 必死なお顔でキスしてる!?


「い……いやぁぁぁっ!?」

「あ、アイナママ!? どうし──」

「く、クリスの唇が……くちびるがぁぁっ!?」

「えと、アイナママ?」


 もしかして、ぼくが他の女の人にキスされちゃってるのがショックだったの!?

 っていうか、今はそれどころじゃない気が~


「くっ 姫巫女まで死んでないとは……どういう事なの!?」

「えっ!?」


 すると、いままで【ぼく】にキスをしていたメイドさんが立ち上がり、

 地面に転がっている【ぼく】をにらみながら、忌々しそうにそういった。

 しかもこのメイドさん……白いエプロンを、血で真っ赤に染めていて──


「あっ 待ちなさ──きゃぁん!?」


 そしてあっちの【ぼく】は慌てて立ち上がろうとするけれど……

 手足を縛られていているから……つんのめって、ひっくり返った。

 お顔から。


「うぅっ 痛そう……」

「くっ なんの能力もないこのメイドでも、縛られていないよりはマシですね!」

「あっ 待て──うわっ!?」


 どんっ


 血まみれのメイドさんはぼくを突き飛ばし、そのまま逃げてしまった。

 さっきからわけのわからない急展開に……

 ぼくもうっ アタマがどうにかなりそう!?


「クリスっ クリスっ 大丈夫ですか!?」

「あ、私は大丈夫ですっ」

「えと、この身体の人は【クリス】っていうんですか!?」

「え? クリス……あなたいったいどうし──」

「あ、はじめまして! 私……【アプリル・インゼルドルフ】といいます!」

「「え?」」

「実は、さっきのメイドさんに私……」

「身体を取り替えられちゃったんです!?」

「「えぇぇぇぇぇっ!?」」


 ◇◆◆◇


「あぁっ ルシアさまっ ルシアさまぁぁっ♡」

「なっ クリス? いったいどうしたというのだ?」

「ルシアさまっ 私ですっ アプリルです!?」

「は……? クリス……お前は何を言って──」

「ルシア? 残念ながら、その子の言うとおりですよ」

「いやアイナ……どうすればこのクリスが、アプリルに見えるのだ?」


 あれから、予定よりだいぶ遅れてぼくたちは……

 馬車に揺られて、やっとぼくたちのおうちにたどり着いたんだ。

 そしてルシアママの顔を見るなり、アプリルさん(?)が抱きついちゃって……


「ルシア……クリスはこっち、なのですよ」

「おぉ、アプリル! 久しいな♪ 壮健だったか?」

「ええと……ルシアママ? ぼく、クリスなの」

「は? アプリルまで何を──」

「ルシア……ともかくわたしたちの話を聞いてください」

「そしてあなたには、して欲しい事もありますので」

「あ? ああ、わかった」


 ◇◆◆◇


 そしてぼくたちは、ルシアママに今までのことをお話して……

 それでもルシアママは半信半疑だったけれど──


「うぅむ……私とアプリルしか知らない事」

「2人きりになってあれこれ質問してみたが……」

「この【クリス】は、見事すべてを答えてみせたぞ?」

「信じがたいが、この者は本当にアプリル──なのだな」

「ええ、こちらの【アプリル】さんの身体の今の主も……」

「わたしとクリスしか知らないことを、全部当ててしまいました」


 お互いに困ったお顔をして、見つめあうママたち。

 ぼくだって困ってるけど……ん?

 なぜかぼくのカラダのアプリルさんは、お顔を真っ赤にしてよろこんでる?


「ええと、どうしたんですか? アプリルさん」

「え? あ……そのっ えへへ♪」

「じ、実はそのぉ ルシアさまがあの時の事を、覚えていてくださって……」

「私、すごくうれしかったんです♪ えへへ♡」

「あのときのこと?」

「ん? あぁ……私を夜這いに来たアプリルが、どんな風に返り討ちに逢ったか」

「その詳細を語らせたのだが……これが見事に的中していてなぁ」

「んなっ!?」

「やぁん♡」

「ルシアっ 貴女という人は……」

「嫁入り前の娘に、いったい何を話させているんですかっ」

「いやいや……これこそ我らしか知らない事ではないか?」

「だからといって、それをわたしたちに漏らしてどうするんです!」

「そ、そうか? アプリルは……嬉しそうだが?」

「やぁん~~~っ♡」


 アプリルさんはルシアママのいうとおり……

 お顔を真っ赤にしながらくねくねと、ふしぎなおどりをおどっていたのでした。


 ◇◆◆◇


「ふむ……ともあれ、クリスとアプリルの身体が入れ替わっている」

「それは間違いないようだな」

「ええ……」


 ルシアママが、姿勢を正してぼくたちに話しはじめる。


「まず、アプリルが隣町に着くまでは問題がなかった……そうだな?」

「はいっ そしてその日はもう暮れかけていたので、街で泊まることにしたんです」

「街に入るとき、私がエルフとわかると、冒険者ギルドの方がやって来ました」

「その方は、ルシアさまの元へ先触れの早馬を出す、そう仰っていました」

「ああ、その報せは確かに受け取った……それで?」

「はい、明日はルシアさまにお逢いする……」

「そう思い、お風呂のある高級な宿に泊る事にしました」

「ふむ……そこにいたのが、クリスの唇を奪ったという──」

「はい、その宿のメイドさんでした」


 ちなみに、ぼくの見た目ではだいたい20歳くらい?

 けっこうキレイだったけど、おっぱいは控えめ(?)なひとでした~


「すごく親切な人で、何度も私の部屋に来て、お世話をしてくれたんです」

「私も一人旅だったから寂しくて、いっぱいお話しちゃったんですけど……」

「ふむ、その時点でも問題はなかった、と?」

「はい……ですがわたしが朝、宿を発とうとしていたら……」

「彼女が私の部屋に来たんです」

「そうしたら突然、私の目の前で……自分の胸を、短刀で突いたんです」

「……むぅ」

「私は慌てて彼女に駆け寄りました」

「すると彼女は私の首に手を伸ばして──」

「キスをした、と」

「はい……目を赤く光らせながら……」

「『その身体、いただきますね』と言っていました」

「ふむ……」


 そこまでは、ほぼぼくと一緒だった。

 自分で自分のカラダを、死の寸前まで追いやって……

 そしてカラダを取り替える……そんな手口みたいだ。


「そして……気づけば私は床に倒れ、激痛と失血にうなされていました」

「必死に【癒しの風】を使おうとしましたが──」

「発動しなかった、と?」

「はい……」

「ですが幸い……他のメイドさんに見つけてもらって」

「宿泊していた神官の方に、傷を癒して頂いたんです」

「ほう、それはまさに幸いだったな」

「はい、そして気づいたんです……私の身体がメイドさんになっているのを」

「おそらく、私の身体と入れ替えられている事に」


 あれは、ショックだよねぇ

 ちなみにぼくも、アイナママたちに質問されたけど……

 【万物真理ステータス】で、アプリルさんが【浄化の風】っていう

 【解毒魔法】の呪文が使えるのがわかったから──


『ひっしで精霊さんにお願いしたら、なおしてくれたみたい?』


 そういったら、納得してくれました。


「その後は……ケストレルの街に向かいました」

「街の守護兵士の方の、馬の後ろに乗せていただいて……」

「メイドである私を刺した犯人、【アプリル】を追うために」

「ほう、それは機転が利いていたな」

「はい、おかげで街の門も待たずに通れました」

「私ひとりでは到底……しかも血まみれの姿では──」

「門番が通す筈もないからな……いや、さすがは聡明なアプリルだな」

「えへへ♪ 恐縮です(ぽぉ♡)」


 ぼ、ぼくのお顔でそんな、ルシアママに恋する目……しないでぇ!?


「その後は、冒険者ギルドを目指して急ぎました」

「そうしたら、そこに人垣ができていて──」

「わたしたちが、あなたの姿をした者と対峙しているのを見つけた……ですね?」

「はい、アイナさ──さん」

「最初は、私の身体に飛びつこうかと思ったんですけれど……」

「あの時のクリスくんの目が、赤く光っているのを見てしまって」

「『あの神官の女性が狙われてるっ』そう思ったら私、無我夢中で──」

「ええ、おかげで助かりました、アプリルさん」

「あなたの機転がなければ今頃、この身体は奪われていたでしょう」

「改めてお礼を言わせてください……ありがとうございました、アプリルさん♪」

「こ、こちらこそっ」

「私を信じていただいて、ありがとうございますっ アイナさんっ」


 そんなふうに、ぼくのカラダで喜ぶアプリルさん。

 ぼくとしては……そのしぐさが可愛すぎて、ちょっと複雑ぅ


「なるほど……しかし殺人犯にされるとは、災難だったな? クリス♪」

「ご、ごめんなさいっ クリスくんっ」

「まさかあの犯人が、あなたと入れ替わっていたなんて……」

「うぅ……いいんですぅ アプリルさんの行動はきっと正しかったし?」

「それにアイナママが、かばってくれましたから」


 あのあと、アプリルさんといっしょに来た女性の兵士さんを……

 アイナママが説得してくれて、ぼくは殺人未遂犯にならずに済んだんだ。

 ともあれこの件は、アイナママの名前で預かることになったみたい。


 そして【万物真理ステータス】で、いまのアプリルさんを【鑑定】しても──


 パッ!

-------------------------------------

・名 前:クリス(人族)

・性 別:男

・レベル:LV63

・状 態:正常

・H P:102561/102569

・M P:826/826

・スキル:【清浄魔法:LV05】【土魔法:LV08】【風精霊魔法:LV13】

     【作法:LV07】【調剤:LV05】【清掃:LV09】【文章作成:LV06】

     【治療:LV03】【薬草栽培:LV04】【魔法具制作:LV06】

                            下画面があります▼

-------------------------------------


 と、ほぼ【ぼく】のステータスだけど……

 なぜか勇者魔法とそのスキルは、ひとつもなかった。

 というか、このアプリルさんのカラダに、ぜんぶ移っていたんだ。


(だから【万物真理ステータス】や【異空収納インベントリ】も使えたし【逆境忍耐ペイシェンス】も発動したのかぁ)

(でも、アプリルさんのお話だと……)

(交換されるのはココロだけで、スキルや魔法はそのままのはずなのに?)


 そして逆に今のぼくは──

 アプリルさんの持つステータスとスキルぜんぶ。

 それに加えて、勇者魔法とそのスキルをぜんぶ持つという状態だった。


(で、今のアプリルさんは【クリス】としてぼくが身につけたスキルだけ、かぁ)

(ん? ……あ、そうか!)


 よく見たら、いまのアプリルさんのカラダには武術系スキルがぜんぜんない。

 武術系スキルはぜんぶ勇者スキルだったから、こっちに移っちゃったんだ!?


(そ、それでさっきぼくを剣で襲ったとき……あんなヘロヘロだったのか!)

(剣術スキルなし、筋力もレベル1相当じゃ、そりゃぁ……ねぇ?)


 でもそのおかげで助かったし?

 結果オーライ?

 そんなふうにぼくが、うんうんと考え事をしていたら~


「ふむ、今までの話を総合すると……犯人の目星がつかなくもない」

「本当ですか、ルシア」

「ああ、魔王軍にな……【悪霊】と呼ばれる者がいるそうだ」

「あ、悪霊……ですか?」

「もちろん本名でもないし、種族名でもない」

「人族の軍隊がそう呼んでいる【二つ名】の様なもので、判っているのは……」

「そいつは、自分の身体と相手の身体を入れ替えることが出来る、そんな能力だ」

「まぁ……」


 ま、魔王軍の残党のしわざ、だったの!?


「いわゆるアンデッドの悪霊は、怨念に取り憑かれ、理性のカケラもないが……」

「そいつは自我を持ち、意図的に何度も自分の身体を入れ替えている」

「そして要人を暗殺したり、軍の高官になりすまし……」

「軍行動を滅茶苦茶にし、自軍に大被害を与えたこともあったそうだ」

「な、なんて卑劣な……」

「ああ、そしてヤツの存在が判明したのは、滅茶苦茶な軍行動をした高官──」

「そいつの身体の【元の持ち主】……その者が死なずに助かり、証言したそうだ」

「『自分は身体を入れ替えられた』そして『その直前に自ら自刃していた』とな」

「で、では……」

「ああ、同じだな」


 これは……もうそいつで間違いないかも。


「ただ、今回の件で判ったことがある」

「判った事……ですか?」

「まず、アプリルの証言」

「ヤツは身体を取り替える際【キス】をする必要がある」

「はい、ずいぶん長く……キスをされました」

「なるほど、一瞬ではダメなのかもしれんな……クリスもそうなのか?」

「うん、わりと長めなかんじ?」

「とつぜん抱きしめられて、驚いてるあいだにされちゃったんだ」

「アプリルさんの、唇の感触は?」

「え? すごくやわらかくて、しっとりしてて……それからいい匂いがして──」

「ほう?」

「まぁ……」

「ではその感触、消しておく必要があるかな?」

「えっ!?」

「ええ……急いだほうが良いようですね」

「えっ えっ!?」


 そういうと、ルシアママがぼくに近づいてきて──


「では──んちゅ♡」

「んむぅっ!?」

「ルシアっ 貴女という人は……また抜け駆けをして!?」

「ちゅ……【手ほどき】では先を譲ったのだ、これくらいいいだろう? ちゅ♡」

「ちょ──ルシアママっ これ……アプリルさんのカラダ!? んむぅぅ!?」

「ちゅぅ♡ 問題ない……むしろクリスの記憶に刻みつけているのだ」

「も、問題ありまくり──んむっ」

「るっ ルシアママぁ!? あのとき、舌は入れてなかったよぉ!?」

「れろっ くちゅぅっ♡」


 そんなルシアママの舌技に翻弄されるぼく……

 そしてふと見えた、アプリルさん(現ぼくのカラダ)を見れば──


「あぁ、あぁぁ……私がルシア様と、あんな淫らなキス……してるぅ♡」

「きき……キマシタワ──っ♡」

 .*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*……


 なぜだかお顔を真っ赤にして、びくんびくん▽ と震えていたのでした……

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